榊量子波プロジェクト

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総括責任者 榊 裕之
(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)
研究期間:1988年10月~1993年9月

 

10ナノメートル程の微小な半導体構造中に電子を閉じ込めると、その波(量子波)としての性質が強く現れます。本プロジェクトでは、量子波を自在に制御するための技術を探索し、新しい物性や機能を創出してエレクトロニクスの新次元を切り拓くことをねらいに研究を進めました。
特に、エピタキシーの高精度制御や超清浄エッチングなどにより、ナノメートル寸法の量子細線や量子箱構造の形成を可能としました。作製した量子細線では閉じ込められた電子の特異な性質を実証し、さらにトランジスタ機能なども示しました。また、量子波の共鳴や干渉、散乱などを制御した種々のデバイスの可能性も明らかにしました。有機分子簿膜の量子箱的な側面の解明と応用も試みました。
この研究は、新機能素子や超高速素子の実現を通じ、電子工学の新分野を拓くものと期待されます。

成果

選択的 MBE 成長による量子細線の形成

パターンを持つ基板上へ GaAs を選択的に成長して得られる台形や屋根型の結晶構造を利用して、エッジ量子細線や幅10nmのリッジ(稜線)型細線の作成に成功した。

気相成長プロセスによる量子細線と量子箱の形成

気相での成長とエッチングの制御により、ナノメートル寸法の GaAs T 型量子細線の形成に成功した。歪を有する条件下で InP の細線や箱構造が自己形成されることも示した。

量子細線中の電子の閉じ込め状態の解明

作製した量子細線内の電子の閉じ込め状態を調べ、電子密度の空間分布や運動の 1 次元性を理論解析や蛍光分光、磁気抵抗測定などから解明した。

量子波の共鳴結合を用いた散乱制御デバイス

不純物を含む量子井戸と含まない井戸を隣接させ、その電子状態を外部電圧によって共鳴させると、電子の散乱顕度が増減することを見出し、特異なトランジスタ特性を実現した。

単一電子伝送素子及び量子箱構造における伝導と緩和の制御

量子細線に 2 つのゲートを設け、そのトンネル抵抗を交互に増減させて電子を一個ずつ転送できることを実証した。また、量子箱を利用したブロッホ発振器や高効率発光素子実現のための散乱の制御法も示した。

有機分子を用いた FET や超格子構造の形成と物性探索

チオフェン分子を量子箱と見なして FET を作り、分子間のキャリア移動機構に関する知見を得た。分子長を異にする 2 種のアセン系分子で超格子を作り、数分子層厚以下の領域で光学特性が顕著に変わることを見出した。

 

fig1

▲GaAs上に気相成長法で形成したInPドット構造の原子間力顕微鏡(AFM)像。

fig2

▲三角形GaAsファセット構造の稜線(リッジ)上に分子線エピタキシー(MBE)で作製した量子細線の電子顕微鏡(TEM)像。量子井戸(暗い薄い層)の頂部が細線となる。

 

研究成果

プログラム

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