iPS細胞物語

第10回 iPS細胞、待望の誕生-5 既に始まったiPS細胞の利用

掲載日:2009年6月18日

iPS細胞といえば再生医療への応用というイメージが先行していますが、それ以外の応用についても研究が進んでいます。
その一つが創薬研究への応用です。
新しい薬を開発する道のりには3つのプロセスがあります。最初の段階は新薬の候補となる化合物を探索してその中から生理活性を示す物質を同定する探索研究、次に薬物の効き目や毒性などを動物実験で検討する前臨床試験、最後にヒトに投与して効果や安全性を試験する臨床試験(治験)の3つです。10~20年かけて全ての試験をクリアした医薬品だけが市場で販売できるのです。
このように創薬研究には非常に長い道のりと莫大な費用がかかっていますが、iPS細胞を利用することによってこのプロセスを効率化し、創薬力を向上させるというアプローチが始まっています。
今回はiPS細胞を用いた創薬研究についてみていきましょう。

2009年2月、東京医科歯科大学の安田賢二教授は、iPS細胞を使って新薬の候補となる物質が心臓へ与える副作用を正確かつ素早く検査する方法を開発したと発表しました。
新薬の開発で最大の懸念となるのがヒトへの副作用。新薬開発中止の主な原因となり、最終段階の臨床試験で副作用が判明した場合、数十億から数百億の開発費が無に還ってしまうことになります。
臨床試験において新薬を投与された被験者にも何らかの悪影響を与えることになるため、創薬プロセスの早い段階で副作用を見つけだすことが求められていました。

画像:iPS細胞の利用

特に心臓への副作用は動物実験では検証することが難しく、臨床試験で人に投与しないと明らかにできないことが問題となっていましたが、安田教授の研究により、iPS細胞から分化させた心筋細胞の塊に、心臓に悪影響を与える薬剤を加えると不整脈に似た心電図の波形が検出できることが実証され、臨床試験の予備試験として非常に有効的な手段となることが期待されています。
2009年5月18日には、経済産業省経済産業省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や武田薬品工業株式会社などと新組織を結成して、4年以内にiPS細胞を用いた臨床試験前の医薬品の副作用を予測する手法を開発し、産業化を目指すと発表しています。

創薬研究以外にも、患者自身の造血幹細胞から輸血に必要な血液製剤を作り出して拒絶反応のない効果的な輸血方法を開発する試みや、網膜を再生して視覚機能を回復させる試みなど、日本国内の研究所では今もなおiPS細胞の医療分野への応用に向けて様々な取り組みが行われています。
2008年11月18日には、独立行政法人科学技術振興機構が、米国カリフォルニア再生医療機構とiPS細胞などの幹細胞研究において国際的な協力体制を構築する覚書を締結し、創薬や再生医療への応用に向けて共同研究を進めていく方針を固めています。実用化にはまだ改善するべき問題が残されているとはいえ、「患者自身の細胞から作られる」というiPS細胞の最大の利点は、医療界に大きな変革をもたらすと期待が高まります。

それでは次回からiPS細胞が切り拓く未来と題し、iPS細胞を使った再生医療の研究に注目してお送りします。

制作 : 株式会社リバネス

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