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黒田カイロモルフォロジープロジェクト事後評価報告書
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総括責任者 黒田 玲子【東京大学大学院総合文化研究科 教授】
研究体制: 分子カイロモルフォロジーグループ
生物カイロモルフォロジーグループ
評価委員 浅島 誠 【東京大学大学院総合文化研究科 教授】
Gary Freeman 【Professor,The University of Texas at Austin】
原田 宣之 【東北大学多元物質科学研究所 教授】
Bengt Norden 【Professor,Chalmers University of Technology】

 


1. 事後評価の概要
 本プロジェクトは、分子や結晶レベルの微視的なキラリティー(左右性)に関わる現象の解明や測定法の開発を目指す「分子カイロモルフォロジー」と、生物体レベルの巨視的なキラリティーの決定に関わる現象として、特にヨーロッパ産モノアラガイの一種Lymnaea stagnalisを用い、生物の初期発生に見られる左右性決定機構の解明を目指す「生物カイロモルフォロジー」という二方面からのアプローチにより、キラリティーという観点でミクロからマクロに至る接点を見いだそうとする野心的なプロジェクトである。
  分子カイロモルフォロジーグループにおける成果としては、結晶状態におけるキラル識別現象として様々な現象を新たに発見し、一部ではその機構を解明するなど、新たな知見として多大な成果を上げていると評価できる。特に優れた研究成果の一つは、新規万能型キラル光学分光計、UCS-1 と UCS-2を開発し、大きな巨視的異方性をもつ試料の偽シグナルの無い、真のCDスペクトル測定の道を開いたことにある。本研究でもβ-アミロイド蛋白質について行われたように、今後分子的キラリティーとその変化が生物における現象に与える影響に関する研究や、他のキラル機能性物質材料の研究において、有力な手法となるものと予想される。また、非常に高い光学純度をもつキラル脂肪族アルコールの精製手法につながる重要な成果もあり、評価できる。
 生物カイロモルフォロジーグループにおける成果としては、実験動物の飼育法から始めたこともあり、実験系の構築においては過去の様々な報告との比較を基に実際の条件検討に時間を費やされた。しかし、チューブリンとアクチンを蛍光標識することで、同じ種に属する左右の巻貝胚のらせん卵割の時間的・空間的変化の観察を初めて行い、左右の巻貝の発生初期らせん卵割過程における細胞骨格動態が鏡像関係にないという新しい概念を導く発見をしたこと、さらにこの非鏡像性が細胞分裂レベルでの相違に限定されたものではなく、巻型決定遺伝子と遺伝学的に強く関連していることを初めて見いだしたことは評価できる。 
2. 研究の実施状況
  もとよりミクロからマクロに至る左右性に関わるメカニズムの接点を見出そうとする遠大な計画であるため、それぞれのサブプロジェクトの関連性が明確でない点はある程度やむを得ない。分子カイロモルフォロジー分野については、その多大な進展を見るに、極めて優れた成果があったといえる。生物カイロモルフォロジーにおけるバイオアッセイ系の開発等についても、中間評価で指摘されている点に改良を加え、技術的に克服したと見ることができよう。分子カイロモルフォロジーと生物カイロモルフォロジーを取り持つ接点についても、巻型決定因子の同定をするか、あるいは既知の機能蛋白質のキラリティーに関わる化学的なアプローチから別の切り口を見出すことで、新たな展開が期待されよう。各論における基礎固めが充分かつ多様に行われた点は高く評価でき、今後のさらなる発展に期待が持たれる研究成果である。
3. 研究成果の意義と将来性

3.1 分子カイロモルフォロジーグループにおける成果
 固体状態のキラリティーを正確に測定するための必須の装置として、巨視的な異方性をもつ試料の真の円二色性 (CD)スペクトルを得ることのできる新しい円二色性分光計、Universal Chiroptical Spectrometer (UCS) の開発を行った。第1世代であるUCS-1を用いて、蛋白質BSAのキャストフィルムについて真のCDスペクトルの測定に初めて成功し、BSA はキャスト化しても元の二次構造を保持するという事実を新たに発見し、従来の説を覆した。また第2世代であるUCS-2を用い、β-アミロイド蛋白質の構成ペプチドの二次構造が、溶液からキャストフィルムへの相転移において、α-ヘリックスから β-シートに変化することを発見し、今後のアルツハイマー病進行の機構解明にも大いに貢献するものと期待されている。
 また、ビナフトールとキノン化合物の結晶を乳鉢で共にすり合わせた場合にできる電荷移動付加体において、分子が結晶相で拡散組替することで新しい結晶が形成される現象を発見し、これに伴う機構を明らかにし、さらに固体状態結晶化におけるキラリティー転移の機構を明らかにした。その他、結晶状態光反応において高い光学純度をもつキラル生成物が得られる新たな系を見いだした他、ポルフィリン誘導体のキラル会合体の構造が添加されるキラルアミンのキラリティーによって制御される事など、興味深い現象を新たな実験系を構築することで発見している。さらに、種々のキラルアミノアルコールを構築材とした金属超分子化学の研究では、二核金属錯体が異常なCDスペクトルを示すことを見出し、これは異なった核に配位した発色団間の励起子相互作用によることを明らかにした。またこれらに加え、超分子結晶場におけるキラルポケットを用いることにより、特定のキラリティーをもつ脂肪族アルコール分子が優先的に取り込まれる系を新たに見出した。
 これらの様々な現象を新たに発見した事に加え、特に上記の新規万能型キラル光学分光計を開発した事は、これが今後の分子キラリティーに関する様々な研究分野にとって有力なツールになり得、また生物学的分野への応用も期待できるという点で、多大な貢献があると評価できる。

3.2 生物カイロモルフォロジーグループにおける成果
 Lymnaea stagnalisをモデル動物とし、その左巻き・右巻き両系統を入手し、それぞれを効果的に飼育して系統を維持し、恒常的に卵を得る系の開発に成功した。左右両系統の戻し交配系統を充分量確保し、実際に遺伝学的に右巻きが左巻きよりも優性であり、この遺伝子座が母性遺伝的に働くことによって卵割様式が決定されることを確認した。また、右巻き系統の細胞質を左巻き系統の卵に顕微注入し、第3卵割におけるキラリティーを解析する実験系について、様々な条件検討を行った。
 さらに、分裂期の紡錘体の傾き(SI)と割球の形態変化(SD)について、右巻き・左巻き両系統の第三卵割の時期に着目し抗チューブリンモノクローナル抗体と蛍光ファロイジンで標識することで、それぞれ細胞分裂装置とアクチン細胞骨格を可視化し、SIとSDが左巻き胚には無く、右巻き胚にのみ見られることを発見した。そこでアクチン重合阻害剤を用いて右巻き系統の胚における割球の形態変化を第三卵割中期に阻害する実験により、割球の形態変化が、右巻き系統の第三卵割における紡錘体の時計回りの傾斜が生ずるために必須であることを示唆する結果を得ている。また様々な問題点を克服し、細胞質移植については若干課題を残すものの、卵への物質顕微注入による候補因子のバイオアッセイ系を確立した。さらに候補遺伝子が巻型決定遺伝子であるか否かの判定を、表現型と遺伝学的に連鎖するかどうかで迅速に評価するF2パネル法も開発した。
 その他、左右性決定因子の同定やその遺伝子クローニングの試みとして、二次元電気泳動による右巻き・左巻きそれぞれに特異的な蛋白質の同定や、左右両系統の遺伝子ライブラリーを基にしたサブトラクティブ・ハイブリダイゼーション法等行い、いくつかの候補を得つつある。
 これら二つのサブプロジェクトを統合する知見としては明確なものは示されなかったものの、広く応用可能な解析手法を開発した点で、本プロジェクトの目標へ向かう方向性として、一定の評価は可能である。
 

This page updated on January 25, 2005

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