iPS細胞物語

第5回 iPS細胞誕生の背景-4 ES細胞とその問題点

掲載日:2009年3月31日

画像:ES細胞

2009年2月、バラク・オバマ米大統領が、前政権により米国内で研究を制限されていたある細胞の研究制限を撤廃し、助成を再開するというニュースが報道されました。
その細胞は万能細胞と呼ばれ、1981年にマウスでの作製が報告されてから再生医療を実現させる細胞として社会的に注目されているのですが、一方で研究を制限されてしまう問題もはらんでいました。今回はその細胞に迫ってみましょう。

ES(Embryonic Stem)細胞。日本語では胚性幹細胞と表します。胚とは受精卵が分裂、分化を繰り返して胎児と呼ばれる状態になるまでの間の細胞塊のことを指します。ES細胞は、この胚の中から取り出した細胞のことです。

1981年にマウスの胚からES細胞を発見したという報告があり、17年後の1998年にヒトのES細胞が報告がされました。この細胞は胎盤を構成する細胞以外の細胞に分化できるということで、全能性ではなく多能性があることになります。

この細胞を使えば、胎盤以外の組織・器官を再生できるのではないか。その期待を込め、ES細胞は「万能細胞」というニックネームで呼ばれるようになりました。

画像:ES細胞

しかしながら、アメリカではES細胞の研究が制限された時期があったり、日本でも研究に際して文部科学省によるガイドラインが作成されたりと、一筋縄ではいきません。
なぜならばES細胞は胚を壊して取り出した細胞です。胚は子宮内で成長すれば胎児になり、赤ちゃんが産まれる可能性があります。つまり、生命の芽を摘んでしまう研究とも考えられ、批判も根強くあるのです。
これがES細胞の研究に立ちはだかる倫理上の問題です。

この問題を回避するため、ES細胞の研究に用いられる胚は不妊治療のために採取された卵子を体外受精させた複数の受精卵(胚)のうち、予備として凍結保存されたものを使います。
無事に出産に至った場合、予備の胚は廃棄されることになりますが、それを提供してもらい、ES細胞を取り出すのです。廃棄されるとしても胚には命が宿るとも考えられ、それは非常に繊細な問題です。

そしてもう一つの大きい問題があります。
それが拒絶の問題です。

人の体には免疫系という自己と非自己を見分け、非自己を排除する仕組みが備わっています。細菌やウイルスが体内に侵入した際にそれらを非自己として認識し排除する、我々が健康に過ごすために無くてはならない仕組みです。
また、ES細胞は臓器移植を必要とする患者とは異なるDNAを持つことになるので、別人の細胞です。このES細胞を元に作った臓器を患者に移植した場合、免疫系は臓器を非自己と認識してその臓器を攻撃します。移植が拒絶されてしまう可能性があるのです。

このようなES細胞の問題を解決し、ES細胞を活用できるように様々な研究が行われており、アメリカでもオバマ大統領の政権に代わり、その研究を更に活性化する政策が進められています。
その一方、胚を使わずにES細胞のような多能性の幹細胞を作れないか、という研究が進められました。そして、京都大学山中教授のiPS細胞の開発という成果に繋がりました。

次回からは、山中教授の研究に迫ります。

制作 : 株式会社リバネス

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