iPS細胞物語

第11回 iPS細胞が切り拓く未来-1 iPS細胞による再生医療

掲載日:2009年6月29日

画像:鎌状赤血球症

2007年12月6日、米科学雑誌「Science」の電子版に米ホワイトヘッド生物医学研究所のRudolf Jaenischらの研究グループが、iPS細胞を用いてマウスの鎌状赤血球貧血症を治療することに成功したと発表しました※1
鎌状赤血球貧血症は、赤血球にあるヘモグロビンと呼ばれる酸素を運ぶたんぱく質に異常が生じ、赤血球中の酸素の量が低下して赤血球が鎌のような形に変形する遺伝性の病気です。鎌状赤血球症は重度の貧血を引き起こし、腎臓、脳、骨、その他の臓器に損傷を与えることがあります。
全世界で数千万人の患者がこの病気に悩まされていますが現段階では根本的な治療をすることはできず、貧血をコントロールし症状を緩和する対症療法が主に行われてきました。

ところがJaenischらの研究グループは、iPS細胞を使って鎌状赤血球症のマウスを治療することに成功したのです。
まず、鎌状赤血球症のマウスの皮膚からiPS細胞を作り、白血球や赤血球など血液中の血球を作りだすもととなる細胞(造血幹細胞と言います)に分化させ、遺伝子組換えにより鎌状赤血球症を引き起こす原因遺伝子を正常な遺伝子に置き換えました。その後、造血幹細胞を鎌状赤血球症のマウスに移植したところ、移植した造血幹細胞がマウスの体内で正常な血球の生産を始め、結果として鎌状赤血球の症状が治癒されたと報告しています。
生涯に渡り正常な血球を作り続けることができるか、ヒトへの応用は可能であるかなど未だ検証の余地は残されてはいますが、この結果はiPS細胞の再生医療での実用化に向けて大きな一歩を踏み出したといえるでしょう。

iPS細胞の最大の利点は、患者自身の体細胞から作りだせるということです。
仮にES細胞を用いて同様の研究を進めた場合、造血幹細胞を移植した後に拒絶反応を引き起こす可能性が否定できず、患者にとって重大な影響を与えかねません。拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を使用する試みもありますが、免疫抑制剤の副作用で感染症の罹患や高血圧、肝臓・腎臓の機能障害などの副作用をもたらすという問題が残されています。
また、受精卵の胚を用いて作るES細胞は、倫理的な観点から胚の入手が難しく、作製手順が非常に複雑で一部の研究所でしか作ることができないことも課題となっていました。
iPS細胞を用いることによって、これまで克服できなかったこれらの問題を回避し、再生医療への道を大きく切り開くであろうと期待が高まります。

次回もiPS細胞を用いた再生医療研究についてご紹介します。

※1
Hanna J, Wernig M, Markoulaki S, Sun CW, Meissner A, Cassady JP, Beard C, Brambrink T, Wu LC, Townes TM, Jaenisch R. Treatment of sickle cell anemia mouse model with iPS cells generated from autologous skin. (2007) Science. 318(5858):1920-3.

制作 : 株式会社リバネス

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