iPS細胞物語 season2

第9回 再生医療の実現を加速する「再生医療の実現化プロジェクト」

掲載日:2013年1月31日

iPS細胞が日本で発見されてから数年の間に、世界中で研究が行われ、たくさんの成果が報告されてきました。しかし、再生医療の実現にはまだ越えなければならない技術的な問題があるだけでなく、研究を推進するための体制を構築するという課題があります。治療という具体的なアプローチに向けて、基礎研究、臨床研究、最先端医療を実施するため患者への説明を行う環境や医療技術開発そして知的財産の支援などの体制作り、そしてこれらの研究を橋渡しすることが求められています。

そこで、日本では2009年12月に、日本発の革新的な技術であるiPS細胞の研究開発の推進と最先端医療への実用化を、「オールジャパン体制」で戦略的に促進するという基本方針が閣議決定されました。それに伴い、iPS細胞等研究拠点が京都大学、慶應義塾大学、東京大学、理化学研究所の4か所に設置され、これら拠点機関とその他の個別研究実施機関の連携が図られています。
平成23年度に始まった、「再生医療の実現化ハイウェイ」構想について触れておきましょう。これまでは文部科学省、厚生労働省、経済産業省がばらばらに研究支援を行っていたのに対して、この構想では省間の壁を越えて有機的に連携をはかり長期間支援を行うことになっています。平成23年度は、「短期で臨床研究への到達を目指す再生医療研究」、「中長期で臨床研究への到達を目指す再生医療研究」と、「再生医療の実現化を目指す研究の支援」、「生命倫理等の課題の解決に関する研究」の公募が行われ、研究が進んでいます。例えば、臨床研究に近い段階に来ている体性幹細胞研究(滑膜幹細胞による膝半月板再生や角膜内皮細胞移植による角膜内皮の再生など)では1~3年後までに臨床研究を始めることを目指しています。これらの研究費は、文部科学省と厚生労働省が共同して採択を行い、もし結果が芳しくないようであれば支援を打ち切ることで、研究をスムーズに進めることが図られています。さらに基礎研究と並行して、再生医療の基盤となる周辺機器の開発など産業基盤の構築に関しては、経済産業省が担当しています。

再生医療の実現を加速する「再生医療の実現化プロジェクト」の図

このプロジェクトの一環として、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)では再生医療用iPS細胞バンクの構築の準備が現在進められています。iPS細胞バンクとは、文字通りiPS細胞を保存しておく施設で、平成24年度にスタートすることを山中伸弥教授が発表しました。iPS細胞を使った再生医療は、自分の細胞を使って移植するために拒絶反応が起こりにくいことが利点として説明されています。しかし、患者から皮膚などの細胞を採取しiPS細胞にしてから目的の細胞に分化させ移植するとなると、かなりの時間が必要となってしまうことが問題点として考えられています。こうした背景から、あらかじめ健康な人から体細胞を採取してiPS細胞を作製し、増殖させてから凍結保存しておくことで、緊急の手術などで必要になった時にすぐに分化させて細胞治療に使えるようにしようという動きが生まれてきたのです。

iPS細胞バンクでは他人のiPS細胞を患者に使うことから、免疫拒絶反応が懸念されます。移植時に免疫拒絶反応が起こるかどうかは、血液中にある白血球のHLA型という特徴が、細胞の提供者と患者で似ているかどうかがポイントになります。似ているほどリスクが少ないと考えられています。
2008年に京都大学の中辻憲夫教授らが、この課題克服を前進させる論文をNature Biotechnologyに発表しました(※1)。HLAにはA座、B座、C座、D座、DR座などの複数のタイプがあることがわかっています。その組合せは非常に多様ですが、ごくまれに、A座、B座、DR座の3つが父由来と母由来で同じになっている人がいます。このタイプは、一部のHLAの型に対して組織の拒絶反応が低いことがこれまで知られていました。
中辻教授は、日本人にiPS細胞を移植する場合、このタイプのHLA型を持つiPS細胞をどの程度準備すればよいのかを計算したところ、30種類あれば82.2%の日本人がHLA型適合のiPS細胞を得ることができるという結果が得られました。また、現在ある臍帯血バンクや骨髄バンクを検索すると、確率的には15000人のドナーがいれば、この特殊なタイプのHLA型を持つ人が30人いることがわかりました。このようなドナーから皮膚などの体細胞から作製したiPS細胞をiPS細胞バンクに保存しておくことで、拒絶反応の少ない患者にあったiPS細胞で再生医療を行うことが期待できるのです。

※1
Norio Nakatsuji, Fumiaki Nakajima & Katsushi Tokunaga, HLA-haplotype banking and iPS cells, Nature Biotechnology 26: 739-740

制作 : 株式会社リバネス

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