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横山液晶微界面プロジェクト中間評価報告書
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総括責任者 横山 浩(産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門長)
研究体制: 理論・シミュレーショングループ 研究員 米谷 慎 他3名
微界面物性研究グループ 研究員 山本 潤 他6名
メゾスコピック液晶研究グループ 研究員 大江昌人 他3名
評価委員 内田龍男  東北大学大学院工学研究科 教授
高津晴義  (株)大日本インキ化学工業 技術本部長
竹添秀男  東京工業大学大学院理工学研究科 教授

 

1. 研究の進捗状況と今後の見込み
1.1. 研究構想と具体的状況
 液晶は流動性と異方性を持つ液体と結晶の中間状態である。流動性がありながらその秩序は長距離に及ぶ。このため最も簡単な棒状分子から形成されるネマチック相では界面で配向方向を指定してやれば平均的な分子配列(ダイレクタ−)の一様性は数百ミクロンからミリメートルにも及ぶ。しかし、さまざまな分子間相互作用の存在下で一様ではない多彩な構造が出現することは良く知られている。もっとも良く知られた例がキラリティーの導入によるらせん構造の出現である。分子が1次元らせん構造を形成するコレステリック相やティルティッドキラルスメクチック相ばかりではなく、層が1次元らせんを形成するTGB相も存在する。これらはせいぜい数百ナノメートルの周期性を持つことが多いが、数ナノから数十ナノメートル周期の1次元周期構造を持つ反強誘電相、フェリ誘電相、数百の分子集団をユニットセルに含む数十ナノメートルの3次元周期構造であるキュービック相、ブルー相も存在する。
 これらの構造体はそれら自身の出現起源が現在でも研究対象になっているばかりではなく、液晶中に新たなナノメートルサイズの構造体を導入することができる可能性を示唆している。このような観点から、プロジェクトでは界面による微細分子配列制御、人工的な微細構造体の導入により新しい構造体の形成を試みることを目的としている。構造決定には容器の界面ばかりではなく、導入された微細構造物界面(微界面)と液晶との相互作用も重要な役割を演じるので「液晶微界面構造」と呼ぶにふさわしい。またこのとき、構造は液晶自身の持つ強い自己組織性に立脚するため、ホスト液晶分子間に新しい相互作用を導入することも積極的に行っている。このように、これまで液晶の世界では界面によって一様な配向を作り出し、物性測定、応用展開を行ってきているが、本プロジェクトでは液晶の世界にナノメートルオーダーの構造を意識的に導入することによって、液晶性の解明への新しい視点の導入、新規液晶相の創製、機能発現、応用展開を図るもので、魅力ある計画と言える。難を言えば、主たる研究課題、目的にやや具体性を欠き、研究内容が総花的で発散している印象を与えることは否めない。今後、各アプローチを有機的にまとめ、大きな成果につなげるためには、総括責任者のリーダーシップが重要である。
 上述の計画を実現するために、(1)理論・シミュレーショングループ、(2)微界面物性研究グループ、(3)メゾスコピック液晶研究グループの3つのグループを形成している。(1)は(2)や(3)と良く連携が取れており、非常に成功していると言える。大まかには(2)は物性、(3)は応用という分け方になっている。(2)では物理、合成化学の両分野の研究者がひとつのグループに属し、綿密な議論のもとに効率的に研究を進めている。後述するように、少なくとも個々の研究成果では非常に興味深い多くの成果が得られている。(3)は現在のところAFMによるナノラビングを用いた新しい液晶デバイスの作製に特化している。しかし、その他、いくつかのナノ構造制御技術の予備実験もスタートしており、今後の応用展開を予感させるものもある。
 研究評価とは離れるが、グループ名についての印象を述べておきたい。(1)は具体的な命名になっているにもかかわらず、(2)と(3)は分かりにくい命名になっている。(2)は界面を研究すると言う印象を与えすぎ、単一分子の形成するナノ構造液晶相(カイラルツイン液晶、BLT液晶、バナナ型液晶など)の基礎物性的な研究とはそぐわない。また、工学的な視点からナノ構造液晶を研究するグループを(3)メゾスコピック液晶研究グループと命名するのも分かりにくい。「メゾスコピック(領域)」は「ナノメートル(領域)」と同義で用いられているようであるが、この言葉の中には応用、工学の視点はない。実際、中間報告資料にも「メゾスコピック液晶科学」という表現がある。例えば、「メゾスコピック液晶応用グループ」ならナノ構造液晶の応用研究グループであることがもっと分かりやすかったと思う。

1.2. 未踏の課題への挑戦状況
 これまでの液晶研究では物性測定、応用開発いずれの場合にも一様な界面処理によって作られた配向試料を用いることが基本であった。本プロジェクト中のグループ(3)のナノラビング技術はこの意味からは未踏の課題であった。すなわち、異なった配向を規定する2つのナノスケールの界面から作り出されるネマチック液晶の配向状態はフラストレートし、双安定性を示す。この技術を用いれば、メモリー型のネマチックLCDが可能となり、PDA(Personal Digital Assistant)や電子新聞などへの応用が期待できる、きわめて意義深い技術である。また、グループ(1)の計算機シミュレーションでは、キュービック相などの高次構造を持った液晶相発現に分子の個性がどのように関わっているかを捕らえており、今後、シミュレーションから分子設計指針を与える可能性を示唆している。グループ(2)でも多くのテーマで興味深い結果が得られている。液晶マイクロエマルジョンでは生体を意識した新しい機能の発現が期待できる。また、多成分系での新規相発現には未踏分野の開拓の加速を予感させる。

1.3. 研究者の参集状況
 液晶研究に必要な物理、合成化学、計算機科学、光工学などのすべての分野からほぼ理想的な研究者をバランスよく参集させている。さらに拠点が分散型ではなく、完全に一箇所に集結し、常に密度の濃い議論ができると言う理想的な環境を実現している。このような環境下でメンバーのすべてが独立した研究者であるばかりではなく、研究遂行のために必要なすべての分野の研究者が集結していると言う点でも評価できる。事務的なサポート体勢も良く整備され、研究者が研究に専念できる環境が整っている。また、各種測定に対する研究支援体制もある程度整っているように感じられた。しかし、次節で述べるように設備の豊富さの一方で、それらを使い切るためのマンパワーの不足がやや心配である。装置が高度なものになればなるほどそれらを十分に使い切るための人材の補てんがさらに必要となろう。

1.4. 施設・設備の整備状況
 液晶研究のための基本的な測定装置は言うに及ばず、各種特殊装置も数多く稼動している。たとえば層圧縮弾性率測定装置の市販品は存在しない。また、ナノ構造由来の現象を研究するための測定装置も完備している。動的光散乱装置はホモダイン、ヘテロダインいずれも有しており、動的な揺らぎの測定に威力を発揮している。表面の解析には和周波発生法SFGが測定可能になっている。光配向膜や各種ポリマーの表面構造の解析は産業界に与えるインパクトも大きい。
 構造解析には2次元リアルタイムX線回折装置を整備中である。また、実空間での構造解析に各種顕微鏡を保有している。特に数百ナノメートルオーダーの構造解析にはレーザー共焦点顕微鏡、それ以下の構造の解析には電子顕微鏡が威力を発揮するであろう。生物試料用のクライオ顕微鏡を用いて液晶試料のフリーズフラクチャ−の観察ができるようにする計画とのことである。実現すれば重要な武器となろう。合成部門ではカラムクロマトグラフィーのフラクションコレクターや反応温度コントローラーが整備されると省力が期待できる。

1.5. 今後の見込み
 このようにプロジェクトの中間としては多くの成果が得られていると思う。特に(1)、(2)グループでは液晶の科学として多くの興味ある結果が得られている。今後、多岐に渡る研究の成果が、何らかの形で相互に関連づけられ、体系化が進めばより大きな成果として本分野の発展に大きく貢献するものと期待される。あえて、苦言を呈するなら、(2)グループでは個々の研究者の個性が強い余り、プロジェクト全体のまとまりと言う意味でやや発散しているきらいがある。これを液晶微界面というキーワードのもとにどのようにまとめてゆくかに総括責任者のリーダーシップが問われる。

2. 研究成果の現状と今後の見込み
2.1. 理論・シミュレーショングループ
 微界面物性研究グループで進められている実験結果に関連する問題をシミュレーションで取り扱い、非常に良く機能しているグループであると言える。特に重点的に行っている(1)微粒子分散液晶系におけるナノ構造発現機構、(2)2次元液晶系のダイナミクス、(3)ナノ構造液晶相の発現機構と分子個性では成果がすでに多数の論文として公表されている。いずれも、これまでにシミュレーションが行われてきた一様配向したバルク液晶ではなく、より複雑な系にシミュレーション手法を応用したもので方法論としても多くの成果がある。これらの結果は外場による構造制御や分子設計の観点から、他の二つのグループに資するところも大きい。今後も実験との比較を大切にしながら研究を進めれば、この分野での草分けとなる多くの成果が期待できるであろう。

2.2. 微界面物性研究グループ
 液晶中の構造欠陥や人工ナノ構造による高次構造を持つナノ構造化液晶を実現し、その物性を広帯域なスペクトロスコピー手法を用いて研究することを主たる目的としている。ミクロスコピック、メゾスコピックスケールの「非整合性」を導入することによって、以下に述べるように、さまざまなナノ構造の実現に成功している。

 2.2.1.  ミクロスコピックな非整合性の代表例がフッ素置換鎖の導入によるミクロ相分離とそれに基づく自己組織化である。合成経路は一般的であるが、分子設計はオリジナリティに富んでいる。同じような設計指針で光重合性モノマーを合成し、ミクロ分離構造形成能に由来した特殊な状態で重合し、その高分子の性能特異性を追求すると極めて興味深い。その他にも色々な展開が期待できる。

 2.2.2.  メゾスコピックスケールの「非整合性」によるナノ構造形成のもうひとつの例が分子両末端にキラル部位を持つ液晶である。層間の情報伝達の制御などがナノ構造の構築をもたらしている。このような構造により、フェリ誘電性相やTGB相の発現をもたらしているが、今後は、これらの知見を基に、意図的な設計によりツイン液晶でなくては不可能な、特異的な分子集合状態の創成や新しい応用への展開が期待される。

 2.2.3.  メゾスコピックな非整合性としてはサーモトロピック液晶、界面活性剤、水の作る液晶マイクロエマルジョンの進展が興味深い。この系はプロジェクト以前にグループリーダーによって取り組まれてきた系ではあるが、合成グループの協力による水−液晶界面を直接活性化する界面活性剤分子の合成や、光散乱による詳細な動的揺らぎの測定によって構造の詳細が明らかになりつつある。

 2.2.4.  フォトニック液晶と分類される各種多成分系液晶系でも液晶の基礎科学の観点から多くの見るべき成果が得られている。しかし、これらの系がフォトニック材料や非線形光学材料として実用化される見通しは非常に厳しいであろうと言わざるを得ない。

 微界面物性研究を推進するために、このグループでは時間的、空間的に広いスケールでのスペクトロスコピー手法を整備してきている。これだけの物性スタッフでしかも短時間でここまで装置を整備してきたことに対しては敬意を表したい。今後は通り一遍の使用ではなく、装置の特徴を十分に活用した幅広い測定を期待したい。特に現在調整中という2DリアルタイムX線回折装置、クライオ顕微鏡、顕微CD分光装置によるデータ収拾に期待したい。

2.3. メゾスコピック液晶研究グループ
 メゾスコピック液晶研究グループは応用を意識したテーマに取り組んでいる。設定も明確で、実績も出始めており、特に次のような研究に今後の発展が期待される。ただ、デバイスへの応用を目指すのであれば、実用性、信頼性等も含めた議論まで発展すべきであることは、すべての応用研究に共通して言えることである。

 2.3.1.  AFMのプローブで高分子表面を精密にラビングし、それによる液晶の配向効果を解析しようと試みている。ラビング密度や強度を定量的に制御可能であること、表面形状をAFM直接確認できるなどの特長がある。ただし、安定性やプレティルト角が通常のラビングとは異なる事実を確認し、ラビング条件が異なっているためと予測したところで留まっている。両者のギャップを明確に埋めることが、応用上極めて重要と考えられるので、それを含めて詳細なメカニズムの解明が期待される。

 2.3.2.  AFMを用いたナノラビングによるネマチック相安定性、3安定性デバイスは液晶をナノスケールで制御することの意義を示した点でこの分野に大きなインパクトを与えた研究である。現象を理解するためのフィジィックスも非常に明快で光学スイッチング素子デバイスとしての筋のよさを感じる。新しい原理のデバイスとして高い関心が寄せられるが、実用の観点からミクロな市松模様をいかにして容易に、再現性と信頼性高く実現できるか否かが重要な鍵となろう。すでに計画中とのことであるが、光配向法の有効性に期待したい。また、2安定性の液晶デバイスとしては既に他にもいくつかの方式が提案されているが、それらに対する優位性を具体的なデータとして示す必要があろう。

 2.3.3.  ネマチック液晶中におけるグリセロールドロプレットの自発的格子構造に対して、アゾベンゼンの誘導体を添加して、その光異性化反応を応用した光応答や光組織化を誘起させる研究が興味深い。紫外光照射部分にドロプレットが集合し、可視光照射によって照射領域外に拡散する。まだ、新たな現象を見出した段階で、これからの研究の発展が期待されるところであるが、現象の興味もさることながら光デバイス等への新しい応用展開の可能性に関心が持たれる。

 2.3.4.  マイクロドロプレット格子ではいかにして大きくて完全な周期構造を作ることができるかがデバイス化への鍵であろう。光リソグラフィによるナノ構造化液晶ではDMDを顕微鏡に組み込んだ任意パターン発生装置を作製し、ナノ構造パターン界面による配向制御を試みている。今後の展開が楽しみである。

 2.3.5.  強誘電性液晶や反強誘電性液晶の均一な配向を実現する手段として、あらかじめ基板表面に相転移温度のやや高いスメクティックA液晶を塗布しておく方法が有効であることを見出している。配向制御手法として興味深い方法であるが、応用上はバルクの液晶に拡散していくことを如何にして防止するかが最大の課題となろう。高分子化して拡散を防ぐ方法等が考えられているが、強誘電性液晶あるいは反強誘電性液晶との適度な混合界面が必要であることから、この課題が解決されることが重要である。

3. 結語および特記事項
 以上述べてきたように多くの研究展開が図られており、興味深い成果が得られ、中間地点としては十分に評価できる。理想的な人材を単一拠点に集め、「液晶微界面」と言うキーワードのもとに、集中的に研究できる環境を有効に利用した成果であろう。この意味で、個々の研究者が独立して行う研究の単なるよせ集めではなく、1+1=2以上の成果に結びついていると思う。設備のセットアップや中間体の合成などが進捗しており、今後の研究のスピーアップと飛躍が期待される。総括責任者のリーダーシップをベースに、各グループ間の連携と各テーマの方向性の調整を強化すれば、学会や業界に大きなインパクトを与え、将来の産業の創出につながるような成果が期待できる。
 最後に、このようなプロジェクト全体に共通した問題点を指摘しておきたい。集結する研究者が優秀であればあるだけ、個々の研究者の個性が前面に出るため、プロジェクトの研究にやや統一性を欠くことになることは否めない。しかし、プロジェクト後、次の職場を探す必要のある個々の研究者にとって自分の個性を発揮した研究成果を残すことは死活問題でもあり、本来、プロジェクト全体とのバランスは難しいかもしれない。しかし、当初のプロジェクトの枠からはみ出した所に画期的な研究が現われる可能性もあり、それくらいの自由度は残しておくべきかもしれない。

This page updated on August 1, 2003
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