プロジェクト概要 Project Overview 柔らかいバイオ有機デバイスだから、人に優しい。デジタル・ヘルスケアから医療ITまで。

研究総括からのご挨拶

新しいエレクトロニクスへの挑戦

柔らかいエレクトロニクスで医療・福祉に革命を起こす!

柔らかさで人間と調和するエレクトロニクスを

 エレクトロニクスは、シリコンデバイスを微細化して機械の演算速度と記憶容量を改善し、現在の高度情報化社会の基盤を作り上げました。しかし、「機械を速く」というフェーズの競争は既に飽和しており、世界の競争は「環境との調和・人間との調和」を目指した次のフェーズへと急速に移行しています。
 これまでのエレクトロニクスは、そのほとんどが固く材料で出来ているため、生体との整合性が良くありませんでした。その結果として、エレクトロニクスの医療・バイオ分野への応用はまだ限定的です。もしエレクトロニクスが、柔らかくなり、さらに生体と調和する材料で出来たらどのような変革が起こるでしょうか。新しいエレクトロニクスへの期待が高まります。

解決の決め手は柔らかい有機デバイス

 細胞など生体組織は、硬い素材に触れると容易に炎症反応を起こすことが知られています。そのため、体内に長期間埋め込んで血糖値をモニターするセンサなどの実現を難しくしています。
 私たちは、この問題を解決するために、シリコンに代表される従来の無機材料に代わり、柔らかく、かつ生体と調和する有機半導体分子など分子性ナノ材料に着目しています。
 例えば、有機トランジスタと呼ばれる柔らかい電子スイッチをはじめとる有機デバイスは、印刷手法などの液体プロセスによって高分子フィルムの上に容易に製造できるため、大面積・低コスト・軽量性・柔軟性を同時に実現できると期待され、研究が活発に進められています。
 この有機デバイスの柔らかさや有機分子ならではの特異的な機能を生かすことで、生体とエレクトロニクスを調和させ融合する新しいデバイスの開発を目指しています。

研究総括 染谷隆夫

染谷 隆夫(そめや たかお)
工学(博士)
JST ERATO 研究総括
東京大学工学系研究科電気系工学専攻 教授

染谷 隆夫 プロフィール
有機デバイスをバイオ医療に応用するために

 これまで、有機デバイスは、ディスプレイ、照明、無線タグのように生体医療とは無関係な用途をターゲットにし研究開発が進められてきました。有機デバイスは、確かに柔らかいなどの特徴がありますが、そのままの形では、バイオ医療には応用できません。
 プロジェクトでは、有機デバイスをバイオ医療に応用するための技術開発を進めます。具体的には、より生体に適合した有機材料による特殊なインク(バイオインク)を開発し“塗る”ことで、細胞に接する生体プローブを実現します。この柔らかく、かつ薄い生体プローブは、生体組織との密着性を増すことができ、細胞からの微細な電気信号を低ノイズで測定することが可能になります。さらにこの“柔らかい”生体プローブを作製するためのパターン形成技術(バイオ印刷)、そして神経細胞など生体組織から出る電気信号、化学信号を何百万個となる生体プローブで受信し、リアルタイムで生体の活動を可視化(生体調和イメージング)していきます。
 これらの技術開発を通して、細胞間のネットワークを可視化できるインプランタブル(生体内への埋め込みが可能な)なバイオ有機デバイスともいうべき新しいデバイスを開発します。

有機デバイスをバイオ医療に
新応用いろいろ、そして生活の質が良くなる

 新しいバイオ有機デバイスを活用すると、例えば神経細胞間の複雑なネットワーク可視化、さらには膨大な神経細胞の集合体である脳の活動そのものを詳細に可視化することが可能になると期待されます。さらに、てんかん治療のための医療機器など多方面への応用や波及効果が期待されます。医療機器以外にも、皮膚に絆創膏のように直接貼り付けても装着感やストレスなく健康状態を24時間モニターし続けることができるセンサへの応用など福祉ITやデジタル・ヘルスケアへの応用も広がるでしょう。
 日本では少子高齢化時代の本格的な到来を迎え、高齢者を含む全ての国民の生活の質(Quality of Life:QOL)の向上や、急増しつつある医療コストの軽減が急務の課題になっています。
 一方で、高速光通信ネットワーク通信網が整備され、スマートフォンなどモバイル情報通信端末が普及するなど、情報通信・エレクトロニクス分野は大きな発展を遂げました。この最先端の社会的情報基盤やエレクトロニクス技術を活用しつつ、本研究によるバイオ有機デバイスを融合してヘルスケア・医療分野に活用することで、少子高齢化社会の諸問題の解決に貢献したいと願っております。

新しいバイオ有機デバイスを活用。柔らかい有機デバイス。