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十倉スピン超構造プロジェクト中間評価報告書
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総括責任者 十倉 好紀 【東京大学大学院工学系研究科 教授/産業技術総合研究所強相関電子技術研究センター長】
研究体制: 量子位相グループ
オービトロニクスグループ
超構造作製グループ
評価委員 ○花村 榮一  【千歳科学技術大学光科学部物質光科学科 教授】
 遠藤 康夫  【国際高等研究所 フェロー】
 川合 知二  【大阪大学産業科学研究所 所長・教授】
 前川 禎通  【東北大学金属材料研究所 教授】
 N.P.Ong   【Princeton University, Professor】
※○印は主査

 



T. 評価の概要
 十倉スピン超構造プロジェクト(以下、「十倉プロジェクト」とする。)が対象とする物質系は、主に遷移金属酸化物結晶から出発して、現在では有機強誘電体を始めとする巨大分子系や、FeCoSi結晶まで対象を拡げている。十倉好紀総括責任者(以下、「総括」とする。)自身による電子型高温超伝導体と何桁もの電気抵抗の変化を示す巨大磁気抵抗の発見以来、この研究グループは世界の中でも際立った最先端の研究を切り拓き、世界中の注目を集めている。

  十倉プロジェクトは、三つのグループ (1) Orbitronics、 (2) Superstructure Fabrication、(3) Quantum Phase が、たて割りだけでなく、交流しながら (a) Spin-orbital Superstructures、(b) Magneto-electric Phenomena in Multiferroics、(c) Berry Phase Phenomena (Anomalous Hall Effect) の3本柱の研究に発展させてきた。この事実は十倉プロジェクトの研究計画の適切さと独創性を示すものである。3つのグループの全メンバーに加えて、3人のアドバイザーも毎週少なくとも1日をかけての発表と討論を重ね、全員が研究の進展に関与してきた。その結果として、3つの研究グループのほぼ全員が一様に秀でた成果を挙げてきたことは特筆に価する。これは、十倉総括のリーダーシップと洞察力によるものと高く評価する。この件に関しては、2.『評価の詳細』の項目でも述べるが、研究方法の独創性と適切さも示している。同時に、優秀な人材の適切な配置を保証しているものである。

  このプロジェクトの前半3年半の間にも、(1)巨大な異常ホール効果を発見し、その現象をBerry Phaseの概念とむすびつけて解析した。(2)十倉総括の発見したマンガン酸化物結晶での巨大磁気抵抗現象を更に深く研究を重ね、その発現に与えるランダムネスの効果を詳細に観測し、理論解析した。(3)可視域およびDC領域において、巨大磁気電気効果を発見した。この3項目は、特に世界でも注目する発見である。これらの3つの発見を含め、十倉プロジェクトの全体を流れる思想は、電子状態―スピン状態―軌道状態の複数の秩序化の臨界点近傍においては、微小な外場によって巨大な応答を示す事を巧妙に利用している事である。これは、十倉総括がここ十数年追い求めているコンセプトでもある。これらの詳細は、次節で詳述する。

  この十倉プロジェクトの研究成果は、固体物理学の分野では、世界の中でも第一位に評価できるものである。その科学の進展に与えるインパクトは絶大であり、同時に国内の一流研究機関に優秀な人材を多数輩出し、また世界から優秀な若者を大勢受け入れて、本プロジェクトのインパクトを全世界に発信し、継続発展させている。さて、このプロジェクトで得られた重要な研究成果を技術・産業に転化させる戦略について評価する。ここでえられた世界最先端のデータを出すためには、「高分解能スピン分極走査電子顕微鏡の開発」、「ローレンツ透過電子顕微鏡を用いた磁気転位の発見」など測定技術と、「時間反転・空間反転対称性を破る3色超格子の作製とその分光特性の測定」、「微小磁気配列の作製とその光磁気電気効果の測定」などデバイス作製を意識した材料開発研究もERATOプロジェクトの中で進められている。しかし、この基礎研究と技術・産業への応用との接点に関しては、十倉総括自身が統括する産業技術総合研究所の強相関電子技術研究センター(CERC)と本ERATOプロジェクトの研究とを連携させている。もう少し詳しく述べると、新奇な現象の発見とその物質開発の科学的研究がERATOプロジェクトで、そのデバイスへの応用はCERCが主に担当する様にすみ分けされている。しかし、同じ研究場所で双方の研究者が討論・協力して行っている点が、プロジェクトの発展に大きなプラスとなっている。

  ERATOとともに十倉グループがここ十数年にわたって蓄積してきた人材と装置には、高度のノウハウが存分に伝承されており、この研究分野の継続的な強化、および、現在の半導体産業にとって代る可能性のあるこの遷移金属酸化物の研究を、世界に誇る十倉プロジェクトの下で長期に亘って、しかも厚く国が支援して戴けることを、評価委員全員が願っている。
U. 中間評価の詳細
 3つの研究領域毎に、評価の詳細を記述するが、十倉プロジェクト構成員全体が各研究領域の関連するテーマに流動的に参加して、成果を挙げているのが、十倉プロジェクトの一つの大きな特色である。更に、永長直人教授をアドバイザーとする理論グループが実験グループと大変よく協力し、理論と実験のおのおので一流の成果を挙げるとともに、共著でも世界で注目を集める論文を発表している。各研究領域毎の評価の詳細に入る。

 (1)研究領域I スピン-軌道超格子構造
 評価委員全員が、この研究領域の6つの研究成果はおしなべて全て秀れているとの評価で一致した。この領域の研究は十倉総括がマンガナイト結晶で発見した巨大磁気抵抗をスピン-軌道秩序化に伴う現象として理解した研究成果を、更に多彩な物質系で、注意深い実験を繰り返すことによって、この巨大磁気抵抗の起因をより深く解明することに成功した。これは、Phys. Rev. Letters 90, 177203 (2003) に公表された様に、原子規模のランダムネスで誘起されたスピングラスの絶縁体状態と金属秩序状態間の相転移に伴う現象であることが分った。希土類金属の種類を変えながら格子定数を制御し、更に圧力や温度を変動させて相図を作り、その相境界付近で実現される巨大磁気抵抗の現象を系統的に解明できた(Phys. Rev. Letters 93, 227202 (2004))。更にこの実験結果は、理論グループによって見事に解析され、Phys. Rev. Letters 91, 197204 (2003)に発表された。この研究領域は、最も成熟して、高度に発展した領域である。

 この研究領域で特筆すべきは、実験技術においても2つの大きな成果を挙げていることである。第一に、高感度スピン分極走査電子顕微鏡(Spin SEM)を開発し、1 nmの厚さの層毎にスピンの分極方向を反転させるLa1.4Sr1.6Mn2O7結晶のスピン構造をサブミクロンのオーダーで観測する事に成功している。これは技術面で評価できる成果である。これはPhys. Rev. Letters 93, 107201 (2004) に公表された。第二には、ローレンツ透過型電子顕微鏡を用いて、Fe0.5Co0.5Si結晶で、スピンのヘリカル構造を観測し、磁気転位の存在を発見したことである。この仕事に関しては、論文を準備中である。

 希土類金属バナジウム酸化物RVO3 (R = Lu, Yb, Er, Y, Dy, Tb, Gd, Sm, Nd, Pr) を作製し、希土類金属イオンRの半径と、温度の関数として、スピンと軌道秩序に関する相図を作製した(Phys. Rev. B68, 100406 (R) (2003).)。秩序化した軌道の自由度に関する素励起であるオービトンは、既にマンガン酸化物系でこのグループで発見されていたが、バナジウム酸化物系ではその素励起分散を求めた論文を、Phys. Rev. Letters, 94, 076405(2005)に発表した。またRuddlesden-PopperシリーズのSrn+1RunO3n+1 (n = 1, 2, 3, ∞) の結晶を作製し、更にSr3 (Ru1-xMnx)2O7ではxをパラメーターとして、また温度の関数としてモット遷移(金属―非金属転移)を発見し、発表論文を準備中である。

 この研究領域の研究成果は、質と量ともに十二分である。

 (2)研究領域II Multiferroics (強磁性強誘電体等)における磁気電気現象
 ここではMultiferroicsを強磁性強誘電体と訳した。この研究領域IIは、今迄の十倉グループの仕事を、磁気・電気効果を増強する独創的でかつ革新的な提案を試みる研究である。電場で強磁性体の磁気秩序を制御したり、逆に磁場で強誘電体の電気秩序を制御する野心的な試みである。自然界には強磁性と強誘電性を同一相で同時に示す結晶は極めて稀であり、しかも、以前に知られている結晶では電気磁気効果は極めて弱い現象であった。ここでも、十倉総括の得意技である電気的または磁気的秩序を発生する相境界付近で応答を巨大化する事に成功している。この思想の下で進められたのが強誘電性磁性体である。希土類金属マンガナイトRMnO3 (R = Gd, Tb and Dy) の系で、強誘電性を磁場で制御して見せた研究である。これはPhys. Rev. Letters 92, 257201 (2004) に発表された。ここでは、電気分極を磁場印加でa軸からc軸方向に回転させる事に成功している。

 この研究領域IIの第二の仕事は、焦電性フェリ磁性体Ga2-xFexO3結晶を浮遊帯域溶融法で作ることに初めて成功した。この結晶は時間反転・空間反転対称性を同時に失っているので、磁気的および電気的倍高調波の発生が可能となる。その倍高調波のKerr回転角が100Kで73度もの異常な大きさを観測した。この結果は、Phys. Rev. Letters 92, 047401 (2004) に公表されている。更にフェリ磁性のドメイン構造を0.05Tの弱い磁場印加で制御できることも見出している。

 第三の仕事と第四の仕事は産業技術の面からも興味ある研究である。強磁性体を含む三層の超格子構造を、ペロブスカイト型遷移金属酸化物を用いて、原子レベルで人工的に作製することに成功した。この意図は人工的に時間と空間の反転対称性を失った系を作製することで、この系からの巨大な磁気倍高調波の発生とその巨大なKerr回転を観測している。この仕事は、Phys. Rev. Letters 90, 217403 (2003) に公表されている。また、この手法は、磁気トンネル素子の界面磁性評価に応用され、その結果はScience 305, 646 (2004) に発表されている。第四の仕事も、強磁性体パーマロイNi80Fe20のV字型をしたサブミクロンのパターンをシリコン中に書き込むことによって時間・空間反転対称性を破り、磁気電気効果を光学領域で観測している。

  これら2つの仕事は、すぐ実用化に結び付くかは不明であるが、この様に科学と産業技術との接点を意識して研究が展開されることは、高く評価される。これは、産業技術総合研究所の強相関電子技術研究センターでのプロジェクトのよき協力関係の証しであると理解される。

 (3)研究領域III ベリー位相が関与する現象
 この研究領域は、実験グループとアドバイザーの永長直人教授を含む理論グループが最も有効に協力しあって、基礎科学の面で最も野心的な研究成果を挙げ始めた領域である。  磁性伝導体における異常ホール効果の起源は、この3年間の研究によって急速に解明に向った。この進展には大部分で、十倉グループが寄与していることを強調しておく。その第一の仕事は、スピンカイラリティー(3つの副格子スピンが形成する立体角)に伴うベリー位相が、パイロクロアNd2Mo2O7での巨大異常ホール効果を生じている事を、理論と実験両面からの研究で示した。理論はPhys. Rev. Letters 90, 196602 (2003) に、実験はPhys. Rev. Letters 90, 257202 (2003) に発表されている。その理論は異常ホール効果の温度、外場の大きさとその外場の方向の依存性を説明することに成功している。さらにNd2Mo2O7を、スピンカイラリティーを持たないGd2Mo2O7と比較しつつ、両者の周波数に依存するホール伝導度、すなわち磁気光学スペクトルを測定し、上記の異常ホール効果を説明したベリー位相の理論で理解することに成功した。

 第二の仕事は、Ca-doped SrRuO3結晶のSrとCaの濃度をパラメーターにとり異常ホール効果と磁化を、温度の関数として測定した。異常ホール効果を
磁化の関数として統一的に整理できることを示した。それを基にして、バンド構造に由来する波数ベクトル空間での磁気モノポールに伴う前述の量子ベリー位相の効果として、理解することに成功した。これはScience 302, 92 (2003) に発表された。第三の仕事は、SrRuO3結晶を使って、温度勾配下での異常伝導現象を観測した。これは異常ネルンスト効果と呼ばれ、異常ホール効果と同様、量子ベリー位相の効果による現象として注目されている。

 研究領域IIIでは、ベリー位相現象で代表される異常ホール効果の研究を進めている。その中で最も野心的な研究は、有機強誘電性の起源を共有結合系のブロッホ電子が担う量子ベリー位相に求めようとするものである。π共役電子系よりなる分子として、phenazine (Phz) とchloranilic acid (H2ca) またはbromanilic acid (H2ba) を選び、その巨大分子集合体として新しい型の強誘電体を作製し、ベリー位相に伴う強誘電性発現のモデルの下で、その強誘電性を制御することを試みている。この成果は、Nature Materials 4 (2005) に印刷中である。新しい系での展開が期待される研究成果である。

 電子系の波動関数を支配する位相(Phase) のうちベリー位相はスピンカイラリティーと結びついて、固体物理学に現われるもう一つのPhase (磁気秩序相、強誘電相)と強い関りを持つ。バイロクロアに見られた異常ホール効果を、磁気秩序相におけるベリー位相の概念で理解することに始まり、巨大分子の強い水素結合を持つπ共役電子系のベリー位相を利用した誘電効果を制御しようとする試みまで進んでいる。これらの研究の進展には、息の長い努力が求められると思われるが、ERATOの後半1年半に加えて、それ以後の展開・発展の3年での成功を期待したい。これは、固体物理学の新たな発展に結びつく重要な研究課題であると信ずる。


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