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コウモリがドローンのモデルに? 獲物の位置を先読みして飛行ルートを決定

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

JSTnews 2016年6月号掲載

夜空を自在に飛び回るコウモリ。口から超音波を発信し、それが物に当たって戻ってくる時間や音の大きさで、対象物までの距離や位置を正確に探知しています。暗闇の中、体長がたった数ミリメートルの小さな昆虫も見つけて逃さず、一晩に数百匹を捕食するコウモリもいます。狙った獲物を逃さない秘訣は、その絶妙な飛行ルートにありました。

同志社大学生命医科学部の飛龍志津子准教授は藤岡慧明研究員らとともに、コウモリが2匹の昆虫の位置を同時に探知して、双方を確実に捕えられる飛行ルートを設定していることを発見しました。

コウモリの軌道を表現する数学的なモデルをつくり、数値シミュレーション(計算により現象を再現する方法)を行ったところ、目の前にいる獲物に一直線に向かうのではなく、2匹目を見失わないように飛ぶ方が、2匹とも捕らえる確率が高いことがわかりました。

これを実証するため、京都府内の川沿いに多数のマイクを並べ、野生のアブラコウモリが獲物を探る超音波の方向やコウモリと昆虫の位置を計測し、飛行や補食の様子を観測しました。1.5秒未満の短い間隔で、蚊などの昆虫2匹を連続して捕らえた時は、モデルと一致して、両方の獲物に注意を分散し、2匹目の位置を先読みしながら飛ぶことがわかりました。1匹目だけに向けて真っ直ぐに飛ぶと、超音波の当たる範囲から2匹目が外れてしまうためと考えられます。

コウモリの高い捕食能力を解明するとともに、複数の対象を把握しながら、効率的に動く仕組みは、ドローンのように自律移動する高機能ロボットの開発にも役立つと期待されます。出産を迎える夏は、アブラコウモリが1年で最も活動的な時期です。日没前後には、コウモリの狩りの達人技が繰り広げられることでしょう。

シナモン系分子からガラスの強度を超える透明プラスチックを作製自動車の軽量化や温室効果ガス抑制に期待

戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)

JSTnews 2016年6月号掲載

世界最古のスパイスといわれるシナモンからアイデアを得た、最先端のバイオプラスチックが誕生しました。植物や微生物など生物資源が原料のバイオプラスチックは壊れやすく、ペットボトルのラベルやポリ袋など、用途は使い捨て分野に限られていました。

北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科の金子達雄教授らは、堅い構造を持つシナモン系分子(アミノ桂皮酸)を原料として、世界最高強度の透明プラスチックを開発しました。

天然にほとんど存在しないアミノ桂皮酸は、石油から合成するには複数の工程が必要で、1キログラム当たり約100万円と高価です。金子教授らが開発した、遺伝子組み換え微生物で大量生産する手法を使えば、数千円に抑えられると予想されます。こうして得られたアミノ桂皮酸に光を当てることでプラスチックの原料を合成し、さらに化学反応を用いて、バイオ由来の芳香族ポリアミド(高強度プラスチック)の開発に世界で初めて成功しました。

一般的な透明プラスチックのポリカーボネートと比較すると、透明度は同等の高さで、力学(引っ張り)強度は約6倍の407メガパスカルでした。ガラスの力学強度(100 ~150メガパスカル)をはるかに超え、ガラス代替材料として実用化できるレベルです。溶液中で特殊な紫外線を当てれば分解するので、リサイクルも簡単です。

「天然物には秘めた機能がある。石油由来のプラスチックをすべてバイオプラスチックに置き換え、環境にやさしく、かつ超ハイテクの低炭素社会を実現したい」と金子教授。

耐熱温度は273度で、高耐熱プラスチックとしても利用できます。自動車のエンジン周りの耐用温度は250度です。自動車に使われている2万点以上もの金属部品を代替できれば、軽量化や燃費の向上、二酸化炭素の削減など、計り知れない効果が期待されます。

フラーレンC70に水分子を閉じ込める 生命現象の解明や医薬品開発に

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

JSTnews 2016年5月号掲載

1985年に発見されたフラーレンは、90年代に大量合成できる方法が確立され、今では医薬、電子材料、化粧品など、さまざまな分野で注目されています。フラーレンの特徴は、炭素原子が球状に結合した空間に金属や分子を内包(内部の空間に閉じ込める)できることです。

京都大学化学研究所の村田靖次郎教授らは、70個の炭素原子がラグビーボール状に結合したフラーレンC70の内部に、水分子(H2O)を閉じ込めることに成功しました。村田教授らはすでに、60個の炭素原子がサッカーボール状に結合したフラーレンC60に水分子1個(単分子)を内包させていますが、より大きな空間を持つC70なら、結合した水分子2個(二量体)も入れられると考えました。化学反応でC70の結合の一部を切り、水分子が通る大きさの開口部を作ることで、水の単分子や二量体を挿入しました。

水の単分子や二量体は、他の物質と結合しやすいため、水分子そのものを観測することは困難でした。水分子を内包したC70を解析したところ、水分子単独では上下に素早く動いていました。二量体では、2つの分子間に存在する水素結合が切断と再生を繰り返す珍しい現象が観測されました。他の水分子から孤立した二量体の観測に成功したのは世界で初めてで、化学現象や生命活動の重要な物質である水の基礎的性質の解明が期待されます。

水分子と同じ大きさであれば、他の物質の単分子状態も実現できる可能性があり、新しい物性の解明につながります。内包された分子によってC70自体の物性も変えられるので、電子受容体として有機薄膜太陽電池の性能を向上させたり、医薬品のような生理活性素材を開発するなど、多彩な応用が期待されます。

取り除いてたんぱく質の働きを知る 人間の細胞のたんぱく質を短時間で分解除去

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

JSTnews 2016年5月号掲載

生物の最小単位である細胞の分裂や増殖の仕組みを解明するには、たんぱく質の機能を探ることが必要です。

そのためには、細胞内の特定のたんぱく質が失われた場合の影響を観察することが有効ですが、これまでの目的のたんぱく質合成を抑える技術では、除去に数日間かかっていました。細胞の生存に必須で破壊できない遺伝子もあり、解明が難しいたんぱく質が数多く存在します。

国立遺伝学研究所の鐘巻将人教授と名古屋大学の清光智美助教らの研究グループは、人間の細胞内の特定のたんぱく質を短時間で分解除去することに成功しました。

鐘巻教授らは2009年に、植物ホルモンのオーキシンを加えることで、酵母の特定のたんぱく質を分解させる「オーキシンデグロン(AID)法」を開発しました。AID法では、オーキシンと結合して分解を引き起こすタグ(目印)となるペプチド配列をたんぱく質に加えることが必要です。人間の細胞でAID法を利用するため、ゲノム編集技術(クリスパー法)を応用して特定の遺伝子を簡単に変える方法を開発し、その遺伝子が作るたんぱく質に分解タグを加えました。

AID法ではわずか約1時間で除去でき、分裂や増殖など短時間で変化する現象に与える影響を直接観察することに成功しました。分解除去のタイミングも任意に設定可能で、破壊できない遺伝子から作られるたんぱく質の機能解析などに効果を発揮します。

細胞分裂や増殖の仕組みは、研究材料として扱いやすい酵母などのモデル生物で研究されてきましたが、生命医学には人間の細胞の研究が欠かせません。

人間を含む多様な生物種の細胞の仕組みやたんぱく質の役割の解明に役立てたいという願いを込めて、作成した材料はすべてナショナルバイオリソースで公開し、世界の研究者がアクセスできるようにしています。

イネの遺伝子を使ってポプラの木質を強化 バイオ燃料の生産効率向上や高強度木材の開発に期待

戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)

JSTnews 2016年4月号掲載

二酸化炭素の排出を削減して地球温暖化を緩和させるには、植物由来の燃料や材料を最大限に活用し、石油の消費を抑えることが重要です。植物由来の燃料としてはデンプンを原料としたバイオエタノールが最も一般的ですが、食糧生産との競合が懸念されています。そこで木質を原料としたバイオエタノール生産が注目されていますが、エネルギー収支やコスト面の観点から実用化は容易ではなく、植物を改変して木質の生産性を改善することが求められています。

産業技術総合研究所生物プロセス研究部門の光田展隆主任研究員らは、イネの木質生産を制御している遺伝子をポプラに導入することで、木質生産性を約4割向上させることに成功しました。

木質は木だけではなく、イネを含むあらゆる植物が大量に生産しています。光田主任研究員らは、さまざまな植物の木質生産を制御する遺伝子を研究する中で、イネの遺伝子が特に強い活性を持っていることを発見し、ポプラに導入しました。木質の蓄積が増加すると成長が阻害される事例が多いですが、木質を蓄積する細胞でのみ導入遺伝子が働くようにすることで、成長に悪影響を及ぼすことなく大幅に木質生産性を改善できました。遺伝子組換えポプラでは木質の蓄積が増えることで約4割密度が向上し、木材の強度も約6割向上していました。単に木質の生産性を改善しただけでなく、船舶での輸送コストを改善する効果も見込まれるほか、強度を向上させた新しい建築資材としての可能性も期待されます。

単子葉植物は木に比べて短期間で成長することから、強力な木質生産能力を持っていると考えられます。日本はイネをはじめとしてタケやススキなど多くのユニークな単子葉植物資源に恵まれています。また、国土の3分の2が森林で覆われている森林資源大国でもあります。日本独自の遺伝子資源と最先端技術を活用して世界中の木の木質生産能力を向上できるようになれば、面目躍如となるはずです。

シリセンの二層化に成功 大気中でも安定 超高速電子デバイスの新材料として期待

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

JSTnews 2016年4月号掲載

グラフェンを超える新機能材料として注目されるシリセンが、化学的に安定したナノシリコン材料であることが明らかになりました。シリセンは、シリコン原子が蜂巣格子状に組まれた原子シートで、いわばグラフェンのシリコン版です。一層のシリセンは大気中で酸化分解してしまうため超高速電子デバイスへの応用が困難でしたが、豊田中央研究所の中野秀之主席研究員らは、大気中でも安定して取り扱うことのできる二層シリセンの合成に成功しました。

グラフェンは炭素原子がシート状に並んだ物質です。電子が非常に速く移動できる性質がありますが、半導体デバイス構築に必要なエネルギーバンドギャップがないため、応用が限定されています。エネルギーバンドギャップとは電子が存在できない領域のことで、半導体デバイスはこの領域にさまざまな機能を持たせます。炭素と同族元素であるシリコンを用いたシリセンは、グラフェンと同様に電子の移動が高速なうえ、グラフェンにはないエネルギーバンドギャップがありますが、一層のシリセンは大気中で酸化分解しやすいことが課題でした。

中野研究員らは、シリセンとカルシウムが交互に積み重なった二ケイ化カルシウム(CaSi2)をフッ素を含むイオン液体中で加熱処理することで、カルシウム層のみをフッ素化する合成手法を確立しました。カルシウム層がフッ素化すると、シリセンは一層では存在できなくなり、安定した二層構造として再配列しました。

一層シリセンの酸化分解の原因は、共有結合の手が空いている原子が多数存在するためでしたが、二層シリセンでは25パーセントまで減少し、大気中でも安定して扱えることがわかりました。

超高速電子デバイスや二次電池の電極材料への幅広い応用展開が期待されます。