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研究成果
Ⅰ. 研究概要
多くの材料は単独で用いられることは少なく、ほとんどの場合、他の材料や技術と合わせて用いられている。しかしながら、従来、混合物、複合材料、ハイブリッドは、各成分の混合状態の均質性や規則性がほとんど考慮されずに単に微視的スケールで混ぜ合わせることで作製され、基本的には各成分の性質や機能の単純な足し合わせの複合機能が利用されてきた。一方、ナノスケールでの混合は、各成分間の多様な相互作用によって単なる足し合わせを超えた新しい性質が期待されるが、従来の混合物やハイブリッド材料における各成分のドメインサイズ、構造周期、配置配列に広い分布があると、その中に含まれている規則配列した混合状態に特有の性質や機能が現れにくい。これに対して、たとえ既知の材料でも、規則配列した混合はナノスケールの規則性が高くなるにつれて、相互作用に基づく未知の性質が現れる。全く異なる物性や機能が創成できるポイントは、どんなスケールで規則正しく混ぜ合わせる(上手に混ぜる)かである。
本プロジェクトでは、異種材料をナノ・マイクロスケールで「上手に混ぜる」ことにより、構成材料の単なる足し合わせでは得られない、要素間の相互作用が顕在化した「超集積材料」の創成を目指した(図1)。対象は生物、生体高分子、有機分子、無機化合物、高分子、半導体、金属等とし、外部との電気的もしくは光学的なアクセスを保持した超集積材料を提案し、その作製と機能発現を包含した新しい方法論の提示を目標とした。その鍵となる材料化学プロセスに研究の軸足を置き、信頼性、量産性、汎用性までをも保障する工学的利用を意識してプロジェクトを推進した。
本プロジェクトでは目的達成のため、(1)転写材料グループ、(2)バイオテンプレートグループ、(3)分子回路グループ、(4)ナノ接合グループの4つの研究グループを設置した。「異種物質のサイズ、かたち、配置、配列を制御した合目的な混合状態を実現する方法論の提示」という研究理念に基づいて研究成果を再編し、要素技術の統合により分子デバイスを実現する分子回路工学と、3次元ナノ・マイクロ構造の量産プロセスであるバイオテンプレート法の2つの方法論を提示した。また、ERATOプロジェクトの研究構想を礎に、逐次液晶化が誘起するブロック共重合体の三次元異方的相分離膜、ならびに小型EUV線源開発と低密度ターゲット開発についても東工大彌田・長井研究室との共同研究というかたちで展開した。
Ⅱ. 成果の概要
① 分子回路工学:異種材料の集積化プロセス
分子回路の最大の課題である安定な分子と電極を接合する技術として、分子グリッド配線とナノ傾斜接合を開発した。前者は、超高密度ナノ中継電極アレイ基板、配線重合可能なπ共役系高分子ワイヤ、表面増強ラマン散乱による配線評価、伝導経路解析アルゴリズムの開発とその統合化であり、後者は、異方的な分子電極接合をめざした分子側および電極側傾斜構造の開発であった。このうち、配線重合可能なπ共役系高分子ワイヤの開発は、メタルフリー、かつ自走配線可能という特徴を有した、新たな連鎖的縮合重合による含フッ素π共役系高分子の精密合成法を提示したものと位置づけられる。
② バイオテンプレート法:かたちの転写プロセス
生物微細組織のかたちを鋳型とする異種材料転写プロセスとその機能開発を行うバイオテンプレート法を、らせん藻類からテラヘルツ帯電磁波吸収材料、中心目藻類から金属ナノホールアレイチップ、コラーゲンからシリカナノファイバーによって実証した。また、様々なタンパク質に適用可能なイオン性界面活性剤によるタンパク質の集合現象を発見し、液状のタンパク質凝縮体を開発した。
③ 彌田・長井研究室との共同展開研究
研究総括が開拓してきた液晶ブロックコポリマーテンプレートの展開研究は、プロジェクト前半には封印し、第4年次より日比裕理学振研究員(彌田研究室)提案のブロックコポリマー分離膜・触媒膜と融合させた。Roll-to-roll製膜を前提にした垂直貫通輸送チャンネルの階層化、空孔化、内壁修飾が可能な機能集積スマートメンブレンを開発した。また、長井圭治准教授の「低密度ターゲット材料」の構想と成果を基本に、コンパクトなレーザーによる極端紫外光発生を実証し、超集積材料ターゲットによる発光特性を検討した。