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関口細胞外環境プロジェクト中間評価報告書
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総括責任者 関口 清俊 【大阪大学蛋白質研究所 教授】
研究体制: マトリックス機能情報グループ
マトリックス応答遺伝子グループ
マトリックス工学グループ
評価委員 赤池 敏宏 【東京工業大学大学院生命理工学研究科 教授】
永田 和宏 【京都大学再生医科学研究所 教授】
西田 輝夫 【山口大学医学部眼科学教室 教授】
林 利彦 【帝京平成大学 教授】
Kenneth M.Yamada 【Branch Chief, NIH, M.D., Ph.D.】

 

概要
 関口細胞外環境プロジェクトは、細胞外マトリックス(ECM*1)が単に機械的な強度を生体に付与するだけでなく、個々の細胞が生存・増殖・分化するのに最適な細胞外微小環境を提供しているという仮説を実証すべく展開された。本プロジェクト評価委員(赤池敏宏(東工大)、林利彦(帝京平成大)、永田和宏(京大)、西田輝夫(山口大)、K.Yamada(NIH))は、本プロジェクトが新規で且つ重要な科学的基盤を創造することに成功しつつあると高く評価する。なかでもマウスcDNAライブラリーの有効な利用法を提示し、具体的に得られつつある成果は特筆される。ゲノム情報を細胞外マトリックス成分の分野において積極的に利用する意義が実証されることは、細胞外マトリックスの分野を越えて他の分野へも影響を及ぼすものとして位置づけられる。発生・分化、恒常性維持、再生医学など、器官レベルの生命科学などにおける、重要な課題について研究に取り組み、展開するうえで、参考データベースとなるであろう。これらの成果を得る過程から固まってきたと思われる「マトリオーム」という概念によって、プロジェクトが、組織あるいは器官の特異性を、「個々の細胞に対する細胞外微小環境のカスタマイズ」という具体的な指標へと展開し、組織・器官の分化を細胞外マトリックス分子構造という実体と結びつけ、実証可能な仮説を提唱したことは評価できる。
 しかしながら、評価委員会は、研究終了までの残り2年弱の間に、プロジェクトが以下の2点に重点的に取り組むことを強く求めたい。第一に、プロジェクトで得られた新規の細胞外マトリックス分子の免疫組織化学的検索によって得られた知見や特性に関する情報やデータベースを、関連分野の研究者がアクセスできるように、公開することである。第二に、研究全体を、このプロジェクトの主要概念であるマトリオームやカスタマイズECMに調和または一致させるような方向性を明確にすることである。これらの目標が首尾良く達成されるならば、我々はこのプロジェクトの継続を支持したいと考える。
 面接による評価会は2004年5月14日に、事前に(約1ヶ月前)配布されたプログレスレポートを基に行われた。午前中は関口清俊 総括責任者と3人のグループリーダー(眞鍋理一郎、林良敬、淨住大慈)によって、4つのテーマへの取り組みについて、口頭発表およびそれらに関する質疑応答が行われ、午後からはサイトビジットを実施、その後評価委員のみ研究評価について討議し、報告書の作成を行った。
 本プロジェクトは、基底膜が上皮−間充織相互作用の機能的インターフェイスであり、臓器特異的機能を受け持つ細胞が上皮細胞であることから、細胞外マトリックスの中でも特に基底膜に着目し、新規または既知のECM因子の包括的な解明に取り組んできた。プロジェクトは、当初の目標として、次の3つをとりあげ、それぞれをチームリーダーの自主性を重んじ、研究者の経験、興味の持ち方などの長所を生かして研究が展開されてきている。
 目標1)新規細胞外マトリックスタンパク質のスクリーニングとそれらのin vivo発現プロファイリング
 目標2)ラミニンアイソフォームタンパク質の大量生産を目指した、EHS*2腫瘍細胞におけるラミニン1大量発現機構の探索
 目標3)接着活性を有する「成長因子−マトリックス分子キメラ」の設計
 最近のゲノム研究の進展によると、ヒトゲノム中のECMまたはECM関連遺伝子は400を超えると推定され、その約半数は未だ同定されていない。プロジェクトチームの目標1)については、これまでに数多くの新規ECM分子を発見し、それらの生化学的な特徴を明らかにすることに成功している。また、それらの局在に関する知見を免疫組織化学的手法により全ての臓器にわたって収集することにも成功している。ECMタンパク質分子は細胞の周囲あるいは細胞間に沈着して作用しているので、沈着する組織部位の特定と分子構造を結びつけることが可能な抗体を作成することに成功したことは方法論的に評価できる。このようにして発現遺伝子の産物が実際in vivo 組織中で固相化し、各細胞に特徴的な細胞環境(カスタマイズ環境)が形成されることを証拠づけることができた。そして、プロジェクトは分化細胞とカスタマイズされた細胞外環境の総体を定義するものとして、マトリオームという新しい概念を提唱し、カスタマイズECM因子がどのように組織発生に関与しているのかについてのモデルシステムの一つとして毛包形成をとりあげている。本プロジェクトによって見いだされた2つの新規基底膜因子は、W型コラーゲンなど基底膜に一般的に局在する成分と異なり、それぞれがダーマルパピラ(毛乳頭)先端の基底膜およびストーク(毛包側部)の基底膜にのみ局在している。このように分化の異なる細胞に特異的な基底膜成分が発見されたことから、カスタマイズされたECM因子と特異的な機能を有する細胞との相互作用が、毛包形成の制御に関与していることが示唆される。
 目標2)は、EHS腫瘍組織におけるラミニン1大量生産の機構解明である。ラミニン1は、最初に発見されたラミニンファミリーのアイソフォームである。ラミニンはα、β、γと呼ばれる3種類のポリペプチド鎖で構成されており、α、β、γ鎖には、それぞれホモローグがある。現在までα鎖には5つが同定されており、ラミニン1が、タンパク質として入手可能な唯一のラミニンアイソフォームである。プロジェクトは、異なるα鎖をもつラミニンアイソフォームの組み替えタンパク質の大量生産系を目指し、その基盤を確立した。これにより特異的な細胞の機能に関連したカスタマイズ基底膜を、ラミニンアイソフォームタンパク質という実体を用いて解明することが可能となった。ラミニンアイソフォームタンパク質の大量生産は、将来に有効な手段を与える可能性があり、プロジェクトの重要な成果と評価される。しかし、評価委員会としては、マトリオームグループのcDNAライブラリーに基づく研究が格段に高い成果をおさめていることを鑑みると、「マトリオーム」、「カスタマイズECM」という新規の概念に集約して、目標2)の成果を整理、統合して、最終報告へ向かうべきであると勧告したい。プロジェクト全体の調和を行わないままに、目標2)の成果をさらに拡張・充実することに、残された2年弱を費やすべきでないと考える。
 プロジェクトの目標3)は、会合体形成能を持つミニフィブロネクチンに細胞機能調節因子(サイトカイン)を組み込んだ分子を設計することである。会合・固相化したECM成分に組み込まれたサイトカインのシグナルは本来の拡散性のサイトカインと比較するとどのように異なるかは合成高分子にサイトカインを結合した従来からの研究に比べてどのような意義があるだろうか。以下は評価委員会のコメントである。生体の恒常性維持機構、たとえば、創傷・治癒過程などにおいて、ECM成分がMMP*3などの分解酵素の活性化により、分解されるとともに、組み込まれたサイトカインが遊離することで生ずるシグナルは、合成ポリマーと成長因子の非特異的な結合からは予測されないような、生体の部位および時期特異的な効果をもたらす可能性がある。このように第3の目標についての成果はECMの生物学的な意義を、臓器、組織部位の特異性に関連づける重要なものと評価される。しかしながら、評価委員会は目標3)に関しても研究を拡張・深化していくことを最優先すべきではないと考える。それはこのテーマに集中することが、プロジェクト全体の中心的、統一的な成果へ絞り込みすることを、結果として遅滞させてしまうことを恐れるからである。
 評価委員会は、上述のとおり当初直接的な関連はなく、異なった具体的な目標のもとに始められた取り組みが、それぞれユニークな成果を収めつつあるものの、マトリオームやカスタマイズECMという、新規で、創造的な概念に焦点をしぼることが、プロジェクトの成果のインパクトを最大にするとの意見で一致している。すなわち、中心的な成果に集約した形で、得られた結果を情報公開することが、ヒト生命科学の研究者に極めて有効なインパクトを与え、細胞外環境の重要性を真に理解する上での基盤を与えるものと考える。
 ECM*1: Extracellular Matrix(細胞外マトリクス)
 EHS*2: Engelbreth-Holm-Swarm(エンゲルブレスホルムスワム)
 MMP*3: Matrix metalloproteinases(マトリックスメタロプロテアーゼ)
1. 研究の実施状況と今後の見込み
 
評価 A
 プレゼンテーションやプログレスレポートから判断すると、マトリオームやカスタマイズECMの概念は、未発表の、多くの新規ECMタンパク質同定についての成功や有用なECMデータベースの構築において実証されつつあると評価できる。特に、中間評価会までに得られた、現在生み出されつつある成果1)新規ECMタンパク質のスクリーニングとin vivo発現のプロファイリング2)基底膜タンパク質の免疫組織化学染色のデータベースの構築、は特筆すべきである。委員の懸念はいつそれらが公表され、どのように他の研究者がそれらの情報にアクセスできるようになるかである。このことが不明瞭であるため、評価をA- とした。
 一方、その他の研究グループでは、これらの概念での統一性は未だ不十分である。研究グループを独創的かつ順調に推移している作業仮説であるマトリオームやカスタマイズECMという中心的な課題に、より強く焦点を絞るかあるいは調和を計ることにより、プロジェクト全体の成果を明確にするべきであろう。
 このことにより、本プロジェクトで生み出された様々な成果が、通常のグラントによって助成された他の多くの研究室にみられるように、個人研究者としての名誉のためだけの結果になるとの危惧も一掃されと思われる。ERATOプロジェクトの趣旨によれば、プロジェクトは科学の新しい未開拓分野のための基盤を創出することが求められている。新しい概念を生むにいたった、cDNAライブラリーからの新規のECM成分とその免疫組織化学的な特徴づけはライフサイエンス分野の研究に強烈かつ重要なインパクトを持つであろう。
 それ故、評価委員は新規ECM分子のゲノムスクリーニングとそれらをまとめたマトリオームデータベースが、2年弱のプロジェクト終了前に公開されることを強く求める。中間評価の段階の現状では公表へのロードマップがほとんど描かれていない。評価委員は公表がどのように可能になるかについて大きな関心を持っている。なぜなら、ここまでに得られた様々な研究成果は、一つ一つを論文として、発表するにはデータが膨大すぎるからである。最も重要な結果について論文化することは、最優先の課題として考えるべきであろう。たとえ個々のグループリーダーが、個人研究者としての判断から継続中の仕事を自分のやり方で完結させたいと望んだとしてもである。
 我々は関口総括責任者が、若手研究者はそれぞれのリスクのもとに精一杯取り組み、実りある成果によって報われるべきだと考えていることは、研究人材の育成という教育的見地からは理解できる。しかし、プロジェクト研究として優先すべきことは、プロジェクトディレクターが、プロジェクトを統合した全体としての方向性をだし、達成された目標の公開にむけ、彼らの力を適正に用いるように、指揮、リードするべきであると考える。そのことは長期的にはチームリーダーや研究員の育成にもつながるはずである。
 繰り返すが、新規ECM分子に関する主要な結果とマトリオームデータベースについての情報が公開されるかどうかは、プロジェクトの継続を我々が支持すべきかどうかの鍵である。プロジェクトとして別に設定された他の2つの目標は、現在までのところ、マトリオームやカスタマイズECMに関する研究とよく統一がとれていない。このことからもプロジェクトがマトリームやカスタマイズECMという中心的な課題のもとに統合あるいは調和されることを強く主張したい。最終的なプロジェクトの成果報告において、仮説として提案されたカスタマイズ基底膜の概念を実体化することにフォーカスされるかどうかに、本評価委員のもっとも強い関心がある。プロジェクト目標2)について具体的な例を挙げよう。
 プログレスレポートでも示されたように、心臓のラミニンα鎖の場合、3つのα鎖が心筋細胞、毛細血管の内皮細胞そして血管の内皮細胞のカスタマイズ基底膜に含まれると思われる。したがって、これらのラミニンα鎖が心臓の組織分化において、異なる細胞のカスタマイズ基底膜となっているかどうかという、新しい課題が、異なったα鎖を持つラミニンタンパク質を用いることで検証可能となる。その意味からも異なったα鎖を有するラミニンアイソフォームの大量生産系で得られた研究成果の意義は大変大きいということができる。ラミニンアイソフォームを大量産生するという技術を打ち立てた研究成果をカスタマイズ基底膜の仮説の実証に、他の研究者との共同研究なども含めて、今後役立てるとの考えで、目標2)を本プロジェクトの中心的なテーマへと統合することを勧めたい。
2. 研究成果の意義と将来性
 
評価 A
 プロジェクトが、マトリオームおよびカスタマイズECMという主要概念を確立し、実証へ向かっていることは大変高く評価できる。本研究の成果は発生生物学および再生医学における細胞外マトリックスの生物学的機能について一つの重要な基盤を創造しつつあり、成果の波及効果はヒト生命科学へも応用されうるものである。プロジェクトの進展により生み出された、マトリオームおよびカスタマイズECMの概念は、数々の新規ECM遺伝子の単離とその局在領域の決定、そして考えられうる生物学的機能の予備的同定によって、すでに科学的に実証されつつある。このように、概念そのものが、多大な意義ある結果をもたらしていることから、今後はもっと広い範囲の生命科学分野に波及的効果を及ぼすものと期待される。問題は、これらの概念と実証データ等の公開、アクセス方法に対するプロジェクトの取り組みが不十分なことであるが、我々はこれらの原因が、成果が得られて間もないという時間的な問題だけであると考えている。今後は波及効果を積極的に及ぼすような働きかけにも相当の努力が必要となろう。
 ECM因子の特徴を明らかにする生化学的な取り組みは、しばしば退屈でやっかいな作業となる。ECM成分は遺伝子の一次産物だけでなく、タンパク質の修飾・高次構造および超構造集合体の中にも機能情報が含まれ、かつ、蓄積されて、そのまま存在して影響を及ぼす物質群であるためである。つまり一つの生化学反応を分子レベルの機能として見ることが困難で、いわば二次的に機能が細胞の機能発現を通じて現れるためである。ECMは遺伝子の発現量あるいはタンパク質レベルの解析だけでは、その特徴を明らかにするのが困難なのである。
 これらのことから、日本国内だけでなく、一般に大学の研究室では、ECMについての研究テーマで短期的に決着する目標設定をするのは難しい上、効率を考えるとリスクが大きい。このような状況のなかで、本プロジェクトは細胞外マトリックスの構造と機能に関して、「マトリオーム」の概念、そしてその実体化としての「細胞分化の維持におけるカスタマイズ細胞環境としてのECM」を打ち立て、画期的な方法論と成果を収めつつある。今後、この中心的概念に統一・集中し、成果を整理していくならば、本プロジェクトの研究成果の影響は測りしれない。もちろん、個々の詳細な研究成果においても、細胞外マトリックス成分の構造と機能の解明にとどまらない波及効果はある。評価委員会は、本研究により、網羅的にカバーできないような大きな、広い範囲の新しい問題点の提起がなされたことを高く評価している。毛包形成との関連で発見された成分のように、サイズ的には現在利用可能なcDNAライブラリーからのスクリーニングでは難しい成分があることは次の課題であるがこれは本プロジェクトの期限内で網羅することは到底不可能であろう。
 以上、本プロジェクトが細胞外マトリックスの果たす細胞機能制御について、実証する一つの基盤を創造したことは、今後のヒト生命科学における、疾病予防、治療あるいは組織・器官の再生などの解明に新たなスポットライトをはっきり当てたと高く評価できる。


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