iPS細胞物語 season2

第5回 iPS細胞と免疫反応

掲載日:2012年11月7日

2011年5月13日、カリフォルニア大学のZhao博士らにより、iPS細胞に関する驚きのニュースが科学雑誌『Nature』のオンライン版で発表されました(※1)。それは、iPS細胞を移植したマウスに、免疫拒絶反応がみられたという内容だったのです。なぜ、この報告が驚きだったのでしょうか。

ヒトの体では、微生物や自分以外の細胞などが入ってきた時に免疫反応が起こり、その細胞を殺そうとします。今ではよく行われるようになった生体移植でも免疫反応が起こり、移植された組織を殺そうとする反応が起こります。これを抑えるために患者は免疫抑制剤という薬を飲み続けなければなりません。そのため、患者にとっては大きな負担となります。iPS細胞は自分の組織からとった細胞で作れるので、免疫反応が起こらないというのが、注目されている理由の1つです。このような背景があるため、マウスにiPS細胞を移植してみたら免疫拒絶が起こったという報告は、将来の夢の治療に対する警告となったのです。

この論文では、マウスにES細胞とiPS細胞を移植して、一定期間たった後に腫瘍が形成されている、もしくは免疫拒絶反応が起きているかどうかを調べています。ある種類のマウスから採取されたES細胞を、それとは異なる種類のマウスに移植すると、免疫拒絶反応が起きます。しかし同じ種類のマウスに移植すると、腫瘍はできても、拒絶反応は起こりませんでした。一方、iPS細胞を同じ種類のマウスに移植したところ、なんと免疫拒絶反応が起きたのです。そしてこのiPS細胞の免疫拒絶反応は、免疫反応で働くT細胞が重要な役割を果たしているということもわかりました。

この論文に対し、2011年9月、山中教授と沖田講師により論文の形式でコメントが出されました(※2)。
これまで免疫拒絶反応は起こらないという前提で研究がなされていたので、Zhao博士の論文はとても重要な示唆を含んでいることを認めました。しかしながら、1種類のES細胞と数種類のiPS細胞しか実験に用いておらず、きちんと結果を議論するためには足りないということを指摘しています。また、この論文で用いた胎児細胞由来のiPS細胞は、なんらかの組織の成熟細胞へと分化誘導を行なわず、未分化な細胞のまま体内に導入しました。現在想定されている移植では、患者本人から採取した細胞からiPS細胞を作り出し、その後、目的の細胞に分化誘導をした細胞を移植します(図1)。つまり、未分化なiPS細胞は移植することはないのです。その点で、今後の治療を見越した研究をするためには、分化誘導したiPS細胞を使用するべきだと主張しています。また、未分化な細胞が体内に移入されるとがん化する可能性もあります。その結果、移入されたiPS細胞をがんになる可能性のある細胞(がん原細胞)だと免疫細胞が認識して、攻撃したのかもしれません。つまり、iPS細胞に対する免疫拒絶ではなく、がん原細胞に対する反応だったとも考えられると論文の中でコメントしています。

「iPS細胞と免疫反応」の図

一方で、ES細胞もiPS細胞も、培養することによってDNAに突然変異が起こるという報告もあります。そのため、これらの細胞を分化させると通常とは異なる性質を示し、体内に移入すると免疫細胞に攻撃されてしまう可能性もあります。この可能性を確かめるためにも、数多くの種類の細胞で実験を行うことが重要なのです。

結局、現時点ではiPS細胞に対して免疫拒絶反応が起こったのかどうかは決着がついていません。将来の再生医療を考えると、iPS細胞を体外で培養したり分化させたりした場合に、どのようなことが起こるのかということは、詳細に明らかにする必要があるということは間違いないでしょう。将来の医療を考えるためにも、いち早く解明されることが期待されます。

※1
Tongbiao Zhao, Zhen-Ning Zhang, Zhili Rong & Yang Xu, Immunogenicity of induced pluripotent stem cells, Nature 474, 212-215

※2
Keisuke Okita, Naoki Nagata and Shinya Yamanaka, Immunogenicity of Induced Pluripotent Stem Cells, Circulation Research 109: 720-721

制作 : 株式会社リバネス

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