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ナイル川流域も水不足!? ~節水によって確保した水資源で砂漠を農地に!~

ナイル川流域も水不足!?
~節水によって確保した水資源で砂漠を農地に!~

研究分野/領域
環境・エネルギー(地球規模の環境課題)

ナイル川流域も水不足!?~節水によって確保した水資源で砂漠を農地に!~

エジプトは国土のおよそ95%が砂漠で、雨はほとんど降りません。そのため飲み水や農耕に必要な水はすべてナイル川から得ています。「ナイル川があれば水には困らないはずだ」とみなさんは思うかもしれません。しかし、流域には多くの国家があり、人口もどんどん増えてきています。そのため、ナイル川下流に位置するエジプトは、深刻な水不足に悩んでいるのです。限りある水をなんとか有効に活用し、豊かな生活を続けられるようにしたい。それがエジプトの切実な願いです。本課題では、効率的な灌漑や乾燥地に適した作物の栽培、水のくり返し利用など、水問題の解決に向けてさまざまな研究を行いました。その結果、農業に要する水量を最大で20~30%程度削減できる道が拓けました。節水によって得られた水を使えば、砂漠を農地として活用でき、食料問題の解決につなげることができます。砂で覆われた大地が、緑豊かな農地に生まれ変わる日も近いかもしれません。
*灌漑...作物の栽培のため、水田や畑に水を引き込むこと。

  • 写真:活動様子その2
  • 写真:活動様子その1

日本側研究代表者名:佐藤 政良

筑波大学名誉教授
(生命環境系)

東京大学農学部農学系研究科を修了後、岐阜大学農学部助手、岩手大学農学部助教授を経て、1982年から筑波大学助教授、1997年から筑波大学教授、2012年から筑波大学名誉教授。
この間、日本の灌漑を自然条件と社会条件の両面から総合的にとらえる研究を行い、1990年からは海外諸国における灌漑システムの分析、水資源開発・管理のあり方についての研究活動を行っている。

日本の国旗プロジェクトを終えて(日本国側)

地球の水資源をどのように管理していくか

地球上の人々が利用可能な水資源の量には限界がある。途上国を中心とする人口増加によって、水需要は増大し、多くの国で、その限界に達しつつある。その形態は地域によって大きく異なるが、日本は世界に先駆け、300年以上も前から水管理の限界に挑戦してきた経験を持ち、激しい都市化も経験した。この歴史的経験と最新の観測技術をもってエジプトの水利用の現状を解明し、効率的で持続的な水資源利用の基本方向を示すことができた。最も重要なことは、政府、農民、市民らが、現状について事実に基づく共通の理解を進め、その上で水利用のあり方について議論し、透明性のある政策決定をしていくことであろう。研究者はそこに大きな貢献をしていけるものと思う。

エジプト側研究代表者名:Rushdi Mohammed Mohammed El-Kilani

カイロ大学農学部土壌科学科 准教授

カイロ大学農学部(土壌科学)卒業後、オランダ Wageningen 農業大学で修士号(水管理)と博士号(環境物理学)を修得、2008年から現職。
主な研究活動は、エコシステムとしての環境の中における熱と物質(水と汚染物質)の移動システムの解明で、人間活動が環境に及ぼす影響をどうすれば減らすことができるか考えている。

エジプトの国旗プロジェクトを終えて(相手国側)

エジプト研究者の水・土壌管理に関する能力を高める

4大文明の一つを打ち立てた古代エジプト人の成功は、水の動きをはじめとするナイル川の自然現象を理解し、それを農業に利用する巧妙なシステムを打ち立てたところにあった。ところが現在では、水・土壌資源を持続的に利用するという面で、多くの困難を抱えている。そのもっとも大きな原因は、今も続く急速な人口増加である。人口増加は水の需要を押し上げ、塩、汚濁物質等の集積は環境へのストレスとなってシステムの持続性を脅かしている。本プロジェクトが提供した最新の分析機器と専門知識によって、エジプトのエコシステムの動態を解明する重要な一歩を踏み出すことができた。SATREPSプロジェクト、日本の研究者および日本の人々の支援に、心から感謝している。

プロジェクトの成果

水の適切な利用に必要となる基礎データを収集!

農業において水を適切に利用するには、灌漑や降雨等により「入ってくる水」と蒸発・蒸散等により「出ていく水」の収支を把握しておくことが必要となります。

本課題では、ナイルデルタ*の農地における水収支を初めて精確に推定することに成功しました。これにより、農業用水の節水に必要なデータが得られ、灌漑の工夫などに利用されています。

* ナイルデルタ...ナイル川河口の三角州地帯。エジプト北部に位置する。

防風林の効果的な利用条件をつきとめた!

土壌や農作物を強い風から守るために植えられた木々を防風林といいます。防風林には、風の威力を弱め、土壌から水分が失われるのを防ぐ効果もあり、節水のために重要な存在です。ただし、効果が発揮される仕組みは複雑なので、その導入は慎重に行わなければなりません。本課題では、どのような条件下で防風林が節水に寄与するかを詳細に検討し、効果的な条件を見つけました。

効果的な2つの灌漑法が判明!

灌漑にはさまざまな方法があります。その土地に適した灌漑法を行えば、作物の収穫量を増やすことが可能です。ナイルデルタでは「点滴灌漑*1」と「細溝灌漑*2」であれば、使用する水の量を抑えつつ、一定の収穫量をあげることが可能であるとわかりました。

*1 点滴灌漑...穴の開いたチューブやパイプに水を通し、穴から作物の根に少しずつ水を供給する方法。
*2 細溝灌漑...エジプトでは作物を植える畝の間にできる溝に水を通して灌漑することが多いが、この溝の本数を減らすことで水量を抑える方法をいう。

ナイルデルタでの農業に要する水量を、最大20~30%削減する見通しが立ちました。削減できる水量は100億トン程度と考えられ、これは東京都における上水道の全使用量の6.5倍に相当します。

えっ!そんなにたくさんの水を
節約できるんだ。すごいなぁ

レップス君から一言
エジプトでの研究は、政情不安などもあって大変だったようですね。どんな苦労がありましたか?

佐藤先生

市民がデモを行って、軍出身の大統領を追放するという出来事がありました。その後、市民同士が対立し、また軍事政権に戻るなど不安定な時期でした。銃撃、投石などで危険なので2度にわたって研究活動を中断しなければならなくなり、観測が止まりました。また、観測機材が壊されたりもしました。

エジプトではどんな農作物がとれるんですか?

佐藤先生

昔エジプトは、秋の洪水の後に麦などを栽培していました。19世紀には、綿花が栽培されるようになり、今では一年中いろいろな作物が作られています。例えば、夏にはトウモロコシ、お米、綿花、冬には小麦、牧草、砂糖大根、ソラマメなどが作られています。また、トマト、ナス、タマネギ、オクラなどの野菜、オレンジ、ブドウ、マンゴーなどの果物も採れます。

ナイルデルタでは「塩害」が大きな問題になっているようですね。塩害とはどういったものですか?また、解決方法にはどのようなものがあるのでしょうか。

佐藤先生

灌漑用水や地下水の中には少量の塩が含まれています。この塩は、畑などから水が蒸発するとき、畑の表面に残ります。乾燥地域で灌漑をした場合、地下水位が高く、直接地表面から地下水が蒸発するため、ますます塩がたまります。するとそこではもう作物を栽培できなくなってしまうのです。主な対策は、地下水位を低下させること、たまった塩を洗い流すことです。

先生は燃料作物の栽培についても研究なさったそうですね。どうして研究しようと思ったの?

佐藤先生

水の無駄を徹底的になくすため、排水も利用できないかと思ったのです。排水には有害な物質なども含まれるため、食料となる作物の栽培には適しません。そこで燃料作物に注目しました。このプロジェクトで試験を行った作物は、ジャトロファ、ヒマ、ホホバ、ヒマワリ、ナタネです。

先生の夢を教えてください。

佐藤先生

水の利用、特に灌漑は、それぞれの国・地域の気象だけでなく、社会・歴史的な条件も複雑に絡み合っています。そのせいで、農民ばかりでなく、研究者や行政の人たちさえも自分たちが行っている灌漑のことを理解するのが難しいのです。世界の多くの人と交流し、日本の経験を伝えながら、水争いを減らし、合理的な水利用のあり方を考えていきたいです。

レップスくん 豆知識
  • ナイル川では昔、夏になるといつも洪水が起こっていたんだ。でも洪水は栄養分の多い土を運んできてくれたり、余分な塩類を洗い流してくれたりもしたんだよ。だからエジプトの土は農耕に適したものだったの。農耕が豊かさを生み、エジプト文明の発祥に一役買ったと考えられているよ。

  • レップスくん
プロジェクトの詳細は課題ページをご覧ください。
研究課題の概要や実施風景、報告書などがご覧になれます。

環境・エネルギー(地球規模の環境課題)

エジプト・アラブ共和国

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