成果紹介2

Research Highlights in Plant & Cell Physiology

 植物は、病原体の感染に対して防御応答を発動することで病気にならないようにする免疫システムを持っています。特に、病原体が出すエフェクターと呼ばれる特定の分子を植物が認識することで発動するエフェクター誘導免疫(Effector-triggered immunity: ETI)は、抗菌化合物の蓄積だけでなく感染局所での植物細胞の自殺(プログラム細胞死)を伴う強力な防御応答です。これまでの研究により、ETI発動には植物ホルモンであるサリチル酸(SA)やジャスモン酸(JA)によって制御されるシグナル系の活性化が重要であると言われてきました。一般にSAは絶対寄生菌に対して、JAは腐生菌および昆虫食害、傷害に対する防御応答に重要であると言われていますが、SAシグナル系とJAシグナル系は強い相互拮抗関係にあることから、植物ETIはどのようにしてこれら拮抗関係にある二つのシグナル系を同時に活性化させているのかは未解明の課題でした。

SA pathways
Image from /10.1093/pcp/pcx181/CC-BY-NC

  本研究では、SA系およびJA系それぞれの活性化を示すマーカー遺伝子に関して、それらのプロモーター活性を蛍光タンパク質の蓄積量でモニターできるライブイメージング実験系を構築しました。その結果、植物病原細菌の感染によるETIにおいて、感染部位局所ではSA系が、さらにその外縁部ではJA系が活性化している様子が観測され、これら拮抗作用を持つSAとJAという二つのホルモンシグナル系がそれぞれ異なる領域で活性化しているという、上述の問題に対する非常にシンプルな答えを見出しました。

 農業上においても重要な植物免疫システムの理解に関しては、これまで感染植物組織全体の抽出物を用いた研究によって数多くの重要な知見が蓄積されてきました。一方、イメージングによって、感染部位周辺に同心円的なSA/JA系活性化領域として形成される「植物免疫反応の場」を見出した本研究は、それら植物免疫システムの時空間的理解に向けての端緒を切り開いただけでなく、植物がSA-JAの空間的な拮抗作用によって強力なSA誘導型免疫を感染局所に限定している可能性や、外縁部で活性化するJA系が自殺した植物細胞を腐生菌などによる侵害から保護している可能性など、「植物免疫反応の場」が非常に巧妙な免疫システムとして構築されているのではないか?という新たな興味を生み出しました。今後の研究の進展が期待されます。

本成果は、Plant & Cell Physiology誌の2018年1月号に掲載されました。本成果は、同号のCommentaryにおいて紹介され、編集委員選定のResearch Highlightsにも取り上げられています。

論文情報

Shigeyuki Betsuyaku, Shinpei Katou, Yumiko Takebayashi, Hitoshi Sakakibara, Nobuhiko Nomura, Hiroo Fukuda
Plant & Cell Physiology, Volume 59, Issue 1, 1 January 2018, Pages 8–16