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安全で有効性の高い新規薬剤の開発を

 HIV/AIDS対策は、緊急の対応を要する地球規模課題のひとつです。その対処法として、HIVの進行を抑え、発症しないようにする方法は確立されつつある一方、HIVの持続潜伏感染に対する有効な薬剤の開発が望まれています。ガーナにおけるHIV有病率は1.9% (2007年)ですが、特定の人や地域の感染率は上昇傾向にあります。そのためガーナでは、HIV/AIDS対策を最重要課題の一つとし大統領直轄でガーナ・エイズコミッション(GAC)を設置しています。もうひとつの大きな感染症に、眠り病とも呼ばれるトリパノソーマ症があります。アフリカ地域で5千万人の人、2.5千万頭の家畜が感染の危険性にさらされている人獣共通感染症です。現在使用できる治療薬にはとても重い副作用があり、安全で有効性の高い新規薬剤の研究開発が求められています。

山岡 昇司日本側研究代表者名: 山岡 昇司東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科・ウイルス制御学分野教授

京都大学医学部医学科卒業後、研修外科医として京都大学医学部附属病院に勤務。新潟県立中央病院外科、京都大学大学院医学研究科博士課程分子医学系専攻、京都大学ウイルス研究所、パリ・パスツール研究所、東京医科歯科大学医学部助教授を経て、07年より現職。

Alexander Kwadwo Nyarkoガーナ側研究代表者名: Alexander Kwadwo Nyarko(アレクサンダー・クワド・ニャルコ)
野口記念医学研究所 所長

野口記念医学研究所所長および国際寄生虫対策西アフリカセンター長。ガーナ大学で生化学の学位取得後、米国でも研究。主な専門は、糖尿病と高血圧に関する臨床化学、化学的誘導による中毒障害、および薬草の薬理学・毒物学研究。

日本

日本国側の視点

■ハーブを利用した安価で効果的な治療法の開発
ガーナには3000種を超えるハーブが自生し、そのうち約1000種の有効成分が特定されているものの、現行の対象疾患以外にその有効性や安全性、機能解析はほとんど行われていません。これを研究することで、より効果的で新しい治療法を開発すると共に、地域に根付いた伝統医療を発展・充実させることで、感染症の抑制と国民の医療へのアクセスを促進します。
HIV/AIDSの患者数が増加傾向にあるのは、ガーナだけではありません。日本でも、徐々に患者数が増加しています。安価で効果的な治療法の開発は、全世界から望まれています。


ガーナ

相手国側の視点

■人材育成と保健医療体制の向上を目指して
ガーナではWHOのガイドラインにそってエイズの薬物治療が開始されましたが、治療を受けられる人は限られています。トリパノソーマ症に対しては、有効な治療薬がない状況です。
ガーナには長い伝統医療の歴史があります。その資源とネットワークを感染症対策に活かすとともに、自国で発展させることが可能な課題に取り組むことで感染症対策分野の人材育成をはかり、ガーナ国民への保健医療体制を向上させたいと望んでいます。


プロジェクト概要

HIV/AIDSとトリパノソーマ症、ふたつの感染症に対するより有効性の高い薬剤の開発に貢献することを目的としたプロジェクトです。現地に自生し伝統医療で用いられているハーブの中から抗HIV活性成分または抗原虫活性成分を抽出します(注釈1)。このように生薬成分の効果(注釈2)を評価する方法を確立・標準化し、薬草等をもとにした伝統的な治療方法とそれをもとにした現行の伝統医療のシステムに科学的な根拠をもたせることで、ガーナの実情に即した持続可能な治療法の確立を目指します。

(注釈1):大きく分けて以下2つの効果のある成分をハーブから探索・分析する
 1,HIV/AIDSウイルスを撃退する植物由来成分を探す
 A.ウイルスを撃退する成分が体内につくられるように促す植物由来成分を探す  
 B.細胞の中に、潜んでいるウイルスを外に出させる植物由来成分を探す
 2,トリパノソーマ症の原虫を撃退する植物由来成分を探す
(注釈2):生薬のどの成分がどこでどのように効いているのか

レップスくん×プロジェクトインタビュー

レップスくん

途上国の感染症を研究されるようになった動機は何ですか?

山岡先生

私は大学卒業後、外科医として働いてきました。ウイルスに興味を持ち、白血病を起こすガンのウイルス研究を行った後、現在の大学でHIVに関する研究を始めました。国際貢献を重視する東京医科歯科大学の教員としてSATREPSに従事して以来、一層アフリカの感染症問題を真剣に考えるようになりました。実際に現地に行ってみたことで、それまでメディアを通して見ていた途上国の現実を知り、世界観が一気に変わりました。以来、学問としてのウイルス研究に加えて、途上国における問題を解決するためのウイルス感染症の研究を行うようになりました。

アフリカ特有の課題はありますか?

山岡先生

国のインフラ整備が行き届いていないこと、農村地域では特にそうですが、近代的医療施設へのアクセスが地理的にも経済的にも制限されていることがあげられます。HIV/AIDS問題で言うと、感染者のうち治療を受けることができるのは推計約30%と見られています。

日本にあるHIVの薬を届けるのではダメなのですか?

山岡先生

HIVといっても、その中に多くの型(B型、C型といった型が主要なもので8つもあります)があり、ガーナを含む西アフリカでは日本のそれとは異なる型が流行しています。日本のような先進国で使用されている薬が効くことを確かめること、現地の実情に合う薬を開発することが必要と考えています。

伝統医療は今でも残っているんですね?

山岡先生

生薬標本ガーナでは伝統医療が今も根付いており、薬草・伝統医療の文化が重視されています。薬草を調合する人(ハーバリスト)もたくさんいます。しかし、彼らの組織化はなされていません。ガーナ政府の希望としては、自国に根付く植物の中から有効な薬を開発したいという思いがありました。実際にそれら薬草の中には、病原体や感染細胞に直接効果を示すものや、自然免疫・獲得免疫のような生体内環境に影響するものも存在します。

この共同研究によって、具体的にどういった点で日本に好影響をもたらすのですか?

山岡先生

HIV/AIDS患者は日本でも年々増加傾向にあり、2008年には過去最高の感染者数が報告されました。研究成果は、新たな有効治療へのアプローチの提示につながります。また、1979年、野口英世の遺志を受け継ぎ両国の期待を背負って設立された野口記念医学研究所との密接な関係の継続的構築とガーナの保健医療への貢献は、西アフリカ地域における日本のプレゼンス強化にも役立つと考えています。

ガーナで共同研究することは大変ですか?得られたものはありますか?

山岡先生

ミーティング現地の人々にとって本研究は、自国の伝統の中に眠る価値を調べることであり、かつ自国で適用できる新しい科学技術の習得、人材育成にもつながるので、非常に高いモチベーションで取り組んでいます。また、SATREPSがなければここまで深く現地にいる色々な職種の方々と出会い、議論し、理解することはできなかったと思います。

ガーナという国は、日本にとって実はとても馴染みのある国だそうですが?

山岡先生

ガーナは、私たちが好んで口にするチョコレートの生産国です。また、千円札の野口英世が黄熱病を研究し、自ら命を落とした土地でもあります。実は私たちにとって身近な国なんです。今回の研究も、ガーナと私たち日本の距離を一層縮める役割を果たすことができればと思います。

今後の展望は何ですか?

山岡先生

まずはガーナに自生する植物から有効成分を抽出することにトライします。その後、成分の効用研究、合成可否の分析と展開していきます。薬を開発するにはコストや安全性といったクリアしなければならない様々な課題がありますが、やはり最終的には、薬剤の開発につながる“原石”を抽出したいと思っています。さらに、このプロジェクトによって日本・ガーナ双方で人材育成が進み、相互理解の促進と科学的研究能力の向上が期待されます。


レップスくん豆知識

ガーナはアフリカの中でも独立が早く治安の良い国で、事業も比較的行いやすい国なんだね!



感染症

研究代表者(所属機関) 山岡 昇司(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 教授)
国内共同研究機関 長崎国際大学
採択年度 平成21年度(2009年度)
研究期間 5年間
相手国名 ガーナ共和国ガーナ
相手国研究機関 野口記念医学研究所

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