iPS細胞物語

第15回 iPS細胞が切り拓く未来-5 iPS細胞の未来

掲載日:2009年8月28日

15回にわたってiPS細胞を取り巻く状況をレポートしてきました。最後となる今回はiPS細胞が切り拓く未来について考えてみましょう。

現在再生医療の実現に向け研究が行われている主な細胞としては、体中に存在する幹細胞(体性幹細胞)、ES細胞、そしてiPS細胞があります。それぞれメリットとデメリットがあります。
体性幹細胞は自らの細胞を用いれば移植による拒絶の問題を回避できます。しかしある程度分化しているので用途が限られてしまいますし、増殖にも限界があります。
登場時は万能細胞と謳われたES細胞には、様々な種類に分化する能力があり、無限に増殖できるので量の問題もありませんが、倫理的問題と移植後の拒絶の問題が付きまといます。
iPS細胞はこれまで述べてきたように胎盤以外の全ての細胞に分化することができ、自らの細胞を用いてiPS細胞を作れば、移植による拒絶の問題も回避できます。
倫理的問題や拒絶の問題はクリアしますが、ガン化の可能性が現在では否定できていません。ガン化の可能性を低減する研究が必要になるでしょう。(Table 1)

Table 1 細胞の種類と特徴
細胞種 体性幹細胞 ES細胞 iPS細胞
作製法 体中に存在する 胚を壊して作製する 様々な細胞から作製できる
移植時の拒絶 自己細胞を利用すれば拒絶が起きない 移植の際に免疫拒絶の可能性がある 自己細胞を利用するので拒絶が起きない
腫瘍化の恐れ 腫瘍化する可能性は低い 腫瘍化する可能性がある 腫瘍化する可能性がある
その他 採取に侵襲が伴う 分化させることに成功した細胞種はまだ少ない 分化させる技術はES細胞の知見を利用できる
臨床試験について 既に世界中で臨床試験が進んでいる 臨床試験が1件進行中 臨床試験は行われていない
画像:Fig.1 幹細胞の利用

Fig.1 幹細胞の利用

以上のようにそれぞれの細胞にはメリットとデメリットがありますが、実用化のためには更に、細胞を培養し、目的の組織細胞に分化させ(体性幹細胞の場合は必要ありません)、分化した細胞を投与する形に加工する必要があります(Fig.1)。
投与する際には細胞の懸濁液にして注射によって患部に与える場合、細胞を培養してシート状にする場合、担体の上で細胞を培養して3次元の構造にする場合があります。
目的とする組織や治療法によって用いる分化や加工の方法が異なることになります。すると事業として見れば、同一規格のものを大量に作製することが有利ですので、新しいビジネスモデルも求められています。

また、3種類の細胞の中で最も研究の歴史が長く、応用研究も進んでいる体性幹細胞については、それを用いた再生医療が既に実用化されています。
株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングは日本で初めての再生医療製品として、患者自身の表皮細胞を培養し、シート状に形成して患者自身に使用する「自家培養表皮」を厚生労働省の製造承認を受けて販売を開始しています。
株式会社セルシードはフランスのリヨン国立病院で、自家培養角膜上皮の臨床試験を開始しています。
その他にも臨床試験が世界中で進行中しています(Fig.2)が、体性幹細胞の増殖能は限られていますので、将来的にはiPS細胞が必要になってきます。その時には体性幹細胞で得られた臨床試験の知見がiPS細胞を用いた再生医療にも活かせる重要なものとなるはずです。

画像:Fig.2 幹細胞を用いた臨床研究の累計実施件数(2009年6月現在)

Fig.2 幹細胞を用いた臨床研究の累計実施件数(2009年6月現在)

ヒトiPS細胞が世界で初めて作製されてたのは2007年11月。それからまだわずかな時間しか経っていませんが、その研究競争は他の分野と比べ物にならないペースで進んでいます。
学術的にも、産業面からみても非常にインパクトが強く、そして人類のQOL(Quality of Life)向上にも非常に意味のある研究成果です。
日本からそのような技術が出たことを誇りに思い、正しく理解するよう努め、正しい方向に成長するように見守りながら、この技術の切り拓く未来を想像してみましょう。
きっと、明るい未来に続いているはずです。

(完)

制作 : 株式会社リバネス

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