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樽茶多体相関場プロジェクト事後評価報告書
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総括責任者 樽茶 清悟【東京大学大学院理学系研究科 教授】
研究体制: 低次元電子相関グループ
異種粒子相関グループ
量子輸送コヒーレンスグループ
評価委員 青柳 克信 【東京工業大学総合理工学研究科物性情報システム創造専攻 教授】
安藤 恒也 【東京工業大学理工学研究科物性物理学専攻 教授】
覧具 博義 【東京農工大学工学部物理システム工学科 教授】
Tord Claeson 【Professor, Chalmers University of Technology】
Robert M.Westervelt 【Professor, Harvard University】

 


評価:Excellent

1. 事後評価の概要
 半導体の超薄膜結晶成長技術と極微細加工技術の進歩により、人工的な1次元系である量子細線や0次元系である量子ドットが作られ、さまざまな新しい現象が観測されている。例えば、1次元系のコンダクタンスの量子化、量子ドットのクーロンブロケード効果と単電子トンネル効果はその典型である。
 このプロジェクトの総括責任者である樽茶清悟氏は、低次元構造の作製技術の開発と電気伝導測定により電子間相互作用の重要性を具体的で明確に示す現象を観測した。例えば、2次元電子系の高精度加工により10ミクロン程度の長さの1次元量子細線を作製し、そのコンダクタンスが電子間相互作用には依存しないことを発見した。この従来の理論的常識と異なった実験結果は電気伝導現象の基本的な問題を提起し、それが契機となり多くの理論的研究が行われた。測定されたコンダクタンスの温度変化は1次元系特有の朝永―ラッティンジャー流体として理解できることを示した。さらに、半導体二重障壁共鳴トンネル構造を円柱状に加工し、理想的なゼロ次元系である量子ドットを作り、電子数を精密に制御することに成功した。この人工原子の電子構造とその磁場効果をトンネル分光法により精密に測定し、交換相互作用によるフント則をはじめ、電子間相互作用の効果を実験的に明らかにした。この人工原子は電子相関効果を研究する格好の舞台を提供する。
 本プロジェクトは、総括責任者のこのような研究成果のもとに、半導体低次元構造における少数電子系の多体効果とスピン相関,量子コヒーレンス,異種粒子相関(電子―フォノン,フォトンなど)など、多彩な相関現象の解明と制御をテーマとして発足した。この研究では、電子構造を厳密に制御できる0,1次元系、あるいはスピンを制御できるハイブリッド系を準備し、その電子状態の関与する量子現象を明らかにするとともに、スピントロニクスや量子計算と量子情報処理への応用を意識した電荷位相、スピンの自由度、多粒子系量子相関の制御法を提案することを目標に研究を行った。
 事後評価に先立ち、TARUCHA Mesoscopic Correlation Projectと題する英文の報告書が評価委員全員に送付された。平成16年9月7日(火)に厚木のNTT物性科学基礎研究所内において、成果報告と質疑,研究施設見学,評価委員と総括責任者との懇談などを行った。引き続き行われた評価委員会で、このプロジェクトが世界をリードする最先端の重要な研究成果を次々と生み出しており,評価委員全員一致でAA(秀)と評価されるべきとの結論に達した。以下は得られた研究成果および研究実施状況の詳細である。
2. 研究の実施状況
 
2.1 研究組織
 研究組織は(1)低次元電子相関グループ,(2)異種粒子相関グループ,(3)量子輸送コヒーレンスグループの3グループよりなる。それぞれのグループは下記のような目的で研究を行った。
 (1) 量子状態が厳密に制御された構造を用いて、0,1次元電子の多体状態、強い電子相関の物理を解き明かす。
 (2) 伝導電子と他の粒子系(フォノン,光子,核スピンなど)、交流電磁場との相互作用の解明、半導体―磁性体ハイブリッド構造によるスピン制御。
 (3) 横型量子ドットにおける電荷、位相、スピンのコヒーレンスの解明、量子計算への応用。
 グループ(1)と(2)の研究拠点はNTT物性科学基礎研究所、グループ(3)の研究拠点はオランダのデルフト工科大学に置いた。
 グループ(1)の主な研究対象は縦型量子ドットとその結合系における電子相関と結合量子細線におけるクーロンドラッグなどであり、特に量子ドットに関する研究では横型量子ドットを対象とするグループ(3)と密接に関係している。縦型ドットには電子数を0個から1個ずつ変えられ、しかもそれに伴う電子状態の変化を正確に同定できるという長所がある反面、ドットと電極、ドット間のトンネル結合を変え難いという短所がある。横型ドットは、対照的に、電子数や電子状態を決めることが難しいが、縦型のような短所がない。グループ(3)では、外部電極とのトンネル結合をパラメータとして、スピン相関の電極への広がりや粒子的クーロン相関と位相干渉などに注目して研究を行った。
 各グループは、粒子相関の物理の解明、スピン効果の制御、スピントロニクス・量子計算の応用のための基礎という共通のテーマをもち、互いに協力関係を保ちながら研究を行った。5年間の研究を進める間に、各研究グループが対象とする課題が電子スピンを用いた量子計算と量子情報処理を中心としたものへと集約されてきたように見受けられる。
 
2.2 研究者の推移
 各研究グループの研究者数は以下のとおりである。5年間の期間中多くの若手研究者がプロジェクトに関与し、若手研究者育成への寄与も高い。
 (1) 低次元電子相関グループ:15名(10名がプロジェクト中に転出)
 (2) 異種粒子相関グループ:8名(3名がプロジェクト中に転出)
 (3) 量子輸送コヒーレンスグループ:10名(6名がプロジェクト中に転出)
 
2.3 研究成果発表
 このプロジェクトから出版された論文は99編、国際会議等での発表が258件(招待講演が123件)、また、本や総説が19編である。論文はほぼすべて国際的に認められた一流誌に発表されている。また、2001年10月1−4日に東京大学で開催された第28回化合物半導体国際シンポジウムでは総括責任者である樽茶清悟氏とグループ(3)のLeo KouwenhovenリーダーがThe Quantum Devices Awardを受賞した。樽茶清悟氏は2002年に仁科記念賞、2004年に紫綬褒章を受賞した。さらに、研究成果の公表などのために、ミニシンポジウム“Quantum Computing - Principles and Implementations”を2001年8月24日にJST Science Plazaで(講演10名、参加者60名)、また、ERATO Workshop “Mesoscopic Correlations In Nanostructures”を2002年7月26 - 27日にオランダのデルフトで開催(招待講演22名、ポスター19名、参加者60名)した。2003年12月15-18日にオランダのアムステルダムで開催されたInternational Conference on Solid State Quantum Information Processingにも深く関与した。
 
2.4 研究装置
 ナノ構造の半導体評価素子を作成・評価・測定のために以下の実験施設と装置を整備した。これらはNTT物性科学基礎研究所、東京大学、デルフト工科大学の3拠点に設置された。
 ・ Electron Beam Lithography System (ELS-7700), Elionix Inc.
 ・ Helium Dilution Refrigerator (MK126-700GH), Leiden Cryogenic Inc.
 ・ Extremely Low Temperature Probe System (DCP-4M,NT) N.O.C. Inc.
 ・ High Vacuum/Low Temperature STM System (USM-1300SES), Unisoku Limited
 ・ Helium Dilution Refrigerator (Kelvinox-100), Oxford Instruments Inc.,
 ・ Helium Refrigerator (Kelvinox-VT), Oxford Instruments Inc.,
 ・ Heliox 3He Refrigerator (Heliox-VL), Oxford Instruments Inc.,
 ・ UV-Dry Stripper/Cleaner System (UV-1), Thamco I’nal Lab. Limited
 ・ Analog Lock-in Amplifier (124A) Seiko E.I.C. Limited,
 ・ Spatter System (L-205S-FH), Anelva Limited,
 ・ Photo-mask Aligner (MA-10), Mikasa Limited,
 ・ Draft Chamber (DWS-1A), Enya System Limited,
 ・ Helium Leak Detector (CMSE-2000DRY), Shimadzu Seisaku Limited,
 ・ RHEED Measurement system, (MB-1000), Eiko Engineering Inc.
 ・ Supper Magnetic Field Applied System (SMD/15VSEX), Oxford Inst.Inc.
 ・ Standard Current/Voltage Supplied System (4142B), Agilent Technologies Inc.
 ・ Synthesized Swept Signal Generator (HP8306B/L) Agilent Technologies Inc.
 ・ MK Magnetic Refrigerators (mF-1K/1), Cambridge Magnetic Ref. Inc.
3. 研究成果の意義と将来性

3.1 主な研究成果と意義

(1)低次元電子相関グループ
 このグループは、実績のある量子細線と縦型量子ドットとその結合系における電子相関についての研究を主に行った。そのため、プロジェクト開始当初から新しく興味深い研究成果が得られた。
 縦型単一量子ドットでは、磁場やドットの閉じこめポテンシャルの形状により準位の縮重を自在に制御し、さらにゲート電圧とソース−ドレイン間電圧依存性を組み合わせた詳細なトンネル電流の観測により、スピン1重項と3重項状態、異なるスピン2重項状態の間を自由に制御可能であることを示した。そこでは最適な量子ドットの設計と優れた作製技術も重要な役割を果たしている。この研究は他のグループで行われている量子情報処理を目指したスピン−電荷変換を行うスピンフィルターを実現するためにも重要な研究である。
 ソースとドレインと強く結合した縦型ドットにおいて近藤効果を観測した。さらに最適な形状を設計し軌道状態の縮退を制御することにより、新しい「1重項−3重項近藤効果」を観測することに成功した。さらに、数値繰り込み群を用いた精密な理論計算によりこの近藤効果の存在を実証した。
 縦型量子ドットを2個縦方向に配置することにより人工分子を作製し、ドット間の結合強度をドット間の障壁層の厚さと磁場により制御し、分子の共有結合状態からイオン結合状態への遷移を実現した。さらに、3重項状態が分子中に形成されると、パウリ排他律のために二つのドット間での電子遷移が禁止され、それにより整流現象が現れることを発見した。
 また、新しく縦型量子ドットを並列状に配置した2重量子ドット構造を作製し、そこでの安定電子数が側面ゲートの電圧により特徴的な変化を示すことを観測した。詳細な理論計算を行った結果、準位ごとにドット内の電子の波動関数が違うために、量子トンネル効果とクーロン相互作用の効果が相対的に変化するためであることが明らかになった。
 平行量子細線では「負のドラッグ」と呼ばれる新奇な現象を発見した。これは限られた電子濃度領域とある程度の磁場強度で観測される。その原因解明のために希薄一次元電子系特有のウィグナー結晶化に関係づけた理論的解析が試みられている。
 
(2)異種粒子相関グループ
 この研究グループの研究対象はこれまでの総括責任者にとって新しい方向を目指した研究であり、また、研究組織や実験装置などがこのプロジェクトが実際に発足してから整備されたため、他のグループに比べれば、具体的な成果が出始めるのに多少時間がかかったようである。しかし、発足から5年を経過した現在では、発表論文などからも分かるように、世界をリードする研究成果をあげている。
 単一縦型量子ドットではスピン3重項状態から1重項状態へのスピン緩和を観測し、緩和時間が0.2ミリ秒と非常に長く、量子ドットの電子スピンが量子ビットとして有効であることを示した。弱く結合した縦型量子ドットでは、スピンブロケードによる整流作用を観測し、それが原子核のスピンとの超微細結合により破壊されること、それが印加電圧と磁場により制御できることを示した。これは電子スピンを量子ビットとして用いる際には問題となる一方、原子核スピンを制御する可能性を与える。電子スピンと核スピン系の結合のダイナミクスを記述する新しい理論も提案した。
 InAs自己形成量子ドットでは、数個のドットを埋め込んだ単一電子トランジスタ中で、ゲート電圧によって単一ドットを選択することに成功し、人工原子特有のs殻やp殻などの殻構造を確認した。縦型に配置した二重ドットでは、ゲート電圧やソース・ドレイン電圧により、ドット間の準位差を自由に変えられることを示した。この系ではフォノン放出を抑制し、単一電子・光子変換が可能となると期待される。
 強磁性体(Fe)層をGaAs上に結晶成長したハイブリッド構造で、ホットな電子を使い偏極度の高いスピンをGaAsに注入できることを示した。また、希薄磁性半導体のGaMnAsを電極と井戸、非磁性半導体のAlAsを障壁とする微小共鳴トンネルダイオードにおいて、バイアス電圧の大きさに依存するスピンバルブ効果を発見した。
 このグループでは一部、NTT物性科学基礎研究所の平山祥郎氏、富士通研究所の横山直樹氏、東京大学の福山寛氏及び荒川泰彦氏、産総研の秋永広幸氏と共同研究を行った。
 
(3)量子輸送コヒーレンスグループ
 このグループは、デルフト工科大学の現有研究設備を活用し、プロジェクトの初期の段階から、高いレベルの研究成果を得ている。
 このグループの大きな研究成果の一つは量子ドットにおける近藤効果の物理を深化させたことである。実際、横型ドットの電極とのトンネル結合や電子数を調整することで、ユニタリー極限の近藤効果の観測に成功した。さらに、「非平衡系近藤効果」、「2段階近藤効果」など、近藤効果の新しい様々な側面を見出した。近藤効果は、数学的厳密解が得られるなど、金属中の希薄磁性不純物の問題としては解決したと思われていた。しかし、これを契機に、量子ドットの近藤効果についての研究が世界中ではじまり、その新たな側面の理解が深まりつつある。
 量子計算及び量子情報処理の関連では、量子ビットを量子ドットのスピンや電荷を使って実現することを目指し、マイクロ波照射により結合ドットで電荷の重ね合わせが測定できることを確認した。さらに量子ドットの電子のスピン・ゼーマン分離を利用して量子ドットの電子スピン情報を電荷情報に変換し、量子ポイントコンタクトを流れる電流で観測することに世界で初めて成功した。また、スピンの反転を伴う緩和時間がほぼ1ミリ秒に達することを観測した。
 電子スピンの量子ビット操作を目指し、グループ(2)と共同で、局所的で時間制御可能な電子スピン共鳴装置の試作も行っている。まだ成功してはいないが、たいへん意欲的な研究であり、これからの発展を期待したい。電子スピンを量子ビットに用いた量子計算の実現に向け着々と研究を進めている。
 有限長カーボンナノチューブを量子ドットに用いた単電子トランジスタでは、半導体ナノチューブの伝導帯下端付近と価電子帯上端付近の電子状態がほぼ完全に対称なことを観測した。理論的には以前から予想されていたが、実験で直接観測したのは初めてである。また新しく、InAsなど半導体ナノワイヤについての実験も開始した。

3.2 継続研究へ向けて
 事後評価の概要で述べたように、本プロジェクトは、総括責任者の優れた研究成果のもとに、半導体低次元構造における少数電子系の多体効果とスピン相関、量子コヒーレンス、異種粒子相関など、多彩な相関現象の解明と制御をテーマとして発足した。電子構造を厳密に制御できる0,1次元系、あるいはスピンを制御できるハイブリッド系を準備し、その電子状態の関与する量子現象を明らかにするとともに、スピントロニクスや量子計算や量子情報処理への応用を意識した電荷位相、スピンの自由度、多粒子系量子相関の制御法を提案することを目標に研究を行った。
 発表論文から分かるように、これらの研究は世界最先端の研究であり、常にこの分野をリードしてきた。このプロジェクトの研究成果が物理学や応用物理学分野の主要な国際会議ほぼすべてで招待講演として取り上げられていることからも明らかである。プロジェクト開始当初は、その目標が基礎物理学的な電子間相互作用の理解、異粒子間相互作用、スピントロニクスとかなり広く分布していたが、5年間のプロジェクト研究を通して、量子計算と量子情報処理、特に量子ビットとして電子スピンを用いたものへと研究目標がまとまりつつあるように見受けられる。幸い、このプロジェクトの継続が決まっているので、更なる発展が期待できる。
 このプロジェクトは、東京大学、NTT物性科学基礎研究所、デルフト工科大学の3研究拠点で進められた。特に、優れた研究施設と設備を誇るNTT物性科学基礎研究所の協力が重要な役割を果たしてきた。継続プロジェクトでもその協力関係が維持され、さらに高まることを期待したい。
 

This page updated on January 25, 2005

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