ImPACT Program 量子人工脳を量子ネットワークでつなぐ高度知識社会基盤の実現

プログラム概要

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次に、ImPACTで取り上げる3つの研究テーマの現状を分析します。
まず、量子暗号の分野について述べます。この分野が実用技術に1歩近づけたのは、物理的システムのどこにも量子力学が登場しないからです。当初は、単一光子を用いたBB84プロトコルやエンタングル光子対を用いたE91/BBM92プロトコルの実装が模索されましたが、現在では通常のレーザ光源で実装されるdecoy BB84プロトコルやRound Robin DPSプロトコルというものが発明されました。これらのシステムでは、量子力学は安全性証明の数学の中に現われるだけで、現実のシステムは通常の古典デバイスだけで構成され、量子の中核的概念である量子エンタングルメントはどこにも存在しません。そのため、ある程度実用的なシステムを組むことができました。しかし、量子暗号には深刻な弱点も残っています。その弱点とは、

  • 1one-time padと組み合わせた方式は、鍵配送速度が極めて遅く、伝送距離も短く、この点現代暗号に比べて全く不利な状況にあります。盗聴者の能力に限界を仮定しない“絶対安全性”を売りにしてきたわけですが、盗聴者の能力限界よりもより現実的なシステム構成要素の不完全性に起因する“安全性脅威”の問題がまだクリアされていません。high-endの応用分野をターゲットに置くとしても、この点がクリアされなければユーザに対しての説得力はありません。
  • 2小さなスタートアップ企業であれば、量子暗号実験を行なう大学の研究室に小規模な装置を売るビジネスモデルが成立するのでしょうが、日本を代表する大企業の場合にはより大規模な市場が将来形成されなければビジネスとして成立ません。この点、送受信装置のコスト低減に向けた努力だけでは不十分で、bright pulseが伝送されている光ファイバー伝送路に波長多重で単一光子レベルの量子暗号チャンネルを挿入して、十分なS/N比が実現できる技術の開発が不可欠であります。量子暗号のためだけに光ファイバー伝送路を専用線として使うというオプションはないと考えるべきです。
  • 31024ビットの因数分解を用いたRSA公開鍵暗号が将来破られた場合を想定した現代暗号の代替技術(ポスト量子現代暗号)の研究が進展しています。この強力なライバルに対して、長期的視野に立って量子暗号の勝ち目、適用分野を見通しておく必要があります。