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近藤誘導分化プロジェクト事後評価報告書
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総括責任者 近藤 寿人 大阪大学大学院生命機能研究科 教授
研究体制: 分化シグナルグループ 研究員 高田 慎治 他2名
分化変異グループ 研究員 清木 誠 他3名
分化遷移グループ 研究員 水野 伸彦  
評価委員 浅島 誠 東京大学大学院総合文化研究科 教授
黒岩 厚 名古屋大学大学院理学研究科 教授
長濱 嘉孝 岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所 教授
Paola Bovolenta Instituto Cajal, Consejo Superior de Investigaciones Cientificas

 

はじめに
 本プロジェクトは、脊椎動物の発生において高度な組織形成を支える細胞分化の基盤となる新しい原理を抽出することに主眼を置き、新たな実験系の開発とそれを用いた本課題の展開を目指して開始された。将来性が高く新規性に富む萌芽的アイディアについての緊急的・集中的実現化というERATOプロジェクトの趣旨に沿い、脊椎動物で本格的なフォワードジェネティックスによる分化機構解明が可能である有力な系と目され、さらに本邦でこれまで基盤整備が進められてきた小型淡水魚類であるメダカを用いた解析を軸とした研究体制が組織化された。
 本プロジェクトは、清木-古谷誠博士に率いられた、メダカをモデル動物として用い細胞分化機構の調節に関わる遺伝子の突然変異を系統的に分離し、未知の機構の探索を行う「分化変異体グループ」の活動を中心に据えている。高田慎治博士は「分化シグナルグループ」を組織し、細胞分化における組織間相互作用を担うシグナル伝達因子の重要なメンバーのひとつであるWntに注目し、独自の研究を遂行すると共に、「分化変異体グループ」のシグナル分子システムの研究をサポートした。また近藤寿人氏自身はプロジェクト全体を統括すると共に、「分化遷移グループ」での分化調節システム及びその可塑性の解析活動を通じて、「分化変異体グループ」の理念的指導を行ってきた。

1. 研究の内容
 本プロジェクトを構成する3研究グループのうち、「分化シグナルグループ」と「分化遷移グループ」の課題については、高田慎治博士(Wnt分子種)と近藤寿人博士(水晶体分化)が本プロジェクトの発足前までに行ってきた研究成果を基盤として設定されたこともあり、これらの研究グループで得られた5年間の研究成果のレベルは高く、国際的にも非常に高い評価が得られている。
 このうち「分化シグナルグループ」に関しては、Wntタンパク質の分子的成熟機能及びWntシグナルによる中枢神経系のパターニングについて優れた研究成果が得られた。特に、Wnt-1/Wnt-3aの二重突然変異マウスを駆使して発見されたWntシグナルによる脊髄神経の背腹パターニング機構は、神経発生におけるWnt分子群の新規な機能を示すものであり、本研究班の代表的研究成果の一つである。一方、「分化遷移グループ」に関しても、分化シグナル伝達機構に異常が生じたゼブラフィッシュ突然変異体を詳しく解析することにより、下垂体原基から水晶体が分化することを見出した。この発見は、細胞の分化がその細胞が辿ってきた道のり(歴史)には必ずしも束縛されるものではないことを強く示唆するものでありであり、今後における細胞分化の基本的機構の解明に重要な指針を与えるものである。また、トランスジェニックイモリの効率的な作成法を開発し、これは再生機構の分子的解析に強力な技術的基盤を提供したものとして注目されている。
 一方、本研究プロジェクトの設定に際して新たに立案された「分化変異グループ」は、(1)メダカとゼブラフィッシュに突然変異を誘起し、それらの突然変異体から中枢神経系、体節、生殖腺などの分化に異常を示すものを系統的に選抜し、さらに(2)それらの突然変異体について新しい原因遺伝子を突き止めることによって、未知の分化制御過程や新しい原理を抽出することを目的として組織された。このうち(1)に関しては、世界ではじめてのメダカ突然変異体の大規模スクリーニングのためのシステムを確立した。さらに、このシステムを活用することにより受精後に発現・機能する遺伝子の約70%についてスクリーニングが行われた。このスクリーニングによって、これまでゼブラフィッシュでは見つからなかった脳の機能領域の成立、特異化、機能発現に関する突然変異体をメダカから多数(63変異体の系統化)作出し、系統化することに成功した。脳の発生、分化に関わる多くの新規突然変異体を作製することは、本プロジェクトが先ず優先的に目指したことであり、それが予定通りに達成されたわけで、高く評価されてよい。また、生殖腺に異常を示す突然変異体もtotoroをはじめとして多数見つかっている。このような生殖系列に関する突然変異体に関しては、ゼブラフィッシュではまったく解析が進んでいないので、きわめて貴重である。しかし、2)の突然変異体の原因遺伝子を探索することに関しては、今まさにそのための準備が整ったという段階であり、その目的を原因遺伝子自体の探索に絞った研究は今始まったばかりである。突然変異体の原因遺伝子を単離することの緊急性は、中間評価の際にも強く指摘されたことである。それが現在に至っても実現していない主な原因は、この方向に向けての研究体制の整備が当初の予定より遅れたことにあると考えられる。しかし最近、本研究でメダカの脳の突然変異体からWntシグナル系に影響を与えると考えられる原因遺伝子が単離されつつある。この予備的成果は、脳細胞の分化におけるWnt系を介した制御系の共通性を強く示唆するものであり、本研究プロジェクトの発足時に設定された研究目的が、近い将来に達成される可能性を強く予感させるものである。原因遺伝子の探索に関する研究を是非加速していただきたい。

2. 研究成果の状況
 率直にいって、本研究プロジェクトのメインテーマである「分化変異体グループ」で、本研究期間内に発表された原著論文についてのインパクトは、研究費に対して大きいとは言い難い。しかし、突然変異体の系統的作出が主要な研究活動となるような研究では、原因遺伝子の本体を突き止め、調節ネットワークにそれを位置づけて、成果を原著論文として纏め発表することは容易なことではない。この点で、本プロジェクトにおいておこなわれたゼブラフィッシュやメダカで得られた突然変異体の作出及びその解析についての研究成果が、国内外の学会、シンポジウム等で多数発表(口頭、ポスター)され、また総説等に纏められていることは十分に評価されてよいと判断される。また研究の内容でも述べたように、未発表の成果の多くが独創性の高い研究として近日中に論文発表される段階に来ていると評価されている。
 一方、分化シグナルグループによるWntシグナルについての研究成果や分化変異グループによる水晶体についての研究成果は国内外で非常に高い評価を得ており、今後の細胞分化研究に与えるインパクトはきわめて大きいと考えられる。

3. 研究成果の科学技術への貢献
 近年における発生生物学研究の目覚ましい発展を支えてきた要因の一つに、分子生物学的研究手法の確立とともに、種々の発生現象を解析するための新しいモデル生物種を開発することに成功したことが挙げられる。本研究プロジェクトの特徴は、この点を強く意識しながら、その対象生物種として日本を代表するメダカを選択したことである。そして、メダカを対象とした突然変異体の大規模スクリーニングと系統樹立のための効率的システムの構築、解析システム(GFPを発現するトランスジェニックメダカ系統の樹立、3次元イメージング法、抗アセチル化チューブリン抗体による染色法、等)を世界に先がけて確立するとともに、突然変異体原因遺伝子のクローニングのためのメダカ−マウス雑種細胞株のRadiation hybridパネルを構築することができた。これは発生生物学の生物モデルとしてメダカの確立したのみならず、国内外におけるメダカを研究対象とした発生生物学研究を著しく活性化したことに関する貢献は計り知れないものがある。
 本研究プロジェクトの開始にあたって目指した到達目標は、構成される三つの研究班の研究成果をもとに、それらを総合して細胞分化メカニズムについての新しいコンセプト(新しい原理)を抽出することであった。それが達成されるためには、それぞれの研究班の目指した研究が当初目標としたレベルに到達した時にはじめて可能となる。特に、分化変異グループによるメダカやゼブラフィッシュを用いての系統的スクリーニングにより得られた変異体の解析とそれらいくつかの原因遺伝子を突き止めることは目標達成には不可欠であった。即ち、目的とする原因遺伝子が明らかになってはじめて未知の分化制御過程や新しい分化現象を探索することが可能となり、その成果を基盤として新しい原理を抽出することが期待できるのである。しかし、前述したように「分化変異グループ」による原因遺伝子の単離、解析に関するプロジェクトの進行が当初の予定より幾分遅れたことにより、本研究の期間内での目的達成のための不可欠要素が欠如することとなってしまった。
 可溶性Wnt3aタンパク質の調製は、「分化シグナルグループ」によって独自に開発され、本プロジェクトを通じて国内外の研究者へと提供されて、様々な研究をサポートしてきたことはたいへん高く評価される。

4. 波及効果
 現在日本では、メダカを対象とした基礎生物科学(発生/遺伝)プロジェクトが国家レベルでいくつか実施されている。その一つが「メダカのゲノムプロジェクト」であり、その進行はきわめて急速である。本研究で得られた突然変異体の解析、特に原因遺伝子の効率的な探索への挑戦がこれらメダカ研究グループとの連携を通してより効率的に実現できる堅固な基盤が整いつつあるわけである。「特定の実験動物種で網羅的に突然変異体を作製して、生体の機能の発現の機構をシステムとして解明する」アプローチが我が国で初めて実現できるわけであり、日本における発生研究にとってきわめて画期的なことといえる。その一方では、タイミングよく昨年から文部科学省の国家事業「バイオリソースプロジェクト・メダカ」が発足した。近藤プロジェクトリーダーもこのプロジェクトを分担しており、本研究で得られた貴重な突然変異体が効率よく維持、管理され、メダカ研究者のみならず広く国内外の発生生物学コミュニティーに還元されるための基盤が整った。このようにして、豊富な突然変異体種と機能的ゲノム解析の基盤をもった、本格的な実験動物としてのメダカが確立されたわけである。本プロジェクトを企画するにあたっての、近藤プロジェクトリーダーの卓越した先見性が高く評価される。
 本プロジェクト進行中に「分化シグナルグループ」のリーダーである高田慎治博士は、京都大学及び本プロジェクトでの成果が高く評価され、岡崎国立共同利用研究機構統合バイオセンターの教授に抜擢された。また研究員であった越田澄人博士、岸本康之博士はそれぞれ岡崎国立共同利用研究機構、国立遺伝学研究所助手として研究を推進・指導することとなり、若手研究者の育成についても本プロジェクトは充実した成果を上げている。

5. その他の特記事項
 前述したように、本研究の成果は、発生生物学領域における細胞分化の基本的メカニズムに関する学術的貢献、特に「分化シグナルグループ」によるWntの研究、の他にメダカとゼブラフィッシュの貴重な突然変異体の作出と系統化についての多大な貢献が特筆される。しかし、本研究の成果は、これら突然変異体の原因遺伝子のいくつかが単離、同定され、さらにはそれら遺伝子の細胞分化における機能が明らかになった時にさらに格段に高まることは疑いがない。この点、近藤誘導分化プロジェクトがさらに継続されることになったことは実に幸いなことである。この期間には研究課題を厳選し、是非上記のことを実現して下さるように強く希望する。

This page updated on April 27, 2004

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