科学的に合成した糖鎖を用いて、糖タンパク質糖鎖の細胞内機能を解明する
生体内において糖鎖はタンパク質や脂質に結合し、その生化学的物性を大きく制御する。その一方で糖鎖自体が情報分子としての意義を備えていることが、近年明らかになってきた。糖鎖情報を受容する物質は、ほとんどの場合、特定のタンパク質である。すなわち、あらゆる生物学的局面において糖鎖とタンパク質の相互作用は重要な役割を担い、その分子機構を明らかにすることが生命現象のより良い理解につながる。
しかし、糖鎖-タンパク質相関を解析する上で最大の障害は
「均一な糖鎖を大量に調製し、分析系に供することができるか否か」
である。本グループはこの重要課題
1) 高マンノース型糖鎖の大量合成
2) 糖鎖-タンパク質相互作用機序の解析
に取り組む。
ヒト複合型糖鎖が結合した糖タンパク質の合成を通して糖鎖がタンパク質に与える影響を化学の視点で考察し、糖鎖の機能解明および糖タンパク質創薬への知見を蓄積することを目指す
サイトカインなどの生理活性タンパク質因子は、免疫ネットワークの維持や様々な生理機能の恒常性において重要な役割を担っている。これらタンパク質の多くが糖タンパク質であることを考えると、今後糖タンパク質製剤の開発への期待が高まると考えられる。
医薬品開発のためには薬効に対する最適化が必要である。すなわち生理作用に必須な領域を同定した後、タンパク質部分のデザイン、糖鎖の構造・大きさ・結合位置、などを様々に自在に設計できることが肝要である。これらの条件検討により血中での安定性や可溶性、レセプターに対する親和性を改善していくことができる。そのためには、糖タンパク質、特に糖鎖部分を化学合成し、均一な糖タンパク質を多種・自在に作成できる技術開発が重要である。
そもそも、純粋に化学的な視点からも、糖タンパク質の合成は大きな挑戦であり、多くの合成化学者がその解決に向けてしのぎを削っている。その中で生物活性糖タンパク質の化学合成が初めて梶原らにより達成され、世界トップクラスの業績として評価されている。
本グル−プは、ヒト複合型糖鎖および高マンノース型糖鎖が結合した糖タンパク質の合成を通して、糖鎖がタンパク質に与える影響を化学の視点で考察し、糖鎖の機能解明および糖タンパク質創薬への知見を蓄積することを目指す。
糖タンパク質、糖脂質の構造に注目し、有機化学、分析化学、生化学を融合する研究を行う
糖鎖の研究を行うためには、複雑な糖鎖の構造を迅速に決定する手法の開発が不可欠である。糖タンパク質のどのアミノ酸にどのような構造の糖鎖が結合しているかを明らかにする事は、現在最も強力に手法開発が進められている分野である。また、糖鎖は細胞の代謝作用によって常に固定して特定タンパク質、脂質上に提示されているのではなく、細胞の様々な状態に応じて構造的、空間的に変動していることが考えられる。
しかしながら、現在、この課題に対する解析方法は無い。一方、タンパク質の立体構造解析は近年データが蓄積されつつあり、ドラッグデザイン分野の急速な進展が見込まれている。しかし、細胞表面や細胞外のタンパク質の多くは「糖」タンパク質であり、「糖修飾」抜きに立体構造を議論することは実態に則していない。本グループはこれら重要懸案を解決することを試みる。