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魚介の養殖技術向上が世界を救う!~東南アジアを世界の食糧庫に!~

 魚介類は大切なタンパク源であると同時に、DHAやタウリンなどの機能性物質に富む食資源です。日本はもともと魚を多く消費する国ですが、欧米において健康志向が強まったことや、中国の経済成長により、昨今では世界中で水産物の需要が増大しています。また、2050年には世界人口が90億人を超えると予想されており、ますますその需要量は増えるでしょう。しかしながら、水産資源には限りがあります。現在でもすでに乱獲によって絶滅しかけている魚が多くいるのです。そこで、水産物を養殖によって生産することが食資源の確保において重要な課題となります。
 養殖によって安定的に水産物を得るには、越えなくてはならない壁がいくつもあります。例えば、感染症や飼料の確保の問題などです。本課題では、タイ国と共同で新しい養殖技術の開発を目指します。タイ国は日本にとって重要な水産物輸入相手国であるとともに、水産学分野で東南アジアをリードする存在です。東南アジアを「世界の新しい食糧庫」へと成長させるべく、さまざまな技術の確立に取り組みます。

写真:活動様子その1
写真:活動様子その2
写真:活動様子その3

岡本 信明日本側研究代表者名: 岡本 信明国立大学法人
東京海洋大学 特任教授

前東京海洋大学・学長(2012-2014)
東京水産大学大学院水産学研究科水産増殖学専攻修了。水産学博士。専攻は水族病態生理学、 水族遺伝生理学。
東京水産大学助手・助教授・教授、東京海洋大学教授を経て2012年、東京海洋大学・学長に就任。ウイルス病に対する耐病性遺伝子座の推定に魚類で初めて成功した。後に、耐病性遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを用いた魚類の分子育種にも初めて成功し、魚類ウイルス病被害の軽減に大きく貢献した。2009年日本魚病学会賞、2014年日本水産学会賞など、学会賞受賞多数。

Kom Silapajarnタイ国側研究代表者名: Kom Silapajarn農業・協同組合促進省
水産局沿岸水産養殖
研究・開発部
Director

カセサート大学で学士・修士を取得後、アラバマ州オーバーン大学で修士・博士取得。帰国後Songkhla沿岸水産研究所のディレクター、農業・協同組合促進省水産局企画開発部のディレクターを歴任後、2014年から現職。

日本

プロジェクトを終えて(日本国側)

■日本の技術で世界の食糧倉庫を!
世界的な人口増加による食糧不足を解決するために、魚介類などの水産食糧資源が注目されています。日本は古くから魚食という文化をもっており、現在でも水産増養殖技術にかけては世界トップレベルです。一方、東南アジア諸国では、養殖現場での感染症被害や水産物の生産コスト高によって、養殖産業の衰退が心配されています。今こそ、日本が50年以上かけて磨き上げてきた水産養殖技術を伝える時です。東南アジア諸国と日本が手を組み「世界の食糧倉庫」を作り上げたいと思っています。


タイ王国

プロジェクトを終えて(相手国側)

■多様な研究活動で水産養殖の向上を目指す
本プロジェクトでは急増する人口に対応するため、重要な食資源のひとつである水産物を養殖によって生産・確保できるよう、優良品種作成、養殖に関わる繁殖技術開発(借り腹技術)、感染症診断と予防、ワクチン開発、代替飼料開発、危害因子検出技術開発等多岐に亘る研究を行っています。また本プロジェクトの実施によりタイ側の水産局、複数の大学機関が協力体制を築き上げ、更に若手研究者達が日本人専門家や日本の機関で研修を受ける機会を得たことも重要な成果となっています。


写真:活動様子

プロジェクト概要

優良品種をつくる

写真:活動様子

「環境の変化に強い」「病気にかかりにくく丈夫」「成長が早い」といった性質をもつ優良品種をつくります。特に商品価値の高い魚を養殖しやすく改良し、安定した利益を得ることを目指します。本課題では短期間で優良品種を得るため、遺伝子・ゲノムレベルの情報を活用した育種を行います。

「借り腹技術」を利用する

Aという品種の子どもをBという品種に産ませることを「借り腹」といいます。借り腹技術を用いれば、大型魚類の子どもを小型魚類に産ませることができます。親魚が小型魚類であれば、小さなスペース、少ないエサ量で維持することができて効率的です。また、大型魚類は成熟して子を産むまで時間がかかりますが、小型魚類であれば成熟するまでの期間が短縮できるため、育種の面からもメリットがあります。

感染症を防ぐ

写真:活動様子

魚も人間と同じように、感染症にかかれば薬で治療をしますし、ワクチンによって予防を行うこともあります。適切な感染症対策を講じるためには、魚の免疫について解析する技術が必要です。そこで本課題では、魚介類の免疫・生体防御反応について遺伝子レベルで解析する手法を開発します。また、効果的なワクチンをつくるため、病原微生物の研究も進めます。

新しいエサを開発する

写真:活動様子

養殖魚のエサには魚粉が使われています。現状では、1kgの養殖魚を生産するために4~5kgもの魚粉が必要で、動物タンパクの収支では完全にマイナスです。本課題では大豆やトウモロコシ、家禽副産物などを養殖魚に与えて成長を観察し、魚粉に代わるエサの開発を目指します。
*家禽副産物…食肉加工の過程で出た不要な部分。

化学物質や貝毒による汚染を検出する

安全な食料資源として養殖魚を提供するには、危険な物質に汚染されていないかチェックする必要があります。本課題ではマラカイトグリーンと貝毒を対象とし、安価な方法で汚染の有無を確認する方法を開発します。
*マラカイトグリーン…染料や殺菌剤として用いられる化学物質で、発がん性を有します。

タイにおいて、価値の高い魚類の養殖を新産業として確立させます。その成果を周辺各国にも普及させ、東南アジアを世界に水産食資源を供給する一大拠点にすることを目指します。

養殖が成功すれば天然ものの魚を守れる。天然資源は大事にしないとね…
実はボクも絶滅危惧種。
他人事とは思えないんだ…

レップス君から一言

レップスくん×プロジェクトインタビュー

レップスくん

魚の養殖はいつごろから始まったんですか?(日本、世界含め)

岡本先生

紀元前11世紀の中国でコイ類の養殖に関する記述があり、これが養殖に関する最古の記述といわれています。日本では江戸時代の初期に、タイでは昭和22(1947)年にコイの養殖が行われていたようです。海水魚では昭和2(1927)年に香川県でハマチ等を養殖したものが最初といわれています。タイでは昭和48(1973)年にスズキ養殖への取り組みが始まりました。

いけすでは、どのくらいの密度で魚を飼っているんですか?

岡本先生

写真:活動風景飼育密度は養殖する魚の種類やその大きさ、水温などの養殖環境によって異なりますので一概には言えません。例えば、日本の養殖生産量の半数近くを占める養殖ブリ・ハマチの場合は1m3あたり7kgが適正だと言われています。養殖業を持続可能なものにするためには、適正飼育密度を遵守し、養殖活動による水質汚染を防ぐことが重要になります。

いけすは海につくるんですよね? 嵐がきても魚は大丈夫?

岡本先生

写真:活動風景その9写真:活動風景その10日本の海水魚養殖ではいけすを沖合の海中にぶら下げ、その中で養殖する方法が主流となっていますが、タイでは河川などの海につながる水路にいけすをつくっています。嵐がきた際にはいけすが流されたり、嵐による環境の変化で魚が死んでしまうことがあります。このような被害を抑えるために浮沈式いけすの開発や陸上養殖技術が研究されています。
*浮沈式いけす…海中に沈めたり、海上に浮かせたりできる。沈めてしまえば、嵐の影響を受けにくいため、魚をまもることができる。

天然の魚と養殖魚では、味が違うんですか?

岡本先生

養殖魚は天然の魚のように動き回ってエサを探す必要がないので、どうしても運動不足になり、天然魚に比べると脂肪分が多く、肉質は柔らかくなります。昔の養殖魚は味の点で評価が低かったのですが、現在の飼育法は昔と比べて格段に進歩しており、天然の魚より美味しいという評価も聞かれます。

魚にワクチンを与えるときは、やっぱり注射をするんですか? 大変そうです…

岡本先生

注射以外にも、エサに混ぜる、ワクチン液に魚を浸すという方法があります。現在は使用するワクチン量が少なく、規定量を確実に投与できることから注射法が主流となっています。注射法では養殖魚1尾ずつにワクチン液を注射するため、大変な作業になります。このため、連続して注射できる器具を開発・利用するなど、負担の軽減が図られています。

養殖魚にエサとして与える魚粉ですが、どんな魚を原材料にしているんですか?たくさんのエサが必要なので、いままでは全く食糧問題の解決になっていなかったわけですか?

岡本先生

カタクチイワシやアジ、サバが魚粉の主要な原材料になります。実は魚の養殖には、牛や豚などの家畜を育てるのに比べてエサがはるかに少なくて済みます。養殖業は1980年以降に急激に成長した産業ですので、これから食糧問題の解決策になると期待されています。私たちの課題の成果も食糧問題の解決に貢献できると確信しています。

タイではどんな魚料理が人気なんですか? 先生は何の魚が好きですか。

岡本先生

写真:活動風景タイではスズキ、ティラピアが一般的によく食べられています。また、私はナマズやハタも好きです。これらの魚は油で揚げたり、スープに入れたり、蒸したりといろいろな調理方法で食べられるので、家庭料理からお祝いの席での料理まで幅広く食されています。


タイ日関係をつなぐプラー・ニン(ティラピア)
レップスくん豆知識

バックキャスティングタイで人気のおいしい魚、プラー・ニン(ティラピア)は、もともとナイル川に生息する淡水魚。タイにこの魚が入ってきたのは、なんと、魚類学者だった明仁皇太子殿下(当時)のおかげなんだよ!タイの国民はその昔、動物性タンパク質不足に悩んでいたの。それを知った殿下が国王陛下にティラピアを贈ったんだって。
国王陛下は宮殿でティラピアを飼育して研究し、繁殖に成功。その後、水産局が養殖するようになったの。黒の横縞模様に茶色の鰭と白斑模様という外見の特徴から、バーリ・サンスクリット語で「黒い」という意味の言葉を使い「プラー・ニン」と命名されたんだ。



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