iPS細胞物語

第9回 iPS細胞、待望の誕生-4 iPS細胞の課題2

掲載日:2009年6月2日

c-Myc遺伝子を除いた作製方法を確立したことで、再生医療への実用化に向けて一歩前進したiPS細胞の研究。しかし、まだ技術的にも克服するべき問題を抱えています。

克服するべき問題は、iPS細胞の作製に必要な遺伝子を細胞内部に送り込む方法にあります。細胞内に遺伝子を送り込む実験で一般的に使われるツールとして、ウイルスベクターというものがあります。これは天然のウイルスをうまく利用して作られました。
ウイルスは細胞に感染する時にウイルス自身が持つ遺伝子を細胞の中に送り込み、細胞側の働きを利用してウイルスのタンパク質を生産するというライフサイクルを持ちます。その結果、生物に病気を引き起こすことがありますが、病気を引き起こす性質(病原性)を取り除き、細胞に感染する機能だけを残せば、優れた「遺伝子の運び屋」として利用できるのです。
この遺伝子の運び屋として改造されたウイルスを総称してウイルスベクターと呼んでいます。ベクターとして利用されるウイルスにはいくつかの種類があり、代表的なものにレトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルスなどがあげられます。

画像:ウイルスベクター

山中教授のグループが用いたのは「レトロウイルスベクター」でした(第6回参照)。レトロウイルスは細胞に感染すると、ウイルスの遺伝子を細胞のゲノムDNAに組み込むという特徴があり、これを用いて細胞内に送り込んだ遺伝子は、比較的安定して働くというメリットがあります。
しかしその一方で、細胞のゲノムDNAのどの部分に組み込まれるかが特定できないため、重要な遺伝子に何らかの影響を与える可能性を否定できません。実際に、レトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療では、遺伝子が組み込まれた場所の近くにあった癌遺伝子が活性化され、白血病を引き起こした例も報告されています。

この問題を解決するために、米国ハーバード大学のKonrad Hochedlingerらは、細胞のDNAに遺伝子を組み込まず一時的に細胞内に遺伝子を送り込むことができるアデノウイルスベクターを用いてiPS細胞を作製することを試み、その成果を2008年9月25日に米科学雑誌Scienceに発表しています。
しかし、ウイルスベクターに共通する問題として、ウイルスが病原性を取り戻す可能性がゼロではないこと、ウイルスの保存が困難なため頻繁にウイルスを作製する必要がありコストがかかることなどが依然として指摘されていました。

最適なiPS細胞作製方法の確立については世界中の研究者が激しいデットヒートを繰り広げている重要課題であり、アデノウイルスベクターを用いたiPS細胞作製の発表から半月も経たないうちに、ウイルスベクターを用いずにプラスミドという環状DNAを遺伝子の運び屋としてiPS細胞の作製に成功した、というニュースが立て続けに流れました。山中教授のチームも2008年10月9日にScienceのオンライン速報版で発表しています。
そして、2009年4月25日、ついに米独の研究チームが「遺伝子を細胞に送り込まないiPS細胞の作製法」を実現しました。その方法は、山中ファクターである4つの遺伝子から作製したタンパク質を直接マウスの細胞内に入れるというもの。4つのタンパク質は細胞内に入ってから48時間後には自然に消滅するため癌化の心配も少ない。この新しい手法で作製されたiPS細胞は、タンパク質(Protein)の頭文字をとり「piPS細胞」と命名されました。(タンパク質を導入しiPS細胞作製参照)
実用化に向けてヒトpiPS細胞の作製に成功するかが今後の鍵になりそうです。

次回からは、既に始まっているiPS細胞の実用化についてご紹介します。

制作 : 株式会社リバネス

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