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安心して暮らせる未来のために... ~低炭素社会を築くためのシナリオを書く!~

安心して暮らせる未来のために...
~低炭素社会を築くためのシナリオを書く!~

研究分野/領域
環境・エネルギー(カーボンニュートラル)

安心して暮らせる未来のために... ~低炭素社会を築くためのシナリオを書く!~

今年(2015年)、東京では8日連続で最高気温が35℃を超え、猛暑日の連続記録が更新されました。2020年の東京五輪のころには、もっと気温が上昇するのではないかと懸念されています。気候変動は地球規模で大きな脅威となり、持続可能な社会を維持するための障壁となっています。
気候変動の原因の一つには、二酸化炭素など温室効果ガスの増加があると考えられています。とりわけ、発展の目覚ましいアジア地域における温室効果ガス排出が問題視されており、排出量の削減は喫緊の課題です。日本では1997年の京都議定書をはじめとして、低炭素社会の構築に向けて多くの提案や取り組みを行ってきました。日本で蓄積してきたノウハウをアジア地域の途上国・新興国向けに改良して適用できれば、地球温暖化を抑制し、さまざまな自然災害リスクを回避することにつながります。
本課題では、マレーシア国をモデルとして低炭素社会を構築するための「シナリオ」を書くことを目指しています。温室効果ガスの排出をただ抑えるだけでなく、マレーシアで生活する多くの人の願いや希望を反映させたシナリオにしようと、あらゆる角度から総合的に研究を行っています。

日本側研究代表者名:松岡 譲

都市環境工学専攻 教授

京都大学大学院工学研究科博士課程中退。工学博士。名古屋大学大学院工学研究科教授を経て、平成10年から現職。平成20年度から平成25年度まで、京都大学グローバルCOE「アジア・メガシティの人間安全保障工学拠点」リーダー。専攻は、気候変動問題の統合評価モデリング。

日本の国旗日本国側の視点

日本のリードで気候変動を緩和したい

低炭素社会の実現は、21世紀の世界が抱えるもっとも重要な課題です。課題解決のためには、エネルギー、産業、商業、農業、交通など幅広い分野の活動について、10年以上にわたる長期的な対策を考える必要があります。また、これらの活動に伴って排出される温室効果ガスの削減についても、社会・経済発展の見通しと合わせて実行していかなければなりません。
総合的な低炭素社会の計画作りは、日本においてもまだ始まったばかりです。しかし、低炭素社会を目指し、気候変動を緩和するためには、アジア地域だけでなく世界全体で協力体制を築くことが大切です。そのリードを日本が取り、まずはアジア地域との協働作業を行うつもりです。そしていずれは、世界各地で同時進行的に低炭素社会に向けた取り組みがなされるよう、働きかけたいと思います。これらの活動は、気候変動緩和に関する日本の寄与を高める上で大変有意義なことと考えています。

マレーシア側研究代表者名:Ho Chin Siong

マレーシア工科大学
Faculty of Built Environment 教授

豊橋技術科学大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。マレーシア工科大学講師、准教授を経て、平成19年から現職。Office of International Affairs・Director(Relations)兼任。専攻は、低炭素社会シナリオ研究、環境調和型都市計画。

マレーシアの国旗相手国側の視点

日本と協働して低炭素社会を目指す

東南アジアの代表的な新興国であるマレーシアは、急速な経済発展の最中にあります。例えばイスカンダル地域では、今後10年間に人口・経済活動のいずれも二倍以上にすることを目指しています。一方、低炭素社会の実現に対しても大きな意欲をもち、低炭素社会・経済開発とはどのようなものか、どのようにして実現したらよいのか模索してきたところです。日本と協働し、これらを探索するこのプロジェクトに対し、大きな期待を寄せております。

プロジェクト概要

低炭素社会を実現するためのシナリオは、マレーシア全体に向けたものとマレー半島南部のイスカンダル地域に向けたものの2つが研究されています。イスカンダル地域はマレーシア政府が経済開発を特に推進している場所で、今後人口や地域総生産の大幅な増加が見込まれます。経済成長を妨げずに温室効果ガス排出量をどのように抑制していくか-- 日本の技術とアイデアが求められているのです。

〈 低炭素社会のシナリオを書くための3つのアプローチ 〉

アプローチ1 目標とする低炭素社会の姿を描く

マレーシア国民およびイスカンダル地域の住民の聞き取り調査により、ライフスタイルや理想とする社会像を明らかにします。そして、目標とする低炭素社会のビジョンを描きます。

アプローチ2 実現するための方法を模索する

発電、産業、交通、商業、家庭、土地利用といったさまざまな分野において、個別に温室効果ガスを減らすための対策を練ります。費用対効果なども加味する必要があるため、慎重に検討していきます。

アプローチ3 スケジュールを立てる

現在の社会・経済システムをいつどのように転換していくか考え、具体的な行動スケジュールを立てます。そして、すぐに取り掛かるべき施策、長期的に考えていく施策を洗い出します。

低炭素社会の実現と、マレーシアの経済発展が両立するようなシナリオをつくります。シナリオを実際に適用し、マレーシアをモデルとしてアジアの途上国・新興国向けの低炭素社会の実現法を確立させます。その方法をアジアの他地域に展開し、アジア全体で温室効果ガスの排出量を減らします。

温室効果ガスの排出量を減らすには、具体的にはどんなことをすればいいの?

松岡先生

写真:活動風景交通、産業、制度、建築物、エネルギー、ライフスタイル、環境教育、土地利用、廃棄物など12の分野について281のプログラムを提案しました。交通分野で言えば、バスルートや接近表示システムの整備、高速鉄道整備と輸送モード*1 間のスムーズな連結、さまざまな交通需要マネジメント手段*2の採用、などです。また、その中には、こうした対策を受け入れやすくするための各種の制度の整備や学校教育などのプログラムも入っています。

*1 輸送モード...トラック、鉄道、船、航空機など、輸送手段のこと。
*2 交通需要マネジメント手段...自動車の利用方法を変更するなどし、交通量の抑制や調整を行う手段。

温室効果ガス削減の数値目標は、どうやってたてているんですか?
どんなデータに基づいてどんな計算をしているの?

松岡先生

設定するにあたり、二つのよりどころがありました。一つは国全体で決めた目標です。マレーシア・ナジブ首相は、2009年にコペンハーゲンで開催された気候変動に関する会議で、2020年までに二酸化炭素の排出強度(排出量とGDPの比)を40%下げると宣言しました。イスカンダル地域は、マレーシアを代表し模範となるべき開発地域ですので、この数値はクリアしなければなりません。もう一つのよりどころは、削減可能性から考えた値です。これは質問1に関連していますが、考えられる対策について、まずは出来そうか、やる気はあるのかを試算したり、ステークホルダーと相談するなどしました。これらの結果実行すべきとされたのが、上に述べた281のプログラムです。そのふるい分けに当たっては、削減効果を地域の社会・経済・産業・交通・農業・土地利用などの将来的見通しや、自然エネルギーの資源量、農業・都市廃棄物などからのエネルギー回収量などの推計を基に積算しました。対策を講じることで削減できる量を計算してみると、2025年にて特段の対策を行わないときの排出量の40%減となりました。排出強度ですと2005年比58%減となり国目標に比べ遜色ないと考えられましたので、これを削減目標としました。

経済発展を阻害しないで低炭素社会を実現するには、どんなことに気をつけたらいいんですか?

松岡先生

写真:活動風景現在、イスカンダル地域は、石油化学、食料加工、電気・電子中心の産業構造から、ファイナンス、クリエーティブ、ヘルスケア、教育産業など、二酸化炭素排出量は少ないが付加価値が大きい産業構造への転換を目指しています。生産設備や社会インフラも新たな投資となる分が多く、最新の省エネ・低排出の施設やシステムを積極的かつ意図的に整備することによって経済発展にも大きく貢献するものと考えられます。しかし、そのためには、長期的視野に立ち、個々の事業所やグループというよりも、地域全体での効果を考えさせる制度や情報システムが必要です。また、それを後押しする人々の認識も重要で、学校や社会での環境教育が必要となります。こうした仕組みが、バラバラでなく合理的にデザインされており、かつ効率的にかみ合うことが大切で、さもなければ、地球環境にもサイフにも優しい社会にたどり着くことはできません。

低炭素社会の実現は、大気汚染など環境問題の解決にもつながると聞きました。どういうことか教えてください!

松岡先生

大気汚染の原因は、自動車、工場、発電所などからの汚染物質の排出であり、その多くは化石燃料の燃焼によって生じます。一方、低炭素社会実現に向けては、化石燃料の燃焼を出来るだけ少なくするようにしますから、これは、多くの場合、大気汚染の軽減をもたらします。

社会のしくみに関わることなので、マレーシア政府のリーダーシップが大事ですよね。政府との連携はどうなっているんですか?

松岡先生

写真:活動風景プロジェクト参加研究者による第11回目の進捗会議。イスカンダルにて。政府のリーダーシップは必須です。そのため、共同研究パートナーに、この地域の開発を担当する官庁や中央政府で国土開発を担当する部局が入っておりますし、さらに計画実施に当たっては彼らが中心となって遂行しています。

レップスくん 豆知識
  • バックキャスティング

    低炭素社会のためのシナリオづくりは、「バックキャスティング」という考え方に基づいているんだ。バックキャスティングとは、理想とする未来を思い描き、その実現のために現在なすべきことを逆算して考えるというもの。持続可能な社会をつくるためにはとても大事な考え方なんだ。

  • レップスくん
プロジェクトの詳細は課題ページをご覧ください。
研究課題の概要や実施風景、報告書などがご覧になれます。

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