研究トピックス Topics


(2011年11月7日更新)

有機金属ナノクラスターの有機薄膜最表面への選択的蒸着に成功
-ナノクラスターの構造は保持、高温でも分解、脱離せず-


金属クロム原子を二つの有機配位子=アニリンでサンドイッチ状に挟んだ、<クロム・アニリン・有機金属ナノクラスター>を、ナノクラスターの機能発現部位の構造を壊すことなく、有機単分子薄膜の最表面に強い結合力で蒸着・固定する「反応性ソフトランディング技術」を開発しました。

この研究成果は、2011年10月28日、”Journal of the American Chemical Society”(米国化学会誌)電子版に掲載されました。

<背景と課題>
サンドイッチ型有機金属ナノクラスターは、その一次元構造によって特異な磁性、光物性を発現することから、それらを有機薄膜上に蒸着にすることによって新規なデバイスが創成されるものと期待されています。

しかしながら、同ナノクラスターの有機薄膜への蒸着には次の課題が解決されずに残っていました。

① 有機薄膜表面に選択的に捕捉されることが求められるにもかかわらず、従来の方法では膜内にランダムに捕捉されてしまう。

②機能を発現する部位の構造が破壊もしくは変形してしまい、目的とした機能が得られない。

本プロジェクトではこれらを解決するために鋭意研究を重ねたきました。


<課題解決の方法と効果>
開発した技術は、以下の3工程から構成されます。これらの工程はすべて相互に接続された真空容器内で、大気にさらすことなく行われます。

①金属クロムにレーザーを照射して蒸発させたクロム原子とアニリン蒸気を、高温中で反応させてナノクラスターを生成する工程、
②ナノクラスターを質量(重さ)で選別する工程、
③所定の質量のナノクラスターを金基板上に形成された有機薄膜に蒸着させる工程。

本プロジェクトはこれら3工程の条件を最適化する一方、金属ナノクラスターの有機配位子(アニリン)と有機薄膜に化学修飾を施すことによって上記の課題を解決しました。

すなわち、有機薄膜の末端をカルボキシ基(-COOH)で修飾することにより、有機配位子と薄膜分子の間に安定性の高いアミド結合を形成させる(反応性ランディング)ことによって、以下を実現することができました。

①ナノクラスターが有機薄膜の内部ではなく、最表面に選択的に結合される。
②ナノクラスターと有機薄膜の結合が強固で、有機薄膜が熱分解する400K(127℃)以上に加熱しても、脱離・分解することがない。
③ ナノクラスターの機能発現部位の構造は保持される。

これらの状態は、赤外反射吸収分光法(IRAS)と昇温脱離法(TPD)によって確認されています。また、密度汎関数理論(DFT)に基づく理論検証ともよく一致しました。


<展望>
本研究成果は、気相合成された有機金属ナノクラスターを活用したデバイス応用の障害の一つとなっていた課題を解決するものであり、新規な電子デバイスあるいは磁気デバイスへと展開してゆくための画期的な方法論を提供するものです。ナノクラスター1つを単位とする常温作動超高密度磁気記憶材料の可能性が拓けるばかりでなく、高い均一性を有する触媒活性表面への展開が期待できます。◆◆

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