iPS細胞物語

第8回 iPS細胞、待望の誕生-3 iPS細胞の課題1

掲載日:2009年5月18日

山中教授の手により誕生したiPS細胞。ES細胞が抱える倫理的問題や移植時の拒絶反応を解決し得る多能性幹細胞として、世界の注目を集めています。再生医療の切り札として国際的な研究開発競争にも火をつけましたが、iPS細胞には、まだ技術的な問題点が残されています。

iPS細胞が抱える最大の懸案事項は、細胞が癌化してしまうことです。山中教授のグループでは、手を加えていない通常のマウスの受精卵にiPS細胞を移植し、iPS細胞由来の細胞と通常の細胞が混ざった細胞で全身が構成されるキメラマウスを作製するという実験を試みましたが、産まれてきた子供の20~40%は甲状腺などに腫瘍ができたと報告しています。癌化の原因の一つは、iPS細胞を作り出す際に細胞に送り込んだ4つの遺伝子のうち、「c-Myc(シーミック)」と呼ばれる遺伝子にあります(第6回参照)。
ではなぜc-Myc遺伝子が細胞の癌化を引き起こすのでしょうか。

画像:iPS細胞の課題

我々の体は数十兆個の細胞からできています(第2回参照)。
細胞は分裂・増殖し、一方で一部の役目を果たした細胞は死ぬというサイクルを繰り返し、バランスをとっています。c-Myc遺伝子も本来は細胞が増えなければならない時期にだけ働き、細胞の分裂を促進する働きがあります。しかしc-Myc遺伝子に突然変異が生じることで、c-Myc遺伝子が働き続けてしまい、細胞が際限なく分裂・増殖を繰り返す場合があります。このとき過剰に生じた細胞は組織の塊を形成し、腫瘍(がん)が形成されてしまうのです。そのため、作製のためにc-Myc遺伝子が必要なiPS細胞は、患者に移植した後に癌化が起こるというリスクが伴っていました。

ところが、ヒトiPS細胞作製の報告からわずか10日後、山中教授らのグループによりc-Mycを除いた「Oct3/4(オクトスリーフォー)」、「Sox2(ソックスツー)」、「Klf4(ケーエルエフフォー)」の3つの遺伝子を用いて成人皮膚細胞からiPS細胞を作製できることが示されたのです。
この方法は、c-Mycを含む4つの遺伝子を細胞に送り込む従来の方法よりも1週間ほど長く時間がかかりますが、出来上がった細胞を用いて作製したキメラマウスから誕生した26匹の子供は、誕生してから100日経過しても1匹も癌を発症しなかったと報告されています。

c-Myc遺伝子が引き起こす癌化の問題については、山中教授のチームのみならず世界中の研究者が注目しており、米国ウィスコンシン大学のJames Thomsonらのチームは、山中教授とは異なる組み合わせの遺伝子(Oct3/4、Sox2、Nanog、Lin28)を用いてc-Myc遺伝子を使わないiPS細胞を作製することに成功しています。
また、米国ハーバード大学のGeorge Q.Daleyらは、iPS細胞の作製にはAct3/4遺伝子とSox2遺伝子が必須であるが、c-Myc遺伝子とKlf4遺伝子はどちらか一方があれば成功するという研究成果を発表しています。

世界中の研究者が総力をあげて研究を行った結果、より安全で実用化に近いiPS細胞の作製に一歩近づくことができました。しかし、iPS細胞の癌化についてはもう一つ技術的な問題が残されています。
次回は、その問題と研究者の取組みについて紹介します。

制作 : 株式会社リバネス

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