全能性とは、個体を構成するあらゆる細胞に分化し、個体を形成する能力のことを言います。我々ヒトを含む哺乳類において、全能性を有する細胞は、個体の出発点である受精卵とそれが分裂して形成される2細胞胚や4細胞胚を構成する細胞に限られます。その後の発生過程で、胚を構成する細胞から全能性は失われますが、次世代の精子や卵子の源となる始原生殖細胞の中で、全能性を再獲得するプログラムが開始されます。始原生殖細胞から精子や卵子へ、そして再び全能性を持つ受精卵へと、世代を超えて遺伝情報を継承する仕組みの中では、ゲノム機能を制御するゲノム上のさまざまな修飾?その総体をエピゲノムと呼びます?がダイナミックに変化することが知られています。全能性獲得に至るエピゲノム制御機構の理解は、医学・生命科学における基本命題の一つであるのみならず、細胞の医療応用の観点からも非常に重要です。

本プロジェクトでは、マウス、さらにはよりヒトに近いカニクイザルをモデル生物として、生殖細胞や初期胚、幹細胞のもつエピゲノム制御機構を解明し、全能性や自己複製能の制御基盤を明らかにすることを目指します。これらの研究から得られる知見は、ヒト生殖細胞研究の基盤となり、不妊、先天性の疾患、ある種の遺伝病の原因解明、細胞のエピゲノムを制御する新しい技術の開発につながることが期待されます。