iPS細胞の基本

2015/3/27更新


Q1 iPSとはなんの略で日本語訳は何ですか?
A1

iPS細胞の正式名称は、英語で"induced pluripotent stem cell"です。この頭文字を組み合わせた名前がiPS細胞です。(cell=細胞)inducedというのは「人工的に誘導した」という意味ですが、複数の遺伝子を人工的に導入して作製したことに由来します。Pluripotentのpluriは複数(plural)を表す接頭辞、potentは能力があるという意味で、pluripotentは多能性と訳されます。その意味するところは、「受精卵のように、体中のあらゆる細胞になれる能力を持つ」という生物学の用語です。stem cellの訳は「幹細胞」です。幹細胞とは、細胞分裂を繰り返して、同じ細胞を増やせる能力(自己複製能)と、複数の異なる細胞に分化(変化)できる能力(多分化能)を併せ持った細胞のことです。 従って、iPS細胞とは、人工的に誘導した多能性幹細胞の事で、日本語では「人工多能性幹細胞」と呼びます。様々な細胞に変化できる能力を持つことから、「万能細胞」と呼ばれることもあります。このiPS細胞の作製に世界で初めて成功したのが山中伸弥先生で、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞されました。

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Q2 iPS細胞(人工的に誘導した多能性幹細胞)の研究には、どんな意味があるのですか?
A2

iPS細胞が作られる以前から、多能性幹細胞としてES細胞(Embryonic Stem Cell=胚性幹細胞)がありました。ES細胞は、受精後数日経った初期胚の細胞を取り出して作られる多能性幹細胞です。多能性幹細胞とは、体中のあらゆる細胞になれる能力を持つ幹細胞のことです。この能力を利用して、世界中でES細胞から臓器や組織の細胞を作ることを目指した研究が行われていました。しかし、ES細胞は、ヒトとして成長しうる可能性を持つ受精卵を壊して作製することから、倫理的な問題を避けることができません。国によって対応は異なりますが、ES細胞を用いた研究が禁止されている国もあります。米国でも一時、連邦政府予算をES細胞研究に使用することを禁じた時期がありました。日本では文部科学省が定めた研究指針に従って研究を行うことが認められています。iPS細胞の登場は、ES細胞を用いた研究が実施できない国においても、多能性幹細胞を用いた研究の実施を可能にしました。
もう一つは、自分自身と同じ遺伝情報を持った多能性幹細胞を手に入れることを可能にしたということです。ES細胞は、受精卵から作られた多能性幹細胞です。つまり、受精卵のドナーから見ても親子関係に相当し、自分自身と全く同じ遺伝情報を持つ細胞ではありません。そのようなことからES細胞から身体の組織の細胞を作ったとしても移植する際には、多かれ少なかれ必ず拒絶反応が起こると考えられています。一方、iPS細胞は自分自身と同じ遺伝情報を持った多能性幹細胞の作製を可能にしたのです。

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Q3 どのようにして、皮膚の細胞を受精卵と同じような状態にもどすことができるのですか?
A3

皮膚のような体細胞がその性質を失って、受精卵と同じような多能性幹細胞の状態に戻るという現象は初期化と呼ばれています。iPS細胞が登場する約50年前に、卵子にはそういう能力が備わっている事がカエルを用いた実験で示されていました。そして1997年には、体細胞クローン羊の"ドリー"の誕生によって、哺乳類でも同じ現象が起こることが報告されました。クローン羊ドリーについてはiPS細胞物語(4)をご覧ください。
この初期化のメカニズムについては未だに明らかではありませんが、卵子を用いなくても体細胞を受精卵と同じような多能性幹細胞に初期化できることを示したiPS細胞の作製は画期的な成果だったと言えるでしょう。
この方法はどのようにして見つかったのでしょうか。山中先生は、ES細胞の「多能性」の維持に関与する遺伝子を探していました。(未分化細胞のES細胞は、未分化状態を示す多能性を維持しています。)その過程で「多能性維持」に重要な遺伝子が「分化細胞を未分化の細胞に初期化する」のに必要な遺伝子と同じ、という仮説を立てたのです。そして、マウスのES細胞で活発に働いている遺伝子の中から24種類を選び、それを皮膚細胞の中で働かせたのです。すると、24種類の遺伝子の一つ一つでは何も起こりませんでしたが、24種類を全部混ぜた時だけ、ES細胞と同じような多能性を有する細胞ができたのです。
その後、最終的に4つの遺伝子「Oct3/4(オクトスリーフォー)」、「Sox2(ソックスツー)」、 「Klf4(ケーエルエフフォー)」、「c-Myc(シーミック)」が初期化を誘導するのに重要な働きをしていることが明らかにされました。これらの遺伝子はヤマナカファクター(山中因子)とも呼ばれています。

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Q4 線維芽細胞が初期化されてiPS細胞に変化すると、テロメアの長さも赤ちゃんの時のように長い状態に戻ると聞きました。なぜ初期化されるとテロメアが長くなるのでしょうか?
A4

体の細胞でテロメアがどんどん短くなるのは、テロメアを伸ばす酵素であるテロメラーゼが働いていないからです。線維芽細胞がiPS細胞になるとテロメラーゼの働きが活発になり、テロメアが伸長されます。

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Q5 どのようにすれば、細胞の中に遺伝子を入れることが出来るのですか?
A5

大きく分けて、物理的方法、化学的方法、そしてウイルスを使う生物学的方法の三通りの方法があります。物理的方法は、電気ショックで細胞を包む膜に穴を開けて、遺伝子を搭載したプラスミドDNA(環状のDNA)を送り込む方法です。化学的方法では、特殊な界面活性剤(洗剤)のような物質にDNAを結合させ、細胞膜に穴を開けて導入します。最後のウイルスを使う方法では、ウイルスが細胞に感染する機能以外の毒性や増殖に関わる機能を削除したウイルスの「殻」を用意し、そこに目的とする遺伝子を搭載する方法です。

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Q6 よいiPS細胞と悪いiPS細胞というのはどういうものなのか教えてください。
A6

樹立されたiPS細胞から神経細胞や肝臓の細胞などに分化誘導する場合に、目的の細胞に分化しきれなかった未分化細胞が残る割合の多い細胞が「悪いiPS細胞」と表現されることがあります。iPS細胞には無限に増殖する能力があるため、目的の細胞に分化しきれずに未分化細胞が残ってしまうと、移植後に腫瘍が発生するリスクが大きくなります。

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Q7 iPS細胞誘導や直接誘導法で用いる転写因子は、リプログラミングの過程でどのような働きをしていると考えられるのでしょうか?
A7

転写因子は、他の多くの遺伝子の働きを調節する役割を持っています。細胞の性質はその細胞で活発に働く遺伝子の種類で決まるため、iPS細胞で活発に働いている遺伝子が多く働き始めると、その細胞の性質はiPS細胞に近づきます。 リプログラミングの過程で用いられる転写因子はどれも、iPS細胞で重要な遺伝子の働きを強め、一方でiPS細胞以外の細胞で働いている遺伝子を抑える働きを持っています。こうして徐々にiPS細胞で働く遺伝子が活発に働きだすことで、細胞の性質がiPS細胞に近づきます。まだわかっていない部分も多くこれからの研究が期待されています。

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Q8 iPS細胞の樹立効率は現在どの程度でしょうか?
A8

iPS細胞樹立実験を行えば、ほぼ間違い無く(90%以上の確率で)iPS細胞は樹立できます。 細胞の個数については、100万個の細胞に初期化因子を加えても、ちゃんとiPS細胞になる細胞は1万個程度なので、細胞レベルでの初期化効率としては1%程度です。ある研究では、樹立効率が20%であったケースも報告されています。 iPS細胞は増殖性が高いため、1%の効率であっても研究は十分に行えます。

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Q9 ヒトiPS細胞を作製する際に用いる初期化因子はヒト由来でしょうか?
A9

通常は、ヒト由来の初期化因子を使用します。しかし、初期化因子に関しては、ヒトの遺伝子とマウスの遺伝子が非常に良く似ているため、マウスの初期化因子を用いてもヒトiPS細胞を作ることができます。

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Q10 miRNAを用いてiPS細胞が作製できるという論文がでしていますが、これまでの方法と比べてどんな違いがあるのか教えて下さい。
A10

miRNAは遺伝子の発現量を制御することのできる、長さが18〜25塩基ほどのRNAです。通常iPS細胞を作製する場合には、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycという遺伝子(DNA)を皮膚などの体細胞に送り込みますが、miRNAを用いてiPS細胞を作製することもできます。miRNAで作製する場合、細胞のDNAを傷つけることがないので、腫瘍化を心配する必要がありません。最近では、他にもセンダイウイルスやmRNAなど、DNAではなくRNAをiPS細胞作製に用いる方法が開発されており、miRNAによるiPS細胞作製時同様に腫瘍化を心配する必要がありません。

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Q11 成人で、多量の薬を服用している人の細胞から作製したiPS細胞は薬の影響を受けていないのでしょうか?薬の影響も初期化されて赤ちゃんの時の状態に戻るのでしょうか?
A11

それは薬がどのように作用しているかによります。薬の影響で細胞のDNAに変異が入ってしまった場合、それはiPS細胞にも受け継がれます。一般的に薬の服用をやめて収まるような影響でしたらiPS細胞には影響しないと考えられます。

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Q12 iPS細胞とES細胞では、臨床応用する場合にそれぞれどのようなメリット、デメリットがありますか?またどのように使い分けているのでしょうか。
A12

ここでは、細胞移植治療(いわゆる再生医療)に関して回答します。iPS細胞やES細胞を細胞移植治療に用いる際に重要な点として、
1)移植後に移植した細胞の異常が起きないことと、
2)移植した細胞や移植先の細胞で拒絶反応が起きないこと
などが挙げられます。

1)について、ES細胞は発生初期の受精卵の細胞から作った細胞であるため、遺伝子への操作などはなく細胞へのストレスは少ないと考えられ、腫瘍形成のリスクは低いとされています。一方、iPS細胞は、一度成長したヒトの細胞に人工的な操作を加えて作った細胞であるため、この操作過程で遺伝子の変異が起こっていることが考えられます。この遺伝子の変異が悪いものだった場合、移植した細胞が腫瘍を形成する可能性があります。そのリスクを低減させるため、iPS細胞研究所では作製したiPS細胞を詳しく遺伝子解析して、どのような遺伝子変異が起きているかを確認し、ヒトへの投与に問題ないiPS細胞を選んでいます。

2)について、ES細胞を作製するために受精卵を用いますが、細胞の型(HLA型)はその受精卵に由来するため、細胞移植治療の際、患者さんと同じ細胞の型(HLA型)でない場合は拒絶反応を起こす可能性がある点がデメリットです。またES細胞の作製には、生命の萌芽である受精卵を材料として用いるという倫理的な問題が含まれ、社会インフラとして機能する細胞バンクの整備に必要なES細胞を作製するための受精卵の確保は大変難しい状況です。
iPS細胞は、自家移植(本人の細胞から作製したiPS細胞を移植)が可能であり自分自身から作製したiPS細胞から目的の移植する細胞を作製できれば、拒絶反応の少ない細胞移植治療が提供されると期待されます。また、他家移植(他人の細胞から作製したiPS細胞を移植)において、予め拒絶反応のおこしにくい細胞の型を有する方(HLAホモドナー)からiPS細胞を作製し、それを保管する細胞ストックを作っておけば、約数か月から場合によっては半年という作製期間が短縮でき、治療が必要な際にすぐに使用できることが期待されます。

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Q13 遺伝子に異常のある疾患患者からiPS細胞を作った場合、同じ病気になりませんか?
A13

遺伝性疾患の場合など、生まれつき遺伝子に異常のある患者さんのiPS細胞から分化した細胞では、その遺伝子異常が維持されることにより、同じ病気の症状が再現されることがあります。実際、遺伝子異常を維持した細胞を培養することにより、動物実験を行わなくても培養皿の中の分化細胞を用いて病気のメカニズムを研究したり新しい薬を開発したりすることが可能になりました。このこともiPS細胞技術によって可能になった大きなポイントです。しかし、遺伝子異常のある分化細胞を移植した場合、身体の中でうまく機能しないことが予想され、移植治療には使用できないと考えられます。しかし近年、遺伝子の異常を修復する技術が発達してきており、iPS細胞の段階でその遺伝子異常を修復し、それから正常な分化細胞を作る取り組みが行われています。これが成功すると、遺伝子異常のある患者さんでも自分の細胞を使って移植を行うことができるようになると期待されます。

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Q14 分化誘導させたい細胞に応じて、皮膚からではなくそれぞれの細胞や組織から作ったiPS細胞を分化させてはどうでしょうか?
A14

動物やヒトの細胞を用いての作製方法が検討されており、一部の報告では、分化させたい細胞からiPS細胞を作製することのメリットが示されています。しかし、ヒトでは侵襲性の低い細胞の採取方法を検討する必要があり、皮膚や血液からの作製が有望とされています。

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Q15 神経細胞の分化誘導技術の進捗状況を教えて下さい。
A15

培養皿中では、ES/iPS細胞は比較的簡単に神経系の細胞に分化誘導されます。しかし、その効率を100%にするにはまだ困難があります。細胞移植では、神経系とまるで関係ない細胞が混在すると人体に悪影響を及ぼしかねません。また、神経細胞(ニューロン)と一口でいっても、興奮性ニューロンや抑制性ニューロン、ドーパミンニューロン、運動ニューロンなど、様々な種類があります。特定種類のニューロンだけが失調をきたす脳疾患も多いので、個々のニューロンを作り分ける研究が必要です。我々は培養皿中で、脳内生理活性物質の分泌を再現して脳の特定領域を作ったり、人為的に遺伝子を活性化させて、高効率で標的ニューロンを作出したりしています。また、ニューロンのみを標識し抽出する技術開発も進んでいます。

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Q16 iPS細胞から心筋細胞を作る(分化誘導)技術は確立しているのでしょうか?もとのiPS細胞や目的以外の細胞ができた場合はどのような方法で取り除く(純化)のでしょうか?その過程を分かりやすく教えて下さい。
A16

心筋細胞への分化誘導法の大筋は、培養中のiPS細胞にactivin A, BMP4, bFGFを一定期間加えるというG. Kellerらの方法です。細胞株や他の培養条件によって、濃度や処理時間を最適化するよう条件検討されます。 分化しないiPS細胞は、特定の薬剤を加えたり、細胞の代謝速度の違いを利用して培地条件を変えることで、選択的に死滅させます。また、目的の細胞のみを純化するには、マーカーとなる表面タンパクの抗体を用いて、これを発現する細胞だけをセルソーターで分離したり、抗体をつけた磁気ビーズを用いて回収する方法もあります。

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Q17 iPS細胞は無限に増殖していくということですが、分化誘導した時点で増殖は止まるのでしょうか。
A17

iPS細胞は無限に増殖できますが、分化誘導した時点で細胞は体細胞と同じ性質になるため、増殖には限りがあります。通常の体細胞と同様に、適切な条件で培養すれば、しばらくは増殖しますが、やがて細胞分裂ができなくなります。

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Q18 iPS細胞由来の細胞を移植する際には、細胞の純化が必要であると聞きました。iPS細胞から目的の細胞に分化させる際、どのような副生成物が出来るのでしょうか?なぜ、目的外のものが出来てしまうのでしょうか?またどのような方法で純化するのか教えてください。
A18

iPS細胞からは体のすべての臓器の細胞を作ることができます。でもこれは、逆に言うと、例えば神経細胞だけ等、ある特定の細胞だけが欲しい場合に、心臓の細胞等、他の細胞もできてしまう可能性を意味します。あるいは、うまく分化しきれない細胞がでてくる可能性もあります。そこで、できる限り欲しい細胞だけができるように作り方がそれぞれ工夫されています。それでも不十分な場合は、目的とする細胞だけが出しているタンパク質を目印にしてセルソーティングという方法でその細胞だけを集めます。

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Q19 作製したiPS細胞の品質や保存はどのようにして管理するのでしょうか?その管理体制はどうなっているのでしょうか?
A19

iPS細胞ストックにおけるiPS細胞は、iPS細胞研究所内のFiT(細胞調製施設)にてクリーンな環境の中で製造されます。できたiPS細胞は、移植する目的の細胞へ分化できるか、細胞移植後にその細胞のガン化につながる様な遺伝子変異がないか、細菌・ウイルスに感染していないかなど品質を確認します。品質に問題ないとされたiPS細胞は、厳格な温度・空調管理のされた清潔な部屋に置かれる貯蔵庫の中で長期に保管されます。

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Q20 iPS細胞の標準化は、どこまで進んでいるのでしょうか?
A20

再生医療を念頭においたiPS細胞の作製方法に関しては標準化されつつあります。例えば、細胞のゲノムDNAを傷つけにくいプラスミドDNAによる誘導方法の開発や、腫瘍化をしにくい初期化因子の同定がなされています。また、iPS細胞の作製に用いる細胞も、皮膚細胞に加えて採血などで入手しやすい血液細胞などを利用しています。

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