秋季応用物理学会学術講演会「鉄系新高温超伝導体特別セッション」開催
-2008年9月4日(木)中部大学春日井キャンパス-

東工大細野教授の研究グループにより2008年初頭に発見された新系統の鉄オキシニクタイド高温超伝導体は、従来の銅系の高温超伝導体とは異なる特徴も持っていることから、物理的にも工学的にも世界的な注目を集めています。しかし、日本においてはこの材料の研究者があまり多くありません。これは、合成の際に危険性をともなう過程を含むことから参入を躊躇することによると思われます。この状況を受け、応用物理学会では、このほど開かれた秋季学術講演会において、合成法を中心に最新の情報を交換する特別セッションを企画しました。このセッションは3部から構成され、第1部は招待講演、第2部は通常講演、第3部はポストデッドラインのセッションでした。当初設定した会場に入りきれず、途中から急遽広い会場を用意して移動するくらい多くの聴講者が来場しました。

トピックスを簡単に紹介しておきます。

第1部では、この物質の研究で世界を先導している東工大と産総研から、合成法の詳細が報告されました。新しい話題として、東工大グループから、レーザ蒸着法によりSrFeCoAsO(臨界温度約20 K)のエピタキシャル薄膜の成長に初めて成功したという報告がありました。一方、産総研からは、前駆体材料の選択と仕込み組成の酸素量の制御によって危険性の少ない高圧合成が可能であるという報告がありました。フッ素を含まない系で54 Kの臨界温度が得られたという結果は海外との1日を争う発表競争になったという話もありました。フッ素量と臨界温度の関係などが調べられ、格子定数と臨界温度の間に大きな相関があること、またFeAs4-四面体が正四面体に近づくと臨界温度が上昇することが見出されました。

第2部の講演のトピックスとしては、LaFeAsOの160K近傍に見られる電気抵抗の異常に関する東工大からの発表が注目されました。この異常は、正方晶-斜方晶構造相転移に基づくもので、フッ素をドープすると相転移温度が下がり臨界温度が上昇するということでした。

第3部では、古河電子から砒素の取扱いについて、九工大から薄膜化について報告がありました。物材機構からは、常圧下での約8Kの臨界温度をもつFeSe系物質が、1.48GPaの高圧下で27 Kとなること、さらにFeSe0.7S0.3系では常圧下でも15K以上となることが報告されました。東北大からは、適切なシース材の採用によりシースに粉末を詰めるやり方でLnFeAsO線材の作製に成功したとの報告がありました。この線材の臨界温度は、希土類としてサマリウムを用いた場合52 Kに達したとのことです。結晶粒内は高い臨界電流密度を有しており線材として有望ですが、実用化のためには不純物の低減が課題ということでした。
(応用物理学会超伝導分科会藤巻幹事長の報告に基づき記載)