iPS細胞物語 season2

第4回 iPS細胞を利用した遺伝子治療

掲載日:2012年10月25日

「万能細胞」とも呼ばれるiPS細胞の将来的な利用法としては、そこから様々な組織や臓器を作り、再生医療に用いるというイメージを多くの方が持っているのではないかと思います。その際に行う、患者の体から細胞を採取し、体外でiPS細胞化し、細胞培養を行うというステップの中に、「遺伝子治療」という操作を加えることができると考えられています。

遺伝子治療というのは、もとのDNA配列の情報が変わってしまって疾患の原因となっている遺伝子を正常なものと入れ替えるために、体外から正常な遺伝子を導入するという治療法です。私たちの体はとても多く(1kgあたり約1兆個)の細胞からできているため、そのひとつひとつに遺伝子導入を行うためには工夫が必要です。
iPS細胞が開発される以前は、非常に重篤な一部の疾患についてはまだ細胞がひとつしかない受精卵の段階で遺伝子導入を行い、その他の疾患についてはウイルスを用いて体内に遺伝子を運ばせるという方法が取られていました。それが現在は、iPS細胞を体外で培養する過程で遺伝子治療を行い、うまく治療された細胞だけを増やして組織を作り、体内に戻すということが可能になったのです。

2011年10月、そのような治療の有効性を実証する研究成果が報告されました。それを成し遂げた研究グループは、日本人の遊佐宏介博士を含むイギリスのウェルカムトラストサンガー研究所、茨城県にあるベンチャー企業ディナベックなどが参加するグループです(※1)。
この研究で治療対象となったのは、先天性の肝臓疾患である「α1アンチトリプシン欠損症」です。α1アンチトリプシンという酵素を体内で作ることができないため、肝細胞内で多数のタンパク質同士が結合してしまい、結果として肝硬変を引き起こすという疾患で、これまでは肝臓移植以外に治療方法がありませんでした。
研究グループは、まず患者から採取した皮膚の細胞からiPS細胞を作りました。そして、変異型のα1アンチトリプシン遺伝子を正常なものに入れ替え、そのiPS細胞から肝細胞を作りました。その肝細胞を、同じ疾患を持つマウスに移植したのです。すると、マウスの肝臓全体にヒトiPS細胞由来の組織が行き渡り、α1アンチトリプシンを作っていることが確かめられました。また、移植をしたどのマウスでも腫瘍は形成されていなかったのです。

「iPS細胞を利用した遺伝子治療」の図

実はこのマウスを使った移植の研究ではもう1つ大きな成果が得られています。そのことについて触れておきましょう。培養細胞に遺伝子治療を行う場合には、うまく遺伝子導入が成功した細胞だけを選別するための目印が必要となります。その目印は、もともと細胞内には無かったものなので、細胞を体内に移植したあと、長期的にどのような影響を与えるかが未知数なのです。今回の研究では、体内に移植する前に余計な目印を完全に除去することにも成功しています。

iPS細胞を治療に応用する研究は、まだ始まったばかりです。もし移植を行ったあと、長期間が経過した後で何か問題が起きたら……その可能性は、誰にも検証できていません。だからこそ、できる限り人為的な改変を少なくすることで、予期せぬトラブルの可能性を減らすことが重要なのです。

※1
Kosuke Yusa, S. Tamir Rashid, Helene Strick-Marchand, Ignacio Varela, Pei-Qi Liu, David E. Paschon, Elena Miranda, Adriana Ordonez, Nicholas R. F. Hannan, Foad J. Rouhani, Sylvie Darche, Graeme Alexander, Stefan J. Marciniak, Noemi Fusaki, Mamoru Hasegawa, Michael C. Holmes, James P. Di Santo, David A. Lomas, Allan Bradley &s; Ludovic Vallier, Targeted gene correction of a1-antitrypsin deficiency in induced pluripotent stem cells, Nature 478: 391-394

制作 : 株式会社リバネス

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