#1 CREST・さきがけ(戦略的創造研究推進事業)

戦略研究推進部
グリーンイノベーショングループ

中村 幹調査役

2005年入職

中田 希衣主査

2016年入職

若手の個人型研究を対象とした画期的な制度『さきがけ』

JSTでは、複数の部門で基礎研究を推進するプログラムを手がけています。その一つが戦略研究推進部で、代表的なものに、チーム型研究を対象とした『CREST』と、個人型研究を対象とした『さきがけ』があります。
戦略研究推進部の中村調査役はこう説明します。「CRESTは、国際的な水準を凌駕する基礎研究や革新的な技術シーズの創出をねらいとしたチーム型研究を支援するもの。一方、さきがけは、世界にさきがける科学技術の芽を創出するため、独創的な発想を持つ個人の基礎研究を推進するプログラムです。支援の対象とする研究領域(テーマ)を設定し、研究者を公募し、採択された研究者は一定期間、高い自由度を持って研究ができる枠組みです。まだ大学内で特定のポストを得ていない研究者でも、JSTが直接雇用して身分を保証するなど、若手研究者を対象にした画期的な制度として誕生しました。二つのプログラムは共同でイベントを開催することもあり、密に情報交換をしています」。

入職してすぐに、さきがけの領域担当者に

 中田主査は新卒で入職して戦略研究推進部に配属され、さきがけの領域担当となりました。さきがけ事業は、毎年3月に文部科学省から提示される戦略目標を受け、外部有識者とも相談しながら公募する研究領域を決めるところから始まります。
 研究領域が決まったら、研究領域の長となる「研究総括」と、補佐をする「領域アドバイザー」を置きます。その後公募を行い、応募されてきた研究の中からふさわしいものを採択します。JST担当者は、採択された研究に対して、評価の事務局や予算・進捗管理、広報などを手がけ、研究者と二人三脚で研究を進めていきます。
 中田主査の担当領域は「量子の状態制御と機能化」。文部科学省の戦略目標「量子状態の高度制御による新たな物性・情報科学フロンティアの開拓」を実現するためのものです。「私の場合、領域も研究総括の先生も既に決定した段階で途中から引き継いだため、担当してすぐは仕事のプロセスが把握できていませんでした」(中田)。
 中田主査の学生時代の専攻は応用化学だったため、自分の担当領域について勉強する必要があり、とまどいもあったといいます。「わからないことが出てきたときは先輩の職員に教わりながら仕事を進めました。疑問を解消していくうちに、次第に理解が進み自分で考えながら業務を行えるようになりました」(中田)。

研究者の意欲や積極性も判断して採択

 どの研究を採択するかは、研究総括や領域アドバイザーが書類選考と面接で決定します。さきがけの場合、採択率は10%程度ですから、かなりの難関と言えるでしょう。
 「私たちJST担当者も事務局として面接の場に立ち会います。最初の年は面接を受ける先生以上に私の方が緊張してしまい、上司にしっかりしなさい、と言われたことも・・・。面接時間を測る時計が止まるトラブルで焦ったこともあります。幸い、そのときに面接を受けていた先生は無事、採択されました。後でお詫びしたら、先生も、僕も緊張して覚えていなかったよ、とおっしゃってくださいました」(中田)。
 JST担当者が選考において重視するポイントの一つが公平性です。「審査委員と面接を受ける先生方に利害関係がないようにしなくてはなりません。また、さきがけは若手研究者個人を対象にしたプログラムなので、チャレンジ精神や意欲も重視しています」(中村)。
 「量子の状態制御と機能化」では、伊藤公平・慶應義塾大学理工学部教授を研究総括に、大学や民間の研究者11人が領域アドバイザーとなり、平成28年度、29年度にそれぞれ10人、30年度に8人、合計28人の研究者が採択されました。

研究を継続的に、きめ細かく支援

 さきがけプログラムに採択された研究者には毎年、研究計画書を提出してもらい、研究総括はそれを確認し、必要に応じて相談に乗ることもあります。また半年に一回、進捗報告会議を設け、他の研究者や領域アドバイザーからの質問やアドバイスを受けられるようにしています。「JSTからは、研究の進み方などに応じて、予算の見直しもお願いしています」(中田)。
 中田主査はさきがけの領域担当のほかにも、さきがけとCRESTの事業WEBサイトの管理やプレスリリース対応などにも携わっています。「研究者が自身の研究成果をプレス発表する際、JSTの広報課や関係する大学の広報課と連携しながら、プレス原稿の作成や内容確認などを手伝います」(中田)。
 さきがけの業務で最も苦労するのは、研究内容を把握することだと中田主査は話します。「極めて専門的で高度な内容は、研究総括や領域アドバイザーの先生方にお任せし、私は全容を大きく理解したうえで、制度紹介などに力を入れています」(中田)。

異分野の研究者同士の交流が生まれるのも大事な成果の一つ

 さきがけの事業成果は、一般的には研究者の論文、特許、製品などの形で表れます。一朝一夕で結果が出る性質の研究ではないため、さきがけの研究から生まれた成果の価値が問われるのはこれからです。
 「もう一つ、形に見えるものとは別に、研究者同士の交流や共同研究への発展という成果もあります。私が担当する領域の研究者は物理学者が多いのですが、化学、材料工学、情報工学など、他分野からこの分野に入ってきた研究者もいて、そこに交流が生まれ、それが新しい発想や視点のきっかけにもつながっています」(中田)。進捗報告会議では、異なる分野の研究者同士の意見交換も活発に起こります。
 中村調査役は、これがさきがけの長所の一つだと考えます。「研究の世界では、ある分野で抜群の業績を持つ研究者が、隣接する分野ではほとんど知られていないといったことが珍しくありません。さきがけをきっかけに、分野を越えた活発な議論や交流が生まれることを願っています」(中村)。
 中田主査がこの仕事を通じて感じるのは、日本の科学技術を支えるトップクラスの研究者と出会い、言葉を交わす喜び。「考え方、研究に対する姿勢などから、私もたくさん刺激を受けます。その研究者が成果を出したことを聞いたり、新たな挑戦を始めたという連絡をもらったりするとき、自分が最先端の研究をサポートできていることにやりがいを感じます」。
 今後も中田主査は、研究者が研究をしやすい環境や制度づくりに力を注いでいきたい、と話します。
 「若手研究者が活躍できる制度づくりに特に関心があります。『ACT-I』のように新しい制度も始まっているので、それを研究者の方にうまく利用していただけるよう、作り込みや周知をしていきたいと思っています」。

※所属部署および掲載内容は取材当時のものです
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