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柳沢オーファン受容体プロジェクト中間評価報告書
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総括責任者 柳沢 正史
【テキサス大学サウスウェスタン医学センター 教授/ハワードヒューズ医学研究所 研究員】
研究体制: シグナル検出グループ
リガンド同定グループ
機能解析グループ
評価委員 ○児島 将康  【久留米大学分子生命科学研究所 教授】
 馬場 明道  【大阪大学大学院医学研究所 教授】
 Clifford B.Saper 【Beth Israel Deaconess Medical Center, Professor】
 Hubert Vaudry 【University of Rouen, Director/Professor】
※○印は主査


評価:Excellent(秀)
T. 評価の概要
 本プロジェクトは、数多く存在するオーファン受容体について、その内因性リガンドを探索し、新規な細胞間情報伝達ネットワークの機能解明を行い、生体内の高度な制御機構を解明することを目的としている。オーソドックスな蛋白質精製から最先端技術までを駆使したレベルの高い研究内容と明確な目的意識で、将来の発展性や臨床応用の可能性もあり、委員全員の評価は非常に高いものであった。
  オーファン受容体のリガンド探索は成功か無かのどちらかであり、探索の途中経過を発表・公表できない。さらに見つかってもその生理機能が不明であることが多い。このように非常にリスクの高い研究プロジェクトであるが、将来の研究展開の豊かな可能性があることから、ERATO研究プロジェクトにふさわしい課題だと思われる。
 現在まだ不明であるオーファン受容体のリガンド探索は、おそらく非常に難しいものだけが残されていると考えられる。これまでの生理活性ペプチドや神経ペプチドの発見の歴史から考えて、本グループのような基礎研究グループで、5年間に一つの新規リガンドが見つかれば成功といえるであろう。従って、もしプロジェクトの研究期間中に新規リガンドの発見があれば、躊躇なく終了後の研究の継続を推薦したい。なぜなら継続研究期間に、新規リガンドの生理機能が明らかにされることが期待できるからである。
 以上のような背景を踏まえると、本プロジェクトの研究ターゲットは数多いが、それぞれの研究で非常にインパクトの強い成果を上げており、質・量とも驚異的である。これまでの研究成果については、すでに高い評価を受けていて、今後の研究展開についても問題ないと考える。プロジェクトの運営状況についても柳沢総括責任者のリーダーシップの下、3つのグループは緊密にプロジェクトを進行しており、残りの研究期間にはさらに研究グループ間の関係が活発なものになるだろう。日本・米国のいくつかのグループとも共同研究を行っており、高い研究成果をあげている。

U. 中間評価の詳細
 
(1)研究目的
 近年、ヒトや他の動物種のゲノム・シークエンスが解読され、ゲノム中にはGタンパク質共役型の受容体(以下GPCR: G-protein coupled receptor)が数多く存在し、これらの大部分が内因性のリガンドが不明なオーファン(孤児)受容体となっている。嗅覚受容体(これらの大部分もリガンドが未知)を除いてもオーファンGPCRは150〜200種類くらい存在し、このオーファンGPCRとリガンドとの研究は、基礎研究のターゲットとしてだけでなく、創薬のターゲットとして非常に注目を集めているため、多くの製薬企業も参入して非常に競争が激しい分野である。これらのオーファン受容体は、受容体が知られているだけではその生理作用の解明には程遠く、その内因性リガンドが同定され、受容体・リガンドの組み合わせが明らかになって初めて生理作用が解明されていく。
  本プロジェクトの総括責任者(以下、「総括」とする。)である柳沢正史はこれらのオーファンGPCRの重要性に早くから着目し、1998年にオーファン受容体発現細胞株を用いたアッセイ方法を開発、オーファンGPCRであったHFGAN72の内因性リガンド“オレキシン”を発見した。オレキシンは摂食亢進作用を持つ神経ペプチドで、その後柳沢総括らのオレキシン・ノックアウト・マウスの研究から、オレキシンが睡眠・覚醒障害のナルコレプシーの原因遺伝子であることが明らかにされた。これら一連のオレキシンに関する研究は、単にオーファン受容体のリガンド同定というだけでなく、摂食と睡眠・覚醒の制御機構を明らかにするなど、一つの重要な研究領域を開拓した画期的な研究である。
  本プロジェクトはこのような柳沢総括の研究経過を踏まえ、まだ数多く存在するオーファン受容体について、その内因性リガンドを探索し、新規な細胞間情報伝達ネットワークの機能解明を行い、生体内の高度な制御機構を解明することを目的としている。
  新規のリガンド発見が契機になり、予期しない生理機能が解明されたり、これまでにないような大きな研究分野に発展していくことは、柳沢総括らのオレキシンの一連の研究から明らかである。そのため、本プロジェクトのような研究こそ、ERATOプロジェクトの「基礎研究から今後の科学技術の源流となる新しい思想を生み出し、科学技術の芽を積極的に生み出す」という目的に合致し、萌芽的で将来的に大きく展開するチャレンジングな研究と思われる。
  このような探索研究は、途中での経過発表・公表ができるようなものではなく、他グループが突然、先にリガンドの発見を発表することがしばしばあり、非常にリスクの高い研究である。もし、本プロジェクトの成否を、単にオーファン受容体の新規リガンド探索の一番乗りだけで評価するならば、本プロジェクトにとって非常に厳しいものがある。
  一方で、リガンドが見つかってもその生理機能が不明であることが多く、製薬企業はその段階で研究をストップし、せっかくの新しい研究成果がそのまま顧みられないことがしばしばある。柳沢総括のグループは、これまで自ら発見してきたリガンドに対して、常に発見するだけでなく、その生理機能まで解明する研究姿勢を貫いており、その姿勢は評価委員からも非常に高い支持があった。
 
(2)研究手法
 本プロジェクトの研究手法はオーソドックスな研究手法から、最新の分子生物学、遺伝子工学、細胞工学的なものを駆使したものまで多様で、しかもこれらの手法を明確な研究目的に応用している。
  オーソドックスな研究手法としては、ペプチド精製、アミノ酸配列解析、遺伝子クローニングなどがある。近年ではペプチドや蛋白質の精製、いわゆる「もの取り」は敬遠されるきらいがあるが、本プロジェクトでは新しいものを発見する意義を十分に認識しており、これが本プロジェクトの強みだと思われる。また、ノックアウト・マウスやトランスジェニック・マウスの作製・解析から生理活性ペプチドの未知の生理機能を明らかにしている。
  特にユニークな手法を以下に示す。
  @リンパ球系細胞を用いたオーファン受容体アッセイ系の確立(このリンパ球系細胞はバックグランドが非常に低く、弱いシグナルでも検出可能である。この細胞を用いたアッセイ系で、新規リガンドの同定に成功した。)
  A神経毒性のあるポリQの発現によってオレキシン神経細胞だけを特異的に破壊したマウスの作製(オレキシン遺伝子プロモーターにグルタミンのトリプレット・リピート配列をつないで、トランスジェニック・マウスを作製した。)
  Bオレキシン・プロモーターとGFP とを組み合わせたトランスジェニック・マウスの作製(これによってオレキシン神経細胞を視覚的に同定することが可能になり、一つの神経細胞でのオレキシンの役割を詳細に解析している)
  Cオレキシン・プロモーターとTTC/GFP融合蛋白とを組み合わせたトランスジェニック・マウスの作製(これによって、オレキシン神経のネットワーク網が明らかにされた。)
 
(3)プロジェクトの実施場所・設備
  本プロジェクトは柳沢総括が所属しているテキサス大学と、東京(江東区)の日本科学未来館の2箇所で研究を実施している。
  日本科学未来館ではプロジェクト開始とともに、実験室などの研究施設と機器設備を整えたが、まったく何もない状態からわずか数ヶ月で、十分な研究を行えるまで整えた手腕は素晴らしい。機器設備もクロマトグラフィーや、ハイスループットの細胞アッセイシステム、電気生理学機器、共焦点レーザー顕微鏡など、プロジェクトの推進に必要な一通りのものが揃っている。
  なおテキサス大学の視察は行っていないが、これまでの研究成果から必要な設備・環境は整っていると考えられ、テキサス大学の方での本プロジェクトの予算は主として人件費に当てている。
 
(4)研究員
 適切な人数のポスドク、テクニシャンを採用していると思われる。個々のグループのこれまでの研究発表にはERATOプロジェクトの予算で雇用している研究員の他に、さらに多人数の研究員が含まれているが、プロジェクトが活発な協力関係の下に行われていることがうかがわれる。日本科学未来館のラボのスペースから考えると、もう若干名の雇用も可能であるが、研究プロジェクトに最適な人材を余裕をもって確保することも重要である。
 
(5)研究成果
 研究ターゲットは数多いが、それぞれの研究で非常にインパクトの強い成果を上げており、驚異的な研究の量と質である。オーファン受容体について、その内因性リガンドを探索し、新規な細胞間情報伝達ネットワークの機能解明を行い、生体内の高度な制御機構を解明するという研究姿勢が貫かれており、これまでの研究成果だけでなく、未発表の研究データからも、今後いくつかの研究テーマは大きく発展していくと考えられる。
【酒井グループ】
 酒井研究グループはエネルギー代謝・摂食調節の分野の研究で、国際的にみてもレベルの高い重要な研究を行っており、Journal of Biological Chemistry (JBC)、Proceedings of the National Academy of Sciences (ProNAS)をはじめ海外の著名な雑誌に研究成果を発表している。
@ オーファン受容体の新規リガンド同定
   酒井たちのグループは、あるオーファンGPCR(ここではGPR-Xとしておく)の内因性リガンドを探索し、その構造を決定した。このGPR-Xリガンド探索は本プロジェクトが開始されてから取り組まれたもので、生体内の存在量が非常に少なく、精製は非常に困難であったが、最近その単離に成功した。さらにこのリガンド・ペプチドは通常のシークエンサーによる解析では構造が決まらず、構造解析に苦労したが、その解明にも成功した。この内因性リガンドには強い摂食亢進作用があり、NPY(ニューロペプチドY)を介したシグナル系で作用することを明らかにしている。 酒井たちが本研究で使ったアッセイ系は、先に述べたリンパ球系細胞を用いた低バックグランドのアッセイ系である。これは非常に高感度であるため、少ない存在量で検出は可能であったが、逆に含量が少ないため、精製は極めて困難であった。結果的には、他の研究グループからin silico の手法でデータベースから同定され、すでに2003年に発表済みであるリガンドと同じものであったのは、残念である。しかし、酒井らは、この内因性リガンドの分子フォームを明らかにし、さらに生理機能の解明にまで踏み込んでいる。特に製薬企業は生理機能の解明にまで踏み込んで研究することは少ないので、本研究グループによって、今後、ノックアウト・マウスの作製・解析などから、さらに研究が進展すると期待できる。
 またこのリンパ球系培養細胞を用いたオーファン受容体アッセイ系は優れた系なので、今後これを用いてさらなる新規リガンド探索が可能になると考える。
 
A 新しいインスリン分泌促進因子の同定
  膵臓β細胞を使って、3種類の新しいインスリン分泌促進因子を同定した。これらが低分子化合物であることから、比較的臨床での応用がされやすいと考えられる。研究成果の大部分は、糖尿病の治療戦略につながるものでインパクトは十分に高いと考えられる。
 
B その他の研究
   KLF15がacetyl-CoA synthetase2の転写を活性化すること、PPARδの活性化が、骨格筋において脂肪酸のβ酸化を促進し、食事性の肥満とインスリン抵抗性を改善すること、などを明らかにした。
 本プロジェクトにおけるオーファン受容体のシグナル検出という、酒井グループの当初の目標については、リンパ球系細胞を用いた低バックグランドの高感度アッセイ系を開発し、応用したことが特記される。もちろん本グループはオーファン受容体のシグナル検出法を開発するだけでなく、積極的にリガンド探索や精製、また生理機能の解明にまで挑んでもらいたい。今後は、これまで得られた成果(いくつかのリガンド)の機能解明を続けるのか、さらに新しいスクリーニング手法の開発を目指すのか、従来の手法で新たなリガンドを探索するのかなども検討し、それに併せた人員配置することが望まれる。
 

  【桜井グループ】
 グループ・リーダーの桜井は、柳沢総括と共に1998年にオーファン受容体アッセイ系を用いてオレキシンを同定した。その後もオレキシンの生理機能解明に、最先端の分子生物学、神経解剖学、電気生理学、行動解析などの技術を統合して、革新的で非常に創造的な研究成果をあげている。研究成果はCell, Neuron, JBC, ProNASをはじめ著名な雑誌に発表されており、すでに神経ペプチドの研究分野では非常に評価が高い。
@ オレキシンの研究
   桜井リーダーを中心とする本研究グループは、オーファンGPCRの重要性にいち早く着目し、1998年にオレキシンを発見した。その後も、オレキシン欠損マウスの行動解析からオレキシンとナルコレプシーの関連を明らかにしたり、オレキシン神経を選択的に破壊したマウスの作製などを行い、摂食調節、睡眠・覚醒の制御などの分野に革新的な知見をもたらしている。
 本プロジェクトにおいても、オレキシン・ノックアウト・マウスの解析、オレキシン神経欠損マウスの作製・解析、オレキシン神経特異的GFP発現マウス、オレキシン神経特異的Tetanus Toxin マウスの作製などをおこなっており、これらの遺伝子改変マウスから、以下の研究成果が得られており、すでに論文発表または投稿済みとなっている。
  • オレキシン神経の選択的破壊によって、マウスがナルコレプシー様の表現型を示した。  
  • オレキシン神経特異的にGFPを発現して、オレキシン神経を視覚的に同定。これを使っていくつかの摂食調節物質がオレキシン神経細胞に作用することを示した。  
  • TTC/GFP融合蛋白をトレーサーとして、オレキシン神経ネットワーク網の解析を行った。
 
A  桜井グループは、あるオーファン受容体(ここではGPR-Hとしておく)のリガンドを見出している。このオーファン受容体は免疫系の細胞に多く発現しており、この受容体・リガンドの組み合わせは生体防御機構に関与している可能性が考えられ、発展性のある研究結果だと思われる。
 本研究グループは上記のように目覚ましい研究成果をあげており、今後、プロジェクトの到達目標をオレキシンの包括的な機能解明とその臨床応用に限定せずに、さらに別に同定されたリガンドの機能解明にまで展開することを期待したい。


  【柳沢グループ】
 柳沢総括を中心とするテキサス大学のグループでは、オレキシンやニューロペプチドB/Wの発見、そしてそれらの機能解明など、これまで非常に重要な研究成果を発表してきた。本プロジェクトの研究期間においても、次のような重要な研究成果を挙げている。
@ オレキシン欠損のナルコレプシー症状を示すラットに、オレキシンを投与することによってナルコレプシー症状が完全に回復することを明らかにした。これはオレキシンを用いたナルコレプシー治療の可能性を示した重要な研究である。今後、低分子のオレキシン受容体アゴニストの開発がなされれば、ナルコレプシー治療薬として大きな進歩になると考えられる。
 
A  オーファン受容体であるGPR7と GPR8の内因性リガンドとして、ニューロペプチドBとWを同定した。論文発表においては残念ながら武田薬品工業(株)グループに先を越されたが、NPB投与によって摂食を亢進したり、痛覚鈍麻になるなどの生理機能の解明も行っており、その研究価値は非常に高い。
 さらに研究グループではGPR7ノックアウト・マウスを作製し、その表現型の解析で非常に興味深い現象を見出している。
 このように柳沢グループは、これまでに本研究グループによって発見された生理活性ペプチドについて、その遺伝子改変マウスの作製・表現型解析を中心に研究を行っており、いずれの研究成果もProNASなどの著名な雑誌に発表しており、また将来の研究展開が大いに期待される内容である。
 以上、3つの研究グループは質量とも十分な研究成果をこれまでに挙げており、また中間評価会で報告された未発表の内容から考えて、将来性豊かな研究プロジェクトであると評価される。
以上


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