iPS細胞物語

第4回 iPS細胞誕生の背景-3 細胞の初期化

掲載日:2009年3月16日

画像:イアン・ウィルマット博士

イアン・ウィルマット博士

前回は体の再生に重要な"全能性"、"分化"という細胞の機能をご紹介しました。
ヒトでは全能性を持つ受精卵が分裂し、270種類の様々な機能を持つ細胞に分化することで体の形や機能が形成されます。ここで重要なことは、受精卵が分裂して機能を持つ細胞に分化するにつれて、全能性が失われて行くことです。つまり、一度皮膚の細胞になったら赤血球や神経細胞など、他の細胞に分化することが出来なくなるのです。
このとき、各細胞の遺伝情報に違いはないのですが、DNAやDNAを安定化するヒストンというタンパク質が化学的に修飾され、およそ2~3万個といわれる遺伝子のうち、活発に働く遺伝子の組み合わせが変わります。口の中の細胞は唾液を作って分泌するために必要な遺伝子が、頭皮の細胞では髪の毛のタンパク質を作るために必要な遺伝子が働くなど、細胞ごとに活発に働く遺伝子が固定され、細胞は分化するのです。
そして一度この状態になると、細胞を全能性がある状態に戻す、つまり細胞を"初期化"することはできないと考えられていました。
ここで、ドリーの誕生がパラダイムシフトを起こすのです。

ドリーが誕生したのは1996年。イギリス・ロスリン研究所のIan Wilmut(イアン・ウィルマット)博士を中心とした研究チームにより1997年に報告されました。その誕生までの道のりは以下の通りです。

  1. 大人の雌羊(A羊とします)の乳腺細胞を採取する。
  2. 大人の雌羊(B羊とします)から卵子を採取し、核(DNA)を除去する。
  3. A羊の乳腺細胞を、核を除去したB羊の卵子に入れる。
  4. 電気刺激を与えて細胞融合すると、細胞分裂が始まる。
  5. 胚の状態まで分裂した細胞を大人の雌羊(C羊とします)の子宮に入れる。
  6. C羊がドリーを出産。
画像:クローン羊 ドリーの誕生
クローン羊 ドリーの誕生

ドリーはC羊から産まれましたが、C羊の遺伝情報は持っておらず、A羊と全く同じ遺伝情報を持っていることになります。つまりドリーはA羊のクローンなのです。
ここで思い出してください。
一度分化した細胞は、他の細胞に分化する"全能性"を失っているはずです。しかしながら、上記4で細胞を卵子と融合させることでA羊の乳腺細胞が全能性を取り戻した、つまり初期化されたのです。それまでカエルで同様の実験を成功させた例はありましたが、哺乳動物でも分化した細胞を人為的に初期化できるということが証明されたのです。

こうしてドリーの誕生によって、ヒトの細胞を人為的に初期化し、失われた臓器を再生する最初の細胞として再生医療に役立てるというアイデアが、iPS細胞の誕生に繋がっていきます。
一方、ある特殊な環境中にある、いろいろな細胞に分化できる細胞を利用して、再生医療を行おうというアプローチも存在します。その細胞は"万能細胞"と呼ばれ、社会的な期待を集めていますが、さまざまな国でその扱いを法律で規定されるなど、大きい問題も抱えています。
次回は万能細胞と呼ばれる細胞に迫ります。

制作 : 株式会社リバネス

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