Research

液体金属流から電気エネルギーを取り出せることを発見

細管に液体金属を流すイメージ図(実験装置の概略図)

図1.細管に液体金属を流すイメージ図(実験装置の概略図)
直径数百ミクロン(実証実験では400ミクロン)の石英管に水銀やガリウム合金などの液体金属を流すと、管の内壁面の摩擦によって液体金属の渦運動が生じる。実証実験では、この渦運動の分布により発生する電圧を、管の流入・流出口に設置した端子により測定した。

細管内に発生する渦運動

図2 細管内に発生する渦運動
管壁との摩擦によって、液体金属流の速度(流速)分布v(ブイ)が図のように生じる。流速は管の中心で最大であり、そこから管壁に向かって弱まっていく。このように場所ごとに流速の差があるために、渦運動ω(オメガ)が発生する。この渦運動の強さは、流速の差が最も大きい管内壁付近で最大となり、管中心ではゼロになる。

渦運動と電子スピン流および電圧の関係

図3 渦運動と電子スピン流および電圧の関係
渦運動分布によって液体金属中の電子の自転運動(スピン)が影響を受け、管内壁から管中心に向かってスピンの流れ「スピン流」が生じる。このスピン流は、液体金属中で散乱され、液体金属の流速方向(管に沿った方向)に電圧が生じる。

液体金属流から電気エネルギーを取り出せることを発見

図4 液体金属(ガリウム合金)の渦運動によって生じた電圧の時間依存性
渦運動を駆動するために時刻0から10秒までの間、圧力を加えている。圧力を加えている間のみ電圧が生じる。加える圧力(0.1から0.6メガパスカル)を大きくする程、取り出せる電圧も大きくなる。

電気エネルギーを取り出すと聞くとタービンやの大型の発電設備が必要と思うかもしれません。しかし今回、液体金属を細い管に流す、それだけで電気エネルギーが取り出せるという現象を発見しました。

近年、ナノテクノロジーの目覚ましい進展に伴い、日常で私たちが利用している電流・電気の流れだけでなく、ミクロの世界における電子の自転運動を制御することによって、「スピン流注1)」と呼ばれる磁気の流れが電流と同じような働きを担う可能性が示唆されてきました。電流を流す際にはジュール熱が発生しますが、スピン流は発生する熱量が電流と比較し極めて小さいことから、熱の制御が重要なナノ電子デバイスへの利用が期待されています。今回、液体金属中で、金属の流れによって生じる渦運動と、その金属原子中の電子の自転運動(スピン)が相互作用することを理論計算により発見しました。さらに実際に細管に液体金属を流すことで、微弱ではありますが電気信号が得られることを明らかにし、渦運動によって、電子が発電機のタービンのように回転して発電する方法を理論と実験の両面で確立しました。

水銀やガリウム合金注2)のような液体金属を細管に流すと、管の内壁と液体金属の間の摩擦によって、液体金属中に渦運動が発生します(図1)。この渦の強さは、管の内壁で最大であり、内壁から管の中心に向かって弱まります(図2)。

このような渦運動の分布によって、液体金属中の電子の自転運動が影響を受け、渦運動の強いところから弱いところに向かって、スピン流が流れ、また、管の内壁から中心に向かって生成されたスピン流は、さらに液体金属中で散乱され管に沿った方向に電圧を発生することを理論計算によって明らかにしました(図3)。

この理論予想に基づいた実証実験を行ったところ、直径数百ミクロンの細管に液体金属を流す際に生じる液体金属の渦運動を用いて、その液体金属中にスピン流を生み出し、その結果生じる100ナノボルト(1000万分の1ボルト )の電気信号を取り出すことに世界で初めて成功しました(図4)。

今回の実験で、電子のスピンが液体金属の渦運動と量子力学注3)的に相互作用することが世界で初めて証明されました。従来、電子スピンの制御には固体物質が用いられてきましたが、液体金属も利用できることが明らかとなり、液体金属を利用したスピン科学の研究の道を開いたと言えます。
また、従来の流体発電では、水流でタービンを回転させる水力発電や、磁石を使った磁気流体発電注4)のように、タービンや磁石といった外部装置が不可欠です。しかし、今回発見した手法では、電子の自転運動と流体渦運動との相互作用を利用するため外部装置が不要となり、原理的には超小型化が可能となります。本実験で得られた電気信号は100ナノボルトと微弱ですが、今後出力を向上していくことで、微弱な電力で駆動できるナノロボットなどへの応用が期待できます。

細管に液体金属を流すイメージ図(実験装置の概略図)

図1.細管に液体金属を流すイメージ図(実験装置の概略図)
直径数百ミクロン(実証実験では400ミクロン)の石英管に水銀やガリウム合金などの液体金属を流すと、管の内壁面の摩擦によって液体金属の渦運動が生じる。実証実験では、この渦運動の分布により発生する電圧を、管の流入・流出口に設置した端子により測定した。

細管内に発生する渦運動

図2 細管内に発生する渦運動
管壁との摩擦によって、液体金属流の速度(流速)分布v(ブイ)が図のように生じる。流速は管の中心で最大であり、そこから管壁に向かって弱まっていく。このように場所ごとに流速の差があるために、渦運動ω(オメガ)が発生する。この渦運動の強さは、流速の差が最も大きい管内壁付近で最大となり、管中心ではゼロになる。

渦運動と電子スピン流および電圧の関係

図3 渦運動と電子スピン流および電圧の関係
渦運動分布によって液体金属中の電子の自転運動(スピン)が影響を受け、管内壁から管中心に向かってスピンの流れ「スピン流」が生じる。このスピン流は、液体金属中で散乱され、液体金属の流速方向(管に沿った方向)に電圧が生じる。

液体金属流から電気エネルギーを取り出せることを発見

図4 液体金属(ガリウム合金)の渦運動によって生じた電圧の時間依存性
渦運動を駆動するために時刻0から10秒までの間、圧力を加えている。圧力を加えている間のみ電圧が生じる。加える圧力(0.1から0.6メガパスカル)を大きくする程、取り出せる電圧も大きくなる。

用語解説

注1) スピン流
スピン角運動量の流れ。例えば電子は電気的な自由度である電荷と、磁気的な自由度であるスピン角運動量を持っており、前者の流れを電流、後者の流れをスピン流と呼ぶ。

注2) ガリウム合金
ガリウム(Ga)を主な成分とする合金。ここでは、特に常温で液体のものを指す。本研究では、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)の合金を使用した。

注3)量子力学
原子やそれを構成する電子、原子核などミクロの世界の物理現象を記述する理論。

注4)磁気流体発電
電荷を持った粒子が磁場中を運動する時、運動の方向と磁場の方向の両方に対して垂直な方向に力(ローレンツ力)を受ける。同じ極性(プラス、マイナス)の電荷を持つ粒子は同じ方向に力を受け一方向に移動する。結果として、粒子が移動した先に電荷が蓄積され、それによって発生する電位差(起電力)を利用する発電方法。

注5)流体速度計
風の速さを測定する風速計のように液体や気体の流れる速度を測定する装置。

論文情報

“Spin hydrodynamic generation”(スピン流体発電)
DOI: 10.1038/NPHYS3526

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