iPS細胞物語

第7回 iPS細胞、待望の誕生-2 iPS細胞とES細胞の関係

ES細胞にかわり、再生医療の切り札と期待されるiPS細胞。ES細胞もiPS細胞も、あらゆる細胞に変化する能力を持つ多能性の細胞であるにもかかわらず、今iPS細胞が社会的な注目を集めているのはなぜなのでしょうか。その理由を二つの細胞を比較しながら考えていきましょう。

ES細胞は1981年にマウス由来、1998年にヒト由来で作製された、世界初の多能性幹細胞です。その機能だけをとってみれば、iPS細胞とほとんど違いがないように見えますが、2つの細胞は成り立ちが全く異なります。
ES細胞はヒトの受精卵が分裂し、分化を繰り返して胎児と呼ばれる状態になるまでの間の胚(胚盤胞)の内側にある細胞を取り出して、特別な条件下で培養した細胞のことをいいます(第5回参照)。他人の受精卵から取り出したES細胞を用いて作製した組織や臓器を患者に移植することになるため、拒絶反応や生命倫理の問題が高い障壁となり、ES細胞研究は政治、宗教を巻き込んだ社会問題へと発展していきました。

画像:iPS細胞とES細胞の関係

一方iPS細胞は成長途中の胚から細胞を取り出すのではなく、初期化に必要な4つの遺伝子をすでに分化した皮膚などの体細胞に入れて人工的に作り出すことができる(第6回参照)ため、ES細胞のように受精卵を利用することがありません。また、初期化する細胞は患者自身の細胞に由来するため、iPS細胞を元に作った臓器を患者に移植しても、免疫系はその臓器を自己と認識し移植が拒絶されることは少ないと考えられます。
このように、iPS細胞はES細胞が抱える「生命倫理」と「拒絶反応」という2つの大きな問題を解決できるという期待から、世間の注目を一気に集めることになりました。

しかし、マウスの肝臓細胞を培養して肝臓の機能を再現した報告※1などはありますが、未だ3次元で完全な状態の臓器を作り上げた報告はありません。iPS細胞の登場によって臓器再生に向けた技術的問題が克服されたわけでは無いのです。
既に20年以上研究されてきたES細胞には数多くの知見が得られており、iPS細胞の研究にも応用できる有用な情報となり得ます。京都大学の山中教授は幹細胞研究誌「セル・ステムセル」の中で、ES細胞で行っている研究を一気にiPS細胞に切り替えることが、再生医療の実現をかえって遅らせる可能性がある、という見解も表明しています。バラク・オバマ米大統領もES細胞の研究助成を再開しました。
iPS細胞が登場した今も、ES細胞とiPS細胞の研究は相互補完的に進められているのです。二つの細胞に、今後も注目が必要です。

次回からはiPS細胞が克服すべき問題についてご紹介します。

※1
Ohasi K, Yokoyama T, Yamato M, Kuge H, Kanehiro H, Tsutsumi M, Amanuma T, Iwata H, Yang J, Okano T, and Nakajima Y.
Engineering functional two- and three- dimensional liver system in vivo using hepatic tissue sheets. Nature Med 13, 880-885 (2007)

制作 : 株式会社リバネス

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