iPS細胞物語 season2

第11回 iPS細胞を利用して、難病のメカニズムに迫る

掲載日:2013年3月6日

iPS細胞の医療応用というと、失った臓器を再生するような「再生医療」を想像する人が多いかと思います。しかしそれよりも早く実現しつつあるのは、iPS細胞による「疾患の再現」と「薬の開発」です。今回はその中でも、iPS細胞を使って疾患を再現するとはどういうことなのか、何ができるのかを見ていきましょう。

2012年1月、カリフォルニア大学サンディエゴ校のIsrael博士らのグループが、アルツハイマー病を発症した患者からiPS細胞を樹立し、そこから神経細胞に分化させて、その性質を解析したとして科学論文雑誌『Nature』に報告をしました(※1)。これまでにアルツハイマー病患者の皮膚からiPS細胞を作製したという報告はありましたが、神経細胞に分化させて症状が確認されたのは初めてです。

アルツハイマー病は患者数が世界で1500万人以上にもなる脳の疾患で、認知症を引き起こす事がよく知られています。しかしこれほどにも患者数が多いにも関わらず、発症のメカニズムについてはまだ詳細が不明であり、治療方法も確立されていないのです。その理由のひとつに、脳という重要な器官の疾患であるために、生きた状態で発症した部位のサンプルを取ることがでないことが挙げられます。これまでアルツハイマー病の患者に関する研究は、亡くなった後に行うことしかできなかったのです。そこで、Israel博士らは、患者の皮膚の細胞からiPS細胞を経由して神経細胞を作製しました。そして、発症後の脳に見られるような異常が、シャーレの中の神経細胞でも見られることを確認したのです。

「第11回 iPS細胞を利用して、難病のメカニズムに迫る」の図

それでは、シャーレの中でアルツハイマー病の神経細胞を再現することで、どんなことを調べられるようになったのでしょうか。患者の脳内では、β-アミロイドというタンパク質が沈着し、その後リン酸化タウタンパク質が増加、そして神経細胞が死に始めることがわかっています。しかし、この一連の流れがどのようにして起こるのかはわかっていませんでした。Israel博士らの研究では、シャーレの中の神経細胞に薬剤を投与して、細胞内でβ-アミロイドが産生される反応を途中で止め、リン酸化タウタンパク質量への影響を調べました。その結果、リン酸化タウタンパク質を増加させるのはβ-アミロイド自体ではなく、別の要因であることがわかったのです。論文では、さらに神経細胞の内部でタンパク質を分解するエンドソームという構造が患者と健常者の細胞でどのように異なるかについて、エンドソームを光らせて観察することで調べようとしています。

このような、薬剤を投与して反応経路を調べたり、生きた状態の細胞内部を観察したりする研究は、これまで行うことができませんでした。皮膚の細胞からiPS細胞を経て症状を示す細胞を作ることで、それが可能になったのです。

様々な疾患のメカニズム解明や治療法開発を目指して、今、多くの研究者が研究を開始しています。例えば慈恵医科大学の衛藤義勝教授はポンペ病モデルマウスからiPS細胞を作製(※2)、また京都大学iPS細胞研究所の中畑龍俊教授が、クリオピリン関連周期性発熱症候群(CAPS)患者からiPS細胞を作製したことを報告しています。これらの研究はまだ始まったばかりですが、「患者自身の細胞を使った研究」がもたらす今後の成果に、期待が高まります。

※1
Mason A. Israel, Shauna H. Yuan, Cedric Bardy, Sol M. Reyna, Yangling Mu, Cheryl Herrera, Michael P. Hefferan, Sebastiaan Van Gorp, Kristopher L. Nazor, Francesca S. Boscolo, Christian T. Carson, Louise C. Laurent, Martin Marsala, Fred H. Gage, Anne M. Remes, Edward H. Koo & Lawrence S. B. Goldstein, Probing sporadic and familial Alzheimer's disease using induced pluripotent stem cells. Nature 482; 216-220

※2
Shiho Kawagoe, Takashi Higuchi, MengXing-Li, Yohta Shimada, Hiromi Shimizu, Reimi Hirayama, Takahiro Fukuda, Hsi Chang, Tatsutoshi Nakahata, So-ichiro Fukada, Hiroyuki Ida, Hiroshi Kobayashi, Toya Ohashi, Yoshikastu Eto, Generation of induced pluripotent stem (iPS) cells derived from a murine model of Pompe disease and differentiation of Pompe-iPS cells into skeletal muscle cells. Molecular Genetics and Metabolism 104; 123-128

制作 : 株式会社リバネス

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