SATREPSの活動事例

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~ワクチンと診断技術を武器に感染症に戦いを挑む~

 レプトスピラ症を知っていますか?熱帯・亜熱帯地方を中心として、世界中に分布する細菌感染症です。レプトスピラ症を発症すると、黄疸、肺出血、腎不全などの障害が起こり、最悪の場合は死に至ります。日本でも九州南部で多くの感染例があり、決して他人事ではありません。
このような深刻な病でありながら、レプトスピラ症に関する研究報告は乏しく、その実態はよくわかっていませんでした。そこで本プロジェクトでは、この病気が蔓延しているフィリピンで詳しい調査をするとともに、予防対策の確立や迅速な診断法の開発を目指して研究を行いました。その結果、レプトスピラ症のコントロールにつながる多くの成果を得ることができました。

写真:活動様子その1
写真:活動様子その2

吉田 真一日本側研究代表者名: 吉田 真一九州大学医学研究院
細菌学分野(元)教授

九州大学医学部卒。大学院では免疫学と細菌学を学ぶ。産業医科大学微生物学講師、助教授、教授を経て、平成10年から九州大学医学研究院教授。研究はレプトスピラのほか、レジオネラ、O157, レンサ球菌、ビブリオ属細菌などの病原細菌の病原因子や生態など。

Nina G. Glorianiフィリピン側研究代表者名: Nina G. Glorianiフィリピン大学
マニラ校公衆衛生学部病原微生物学教授

メルボルン大学で感染免疫学のPhDを取得。SATREPS プログラムが実施される期間のうち2007年から2013年の間はフィリピン大学マニラ校公衆衛生学部の学部長を務めた。

日本

プロジェクトを終えて(日本国側)

病気の克服は人類の願いであり、それに携わることは純粋に生きがいでもあります。今回フィリピンをフィールドとしてSATREPSのプログラムでレプトスピラ感染症の感染実態を明らかにすること、迅速診断法を開発すること、ワクチンの実用化に目途をつけること、啓蒙活動を行うこと、感染症の成り立ちを解明すること、などに挑戦し、一定程度の成果を得ることができました。これは大きなよろこびです。


フィリピン

プロジェクトを終えて(相手国側)

Overall, I would like to believe that we accomplished much over the last 5 years. The capacity building component of the LepCon program in terms of infrastructure and human resource development were the best things that happened. We have a state of the art leptospirosis diagnostics facility that we could use for other pathogens as well, and our faculty and staff, including students were trained and learned many new advanced techniques both in Japan and in this renovated laboratory in the college. More students, both graduate and undergrads, are now able to use the laboratory facilities for their special studies, research projects, thesis and dissertation. We have generated several publications, disseminated our research findings in different fora, and the level of knowledge about leptospirosis in the Philippines has been enhanced considerably because of these. Technical cooperation with the Japanese scientists was excellent and the interaction fostered good professional and personal relations which contributed a lot to the successful outcome of the LepCon program technical cooperation.


プロジェクトの成果

感染の実態を把握!

レプトスピラ症は人獣共通感染症です。つまり、動物から人に感染します。そこで、フィリピンで接する機会の多い動物の感染実態を調査しました。するとマニラのような都市部であっても、ラット(92%)、スイギュウ(82%)、ブタ(67%)と高い確率でレプトスピラ菌の抗体を保有しているという結果が得られ、常に人間は感染の危険にさらされていることがわかりました。
*抗体を保有しているということは、少なくとも過去に一度はレプトスピラ菌に感染していることを意味しており、体内に菌が残っている可能性を示唆しています。

早期の診断が可能に!

レプトスピラ症は発熱や頭痛など、ごく普通の風邪のような症状から始まります。そのため病気が見過ごされ、気がついたときには重症化しているというケースが後を絶ちません。そこで、早期にレプトスピラ症の確定診断を行う方法を開発しました。早い段階で診断がつけば、抗菌薬によって治療することが可能なため、命を救える可能性が高まります。

ワクチンの有効性を確認!

感染症対策において一番重要なのは「感染を防ぐ」ことです。レプトスピラ症の効果的な予防法としては、ワクチンの接種が挙げられます。そこで「死菌ワクチン」の開発を行いました。死菌ワクチンは薬品によって感染力や毒性を失わせた細菌をもとに作られます。レプトスピラのワクチンは、ハムスターで有効性が確認され、家畜やペットへの接種が可能となりました。これにより、家畜の感染による産業へのダメージを回避したり、ペットから人間への感染を抑制することが可能になりました。

レプトスピラ症の確定診断を手軽なものにするために、診断キットを実用化することが期待されます。すでに試作品は完成しており、製品化に向けて検討をしているところです。また、人間に有効なワクチンが作られることも望まれます。

ワクチンができたら、病気におびえなくてすむね。

レップス君から一言

レップスくん×プロジェクトインタビュー

レップスくん

人間は動物からレプトスピラ菌に感染するそうですね。どういうことか、くわしく教えてください。

吉田先生

レプトスピラという細菌はヒトや動物に病気(感染症)をおこすもの(病原性レプトスピラ)と、おこさないもの(非病原性レプトスピラ)に分けることができます。非病原性レプトスピラは土壌や淡水(水路、水たまり、川など)に生息しています。一方、病原性レプトスピラはふつう動物の腎臓に生息していてそのホストには病気をおこさず、尿と一緒に排泄され、土壌や水の中でも生きています。これらが感受性のある動物(ヒトや家畜)に皮膚から感染して軽症(発熱や筋肉痛など)から重症(黄疸、腎不全、肺出血など)の病態をひきおこします。

日本では輸入ペットのレプトスピラ症が問題になっているそうですが…。

吉田先生

レプトスピラはペットや家畜を含め多くの動物に感染しています。感染してもネズミなどは発症しないので、保菌状態であり、菌は腎臓に生存しています。現在、多くのペットが輸入されていますが、輸入されるペットにレプトスピラが感染している可能性はあります。最近、輸入モモンガが感染源となりヒトに感染した例がありました。

新種のレプトスピラ菌を発見したそうですね。

吉田先生

写真:L. idoniiレプトスピラは土壌や水中に生息しているのですが、土壌や水中は何種類もの雑菌やカビも生息しているので、レプトスピラを培養しようとしても雑菌やカビが増殖してきてレプトスピラの増殖を邪魔してしまいます。それで雑菌やカビの増殖を抑えてレプトスピラだけ増殖するような培地を使わないといけないわけですが、そのために、抗菌剤や抗カビ剤をうまく使うわけです。多くの試行錯誤ののちその目的にあう組み合わせを開発し、抗菌剤の頭文字をとってSTAFFと呼ぶことにしました。このSTAFFを使ってプールの横にある水たまりの水を培養したところ、増殖してきたレプトスピラはその他のものと比べてゴツイ、硬い感じがしましたので、新種ではないかと思い試験をおこない、新種として発表しました。その名はL. idoniiと命名しました。この学名はワイル病とよばれていた病気がレプトスピラの感染であることを世界で初めて発見した九州大学の稲田龍吉教授と井戸泰教授の名にちなんだものですが、稲田先生の名前のつく菌はありましたので、井戸先生の名前にちなんで命名しました。

プロジェクトで大変だったことは何ですか?

吉田先生

写真:活動風景フィリピン大学マニラ校公衆衛生学部にレプトスピラ研究のためのラボとハムスター飼育室、動物実験室を設置しました。それらの建築にも関係者にご苦労をおかけしましたが、ラボに納入する機器、機材がわれわれの希望する通りの型式のものが納入されるように、調整員と柳原名誉教授には特にご苦労いただきました。また、ハムスターの輸出も手続きが繁雑でした。そのほかMTA(Material Transfer Agreement)など契約関係の手続きが順調に進むかどうかにも神経を使いました。研究自体の苦労は慣れているので苦にはなりませんでした。

レプトスピラ症の診断キットが実用化されそうだと聞きました。診断キットってどんなものですか?

吉田先生

感染症の診断は大きくわけて臨床診断と検査診断の二つがあります。レプトスピラは臨床的診断がむずかしいので、診断を確定するには検査による診断が必要です。感染があったことを診断する検査には感染疑いのある患者さんの体内から病原体由来のタンパクや遺伝子を見つける方法と、患者さんの病原体に対する免疫応答の結果できた抗体や免疫応答を調べる方法があります。検査はとかく設備の整った検査室でしか可能ではなかったのですが、それでは外来やベッドサイドやフィールドでの検査は不可能なので、そこらでもできて、しかも迅速に結果が出る簡易迅速診断キットがつくられました。抗原検出キットは大量生産のところで行き詰まりましたが、抗体検出キットは大量生産も可能です。

人間にも有効なワクチンが早くできてほしいです。まだ時間がかかりそうですか?

吉田先生

実はヒトに有効なワクチンはすでにつくられていて日本でも農作業従事者などリスクの高いヒトには接種されていました。日本のレプトスピラ感染抑圧に一役かいました。SATREPSではフィリピンで診断している血清型を明らかにしてそれらをワクチン化し、ハムスターを使って効果が確認されました。今後、家畜への効果の確認を経て、ヒトへの接種が始まることを期待しています。フィリピン側研究者の働きに期待しています。


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