iPS細胞物語 season2

第8回 ES細胞を用いた医療

掲載日:2013年1月10日

ES細胞やiPS細胞を使った再生医療に向けて、日本だけでなく世界中が研究に取り組んでいますが、未来の医療に先駆けて臨床試験がすでにスタートしているものがあります。

世界初のES細胞を使った臨床試験を行ったのは、アメリカの企業ジェロン社でした。2010年10月、彼らはヒトES細胞からオリゴデンドロサイト前駆細胞に誘導したものを含む細胞集団「GRNOPC1」を骨髄損傷の患者に注射し、15年間経過観察を行う試験を始めると発表しました。オリゴデンドロサイトとは、神経系を構成する神経細胞以外の細胞で、神経伝達に重要なミエリンを作ったり神経栄養因子を産生したりする、非常に重要な働きをしています。この細胞を移植することによって、損傷部の神経の回復や運動機能の改善が期待されるというわけです。
また2010年11月には、アメリカの企業アドバンスト・セル・テクノロジー(ACT)社らのグループにより、眼病患者と黄斑変性症の患者に対してES細胞を使って行う臨床試験が始まりました。
さらに日本でも、国立成育医療研究センターが臨床試験を計画していると、2011年11月にニュースになりました。ES細胞を肝細胞に誘導した細胞を、先天的に代謝異常でアンモニアの分解ができない0歳児の患者に対し移植するという治療で、2012年2月現在、所内の倫理委員会の承認待ちだということです。

「ES細胞を用いた医療」の図

ところが、このように世界中で臨床試験の実施やその準備が進む中、2011年11月、ジェロン社が臨床試験の打ち切りを発表しました。理由は「コストがかかりすぎる」ということです。これまでの中間報告では、4人の患者に対し治療を行い、重大な副作用などは確認されていないとのことでした。今後が期待されていただけに、非常に残念な決断です。
ジェロン社の取り組みがこのような結果になってしまった要因のひとつに、アメリカでは国の資金が入らずに民間の企業が独自に臨床試験を行っていることが挙げられます。また、脊髄損傷の患者に対する治療は非常に複雑な過程を経て回復へと向かうと考えられ、そのため効果が見えにくく、15年もの経過観察が必要であることも高コストになった要因と考えられます。
一方で、2例目のACT社の臨床試験は、対象が眼の表面なので治療が行いやすく、また効果が判断しやすいという利点があります。2012年1月、イギリスの医学雑誌『Lancet』には、2名の患者に対して視力の改善などの効果がみられたことが報告されました(※1)。しかし、この論文の正当性を疑うコメントも出されており、現在、有効性に関してはまだ結論が出ていません。

ES細胞を使った臨床試験に少し遅れることにはなりましたが、iPS細胞の臨床試験に向けた動きも始まっています。独立行政法人理化学研究所、財団法人先端医療振興財団、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの3者により、iPS 細胞から網膜色素上皮細胞を作製し、加齢黄斑変性病患者に対する臨床研究を目指すことが2011年4月に発表されました。また、2011年11月には、京都大学医学部附属病院に、iPS細胞研究所(CiRA)と協力し再生医療を行うための基盤整備をするための機関、iPS細胞臨床開発部が設置することが発表されました。

このように、文部科学省の「再生医療の実現化プロジェクト」の研究拠点である、京都大学、東京大学、慶應義塾大学、理化学研究所を中心とした日本国内における体制作りは、ES細胞、iPS細胞の医療の実現を推し進めていくことができるでしょう。基礎的な研究をする研究者と臨床応用をする医療チームが一緒になって、再生医療に関わる様々な問題に取り組んでいくことが重要なのです。

※1
Schwartz SD, Hubschman JP, Franco-CardenasGHV, Pan CK, Ostrick RM, Mickunas E, Gay R, Klimanskaya I, Lanza R, Embryonic stem cell trials for macular degeneration: a preliminary report, Lancet 379 (9817): 713-20

制作 : 株式会社リバネス

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