JST > 戦略的創造研究推進事業 > ERATO
ERATO
Exploratory Research for Advanced Technology 
戦略的創造研究推進事業(総括実施型研究)
創造科学犠実推進事業
TOP お問い合わせ サイトマップ English
HOME ERATOとは 研究プロジェクト 中間・事後評価 募集について
HOME > 評価 > 創造科学技術推進事業における研究プロジェクトの事後評価について > 北野共生プロジェクト事後評価報告書
北野共生プロジェクト事後評価報告書
過去のお知らせはこちら
総括責任者 北野 宏明((株)ソニーコンピュータサイエンス研究所 取締役副所長)
研究体制: システムバイオロジー・グループ 研究員 大浪 修一 他14名
共生系知能グループ 研究員 古田 貴之 他10名
評価委員 小原 雄治 国立遺伝学研究所生物遺伝資源情報総合センター長
中村 春木 大阪大学蛋白質研究所 教授
原島 文雄 東京電機大学 教授
中村 仁彦 東京大学大学院情報理工学系研究科 教授
Bernhard Palsson University of California San Diego, USA, Professor

 

1. 研究の内容
 生命現象は、多くの要素の複雑な相互作用のもとに成り立っている。一般にこのような系は、一まとめに「複雑系」として扱われるが、実際には、多くの多様性を持った要素が選択的な相互作用をしている広義の共生系と捉えた方が適切である。この見方においては、生物学とは、このような共生系の理論と具体的形態・動態理解の学問であると考えられる。また、大量の遺伝子発現データなど、システムとして生物を理解するのに必要な情報の入手が可能となりつつある。これらの情報を、共生系というコンセプトに基づき、生物をシステムとして理解するというシステム・バイオロジーの確立を目指し、共生系としての細胞、個体発生、認知機能の研究を行うことが期待されている。
 本研究は、生命現象を広義の共生系としてとらえ、非常に複雑な系の理解に関するシステム的アプローチを開拓していくことを目的としている。すなわち、「多数の要素からなる複数のpathwayが相互に関わりあいながら、究極的に高度な機能を発現する」であろう、という仮説を、バイオロジーとロボットの2つの研究を進めて検証し、さらにシステム・バイオロジーという分野の立ち上げをねらいとしたものである。生命現象の理解において、工学の分野で確立しているシステム的アプローチを導入すること、および、ロボットというきわめて工学的な分野に生命現象の考え方を導入するという両面からの研究が融合されれば、新しい科学技術の展開が期待される。
 上記の研究目的を達成する組織として、(1)システムバイオロジー・グループ、(2)共生系知能グループ の2班が編成された。
 システムバイオロジー・グループは、「生命をシステムとして理解する」というシステム・バイオロジーの方法論の確立を目指した。すなわち、細胞・発生に関連する研究として酵母の細胞周期の動的挙動モデル、GTP結合蛋白カスケードの挙動の精密測定とモデル化、線虫の発生過程の包括的かつ精密測定法の開発と発生過程に関わる遺伝子ネットワークの解明、実験データからの遺伝子ネットワーク推定理論、基盤ソフトウエア標準化などの研究を行った。これらの研究で、理論研究は、主として原宿に設置されたERATO-1スーパーコンピュータを用いて、実験は主としてカリフォルニア工科大学内に設置されたERATO/CALTECHシステム・バイオロジー・センターにおいて行われた。
 共生系知能グループは、高度知能の研究として、ヒューマノイド・ロボットの開発を通した認知・運動制御のシステム的理解を目指した。特に、従来あまり重要視されなかったロボットの聴覚、さらに聴覚と視覚・運動との結合処理は、特長的である。さらに、新しい運動生成、運動制御方法による極めて高い可動範囲を持った小型ヒューマノイド・ロボットmorph(モルフ)を開発した。この小型ヒューマノイド・ロボットでは、実際の生活における様々な環境に対応しうる高度な運動能力を実現している。
 以上を要約すると、本研究の目指す内容は、生命現象を広義の共生系としてとらえ、非常に複雑な系の理解に関するシステム的アプローチを開拓していくというきわめて野心的なものであり、その広がりと展望は従来の生物学研究の殻を破る画期的なものである。これは多くの新手法の導出や共生系としてのロボットの開発を含んでいる。特筆すべきことは、本来総合的に機能する生物を総合的に捉えるという、困難ではあるがきわめて大切な視点で挑み、成果を挙げたことである。

2. 研究成果の状況
 本研究プロジェクトのうち、(1)システムバイオロジー・グループに関しては、発足直後より着実に成果をあげ、システム・バイオロジーという新しい学問分野の普及に果たした役割は大きい。(2)共生系知能グループに関しては、初期の目的である高度知能の研究として、ヒューマノイド・ロボットの開発においても一応の成果はだしてはいるが、むしろ「ロボットデザイン」に関する成果が特長的である。
 これらの成果は、publications 300件以上(内、journal papers 34件)にまとめられており、さらに、patent applicationは、51件におよんでいる。また、media coverageは、総計430件あり、本研究の社会的影響はきわめて大きい。本研究のもうひとつの特徴は、spin-off の数の多さである。すなわち、会社2件、研究所3件が本研究の結果として設立され、さらにJSTの研究プロジェクトが1件発足している。
 以下に、主な成果の概略を研究グループ別テーマ別に記す。

1) システムバイオロジー・グループ
1-1. "システム・バイオロジー"の確立
「生命をシステムとして理解する」というシステム・バイオロジーの概念と方法論の確立をおこなった。その結果、本分野に関する一連の国際会議が開かれ、NatureおよびScienceにおいて特集号が組まれた。また、本分野に関する学術誌と学会の創設が進行中である。
1-2. 生物システムにおけるロバストネス理論
ロバストネスは、生物学システムの重要な特性と長く認識されてきた。本研究は、制御理論で用いられているロバスト理論を導入して、生物システムのロバストネスを解明しようとしたものであり、きわめて野心的であるが、まだ、研究の入り口にある。今後の発展が望まれる。
1-3. 生物システム研究のためのソフトウェア・インフラストラクチャー
システム生物学の記述言語であるSBMLと、それを利用するためのツールSBWを開発した。SBML開発は、CORBAでのファイアウォール障壁問題を回避でき、現在の主流の標準記述言語となっているXMLを採用したことによって、SBMLの国際標準化に大きく貢献した。SBMLのような標準言語を開発しても、それを利用するツールソフトがなければ誰も利用者がなく終わってしまう。そのためにコンソーシアムを作り、自らもシステム・シミュレーション用のルールとしてSBW開発を行い、KEGGのデータベースを変換して利用できる枠組みを作ったことは、高く評価できる。
2) 共生知能グループ
2-1. ロボット聴覚の開発
従来ロボット工学で十分開発が行われていなかったロボット聴覚に関する基礎的研究をおこない、実用化にむけて進んでいる。
2-2. PINOの開発
低価格のヒューマノイド "PINO"を開発した。ヒューマノイドは、従来極めて高価であったが、これにより一般社会への普及が期待される。PINOの今後の改良と販売のため、Spin-off会社が設立された。
2-3. Morphの開発
"Morph"とよばれる小型のヒューマノイドを開発した。ここでは、20以上の会社が参加し、産業技術と基礎技術を融合し、ロボット工学の鍵となる一連の技術の創出に貢献した。
2-4. ロボットデザイン
"ロボットデザイン"という概念は、従来明確に意識されていなかった。本研究では、美的デザインと機能的デザインが組み合わせ、ロボットとくにヒューマノイドのデザインに新しいパラダイムを確立した。この関連で、Spin-off 会社が設立された。

3. 研究成果の科学技術への貢献
 生物学は従来、実験により事実を発見しそれを積み上げて全体の理解にいたる方法が主流であった。しかし、生物は、情報処理を伴うきわめて複雑で精緻なシステムであることを考えると、生物の研究における理論的な方法とくにシステム科学からのアプローチが不可欠であることがわかる。本研究は、「生命をシステムとして理解する」という"システム・バイオロジー"を提唱し、その方法論の確立を目指し、多くの成果を挙げた。すなわち、本研究は総括責任者の優れた発想、構想力、指導力を十分に発揮して、生物学の研究に一つの新しい流れを創り出したものである。
 本研究は、広い範囲にわたる研究テーマで世界の最先端を行く優れた成果を挙げたが、重要なことはそれが個別の研究として優れているだけではなくて互いに関連しており、すべてが一つの思想の基に統合されていることである.その成果は、次の三点に要約できよう。
1) システム・バイオロジーという生物学の新しいパラダイムを提唱した。
2) システム・バイオロジーにおける研究の方向と手法を提示した、それに基づきいくつかの最新の知見を示した。
3) ロボットを共生系として位置づけ、新しい運動生成、運動制御方法による極めて高い可動範囲を持った小型ヒューマノイド・ロボットを開発し、さらに、ロボットデザインという新しい概念を確立した。

4. 波及効果
 北野というきわめて創造性に優れた研究者が、ERATOという制度に出会うと、きわめてインパクトの大きい新しい学問分野が創出されるということは、今後の日本の科学技術の発展のひとつのモデルとなるであろう。
 バイオロジーは、現在世界的にもっとも重要な学問分野である。本研究は新しいバイオロジーのあり方を示し、脳科学の重要性と社会に対するその理解へ大きく貢献するものである.本研究にかかわるこれまでの数々の報道は、人々の理解を大きく促進した。さらに、バイオロジーの分野にシステム科学という工学的手法を導入し、新しい方向を示したことにより、基礎科学と工学の融合を促進したことも特記すべきである。
 日本発の新しい科学技術が、今後さらに生まれてくることが期待される。

5. 結語
 システム・バイオロジーという新しいパラダイムを提唱し、それを確立したことは、北野の才能と指導力の結果であり、ERATO Programとして輝かしい成功である。いっぽう、そのバイオロジーにおける科学的成果は、圧倒的とはいいがたい。これは、5年という研究期間が、バイオロジーの研究においては決して長いものではないことと、北野のバイオロジーに関するバックグラウンドが必ずしも十分でないことに起因するものであろう。
 共生系知能としてのロボットに関する研究については、初期の研究目的はかならずしも達成されていないが、ロボット工学が成熟期に入った現在、新しいヒューマノイドの開発とロボットデザインの概念を提唱し、実証したことは、ロボット社会の到来が近い現在、きわめてタイムリーな成果といえる。
 本プログラムにおいては、バイオロジー、ロボットの双方において、研究の過程において、外部の専門家による適切なアドバイスにより、もっとクリアーな研究方針が議論されるべきであったと考えられる。とくに、中間評価においてもっと議論されるべきであった。
 研究には、試行錯誤はつきものである。本研究についても例外ではなく、これが北野による研究成果の価値を下げるものではない。北野によって提唱されたシステム・バイオロジーは、きわめてインパクトの大きい新しい分野であり、この分野の研究をさらに続けることは、日本の科学技術の使命であると信じる。

This page updated on April 27, 2004

Copyright©2004 Japan Science and Technology Agency.

www-admin@tokyo.jst.go.jp

前へ戻る

 
独立行政法人
科学技術振興機構 過去のお知らせはこちら ERATO
Exploratory Research for Advanced Technology 
戦略的創造研究推進事業(総括実施型研究)
創造科学技術推進事業 ERATO