JST > 戦略的創造研究推進事業 > ERATO
ERATO
Exploratory Research for Advanced Technology 
戦略的創造研究推進事業(総括実施型研究)
創造科学犠実推進事業
TOP お問い合わせ サイトマップ English
HOME ERATOとは 研究プロジェクト 中間・事後評価 募集について
HOME > 評価 > 創造科学技術推進事業における研究プロジェクトの中間評価について > 難波プロトニックナノマシンプロジェクト事後評価報告書
難波プロトニックナノマシンプロジェクト事後評価報告書
過去のお知らせはこちら
総括責任者 難波啓一 (大阪大学大学院生命機能研究科 教授)
研究体制: 分子構築グループ 研究員 今田勝巳 他4名
形態変換グループ 研究員 米倉功治 他4名
分子動態グループ 研究員 大澤研二 他5名
評価委員 郷 信広  日本原子力研究所 特別研究員
曽我部正博  名古屋大学大学院医学研究科 教授
月原冨武  大阪大学蛋白質研究所 教授
Ronald Caspar  Florida State University 教授

 

1. 研究の内容
 バクテリアのべん毛はプロトン流により直径30 nmほどのモーターが高速回転し、それによってらせん状のスクリューが約300 Hzの速度で回転し推進力を発生する。固定子に対して回る回転子、反転制御装置、軸受け、自在継ぎ手、スクリュー等、見かけは人工の巨視的サイズの機械と似た形をしている。しかし、このモーターはナノスケールであり、人工機械とは極めて異なる特徴を持つ。バクテリアの運動器官であるこの分子機械の構造を解明し、その構造形成、動作原理を明らかにすることを目指して実施された。モーターを構成する各サブユニットの結晶構造解析は分子構築グループ、電子顕微鏡による超分子複合体の構造とその変化は形態変換グループ、サブユニットの精製、改変と鞭毛回転速度やトルクの測定など鞭毛運動を解析する分子動態グループが実施した。
 研究のターゲットをバクテリアの鞭毛モーターに集中し、X線や電子線を用いた構造解析法や光学顕微鏡法による一分子計測、サブピコアンペアのプロトン流を計測する技術等を駆使して、鞭毛モーターの構造-機能連関の理解に迫った。全体的には、特に分子構築グループと形態変換グループによる構造解析の成果に目を見張るものがあり、その結果や手法は近年この分野で行われてきた研究の中ではもっとも質の高い画期的なものである。これらをサブユニットの精製、改変で支えた分子動態グループの貢献も大きかったが、機能再構成に関わる人員にやや不足の感は否めなく、戦略的にも工夫の余地があったと感じられた。

1.1. 構造研究
 実験室系でのX線発生装置をはじめ回折実験法の改良を行い、バクテリアべん毛を構成する20数種類の蛋白質すべての大量生産・精製系を確立し、サブユニットのX線結晶構造解析を進めた。その結果、フラジェリンFliC 41Kフラグメント、フック蛋白質FLgE 32K、フックーフィラメント連結蛋白質HAP3 26KのX線結晶構造解析に成功した。これらの構造をもとに再構成シミュレーションによって鞭毛の構造の全容に着実に迫っている。研究の最終目標までには多くのサブユニットや複合体の構造解析が残っている。それに向けて研究が精力的に行われ少なくない蛋白質について成果を挙げつつあり、今後の発展が大いに期待できる。
 繊維回折実験法、結晶化法、解析法の開発を行って、鞭毛フィラメントの繊維X線回折による構造解析にも成功した。フラジェリンFliC 41Kフラグメントの結晶構造解析をあわせて、鞭毛スクリューの反転に対応するらせん構造の転移をもたらす分子内スイッチの同定にも成功し、鞭毛がナノマシンとして働く実体を見事に明らかにした。

1.2. 超分子複合体構造形成過程の研究
 形態変換グループは超分子構造の精密な構造解析という挑戦的課題を担ってきた。そのために、クライオ電子顕微鏡やエネルギーフィルターを装着した電子顕微鏡の導入、画像解析アルゴリズムの開発を精力的に進めるとともに、分子動力学的推定を組み合わせて、超分子構造に関する信頼度の高い結果を出してきた。特に鞭毛の多形構造や鞭毛形成部におけるキャップ構造の解析の結果は大変立派である。この成果は、各サブユニットがいかにして超分子構造を形成するか、あるいは形成された超分子がいかに多形変換するかの優れたモデルになると思われる。ただし最も興味深い駆動部の構造については、今後の挑戦的課題である。

1.3. 鞭毛モーターの単分子回転計測およびモーターを駆動するプロトン電流の計測
 プロトン流と回転のカップリングは、鞭毛モーターの仕組みを理解する上で最も重要で挑戦的課題である。手法としては人工膜に鞭毛モーターを埋め込んで、プロトン流と回転を同時計測しようという試みである。鞭毛の回転計測技術に関しては一定の成果を収めたと評価できる。しかしプロトン流の計測については、残念ながら所定の結果は出なかったようである。今回の貴重な経験を糧にして、この最も挑戦的で困難な課題を前進させる研究戦略が練られることを期待したい。

1.4. 発現、精製システムの構築
 構成サブユニットの大量発現系の構築と精製法の確立したことが、こうした研究の成功をもたらした。材料提供という地道な役割ではあるが高く評価したい。

2. 研究成果の状況
 Nature, Science誌をはじめとした一流国際雑誌にインパクトのある論文を発表しており、申し分ない。とりわけ2001年のNature 誌に掲載された"Structure of the bacterial flagellar protofilament and implications for a switch for supercoiling," は1978年のSteve Harrisonらによる球状ウイルス、Aaron Klugらによる棒状ウイルスの構造決定に匹敵する構造生物学における記念碑的成果である。全く新しい技術を開発したわけではないが、超分子構造解析において、クライオ電顕、エネルギーフィルター電顕、分子動力学を組み合わせた総合技術は、これからの超分子構造解析のお手本となるべき優れたものである。

3. 研究成果の科学技術への貢献
 重要な機能を担う超分子構造体の構造の解明はそれ自身が、重要な科学的成果である。しかし、このプロジェクトの成果の偉大さは、解明された構造情報がそれにとどまらず、超分子構造体の構造形成、機能発現に関する一般性を持つと期待されるモデルあるいは概念を導き出している点である。典型例としては、モーター反転に伴う鞭毛の形態変化をもたらす分子内スイッチ概念の提唱、鞭毛の構造形成過程のモデル提唱、等が挙げられる。
 このプロジェクトの研究成果は、今のところ直接ナノテクノロジーの新しい技術を生み出しているわけではない。しかし、新しい技術を生み出す元になる基本的な概念を明らかにしつつある。
 このプロジェクト程度のサイズの研究者集団による研究においては、最大限に成果を挙げるためには、研究の目標を絞ることが必要である。このプロジェクトは、その成果を技術に結び付けることを目指す研究に直接には取り組んでいないが、それは懸命な選択で、その賢明な選択の結果、構造解析とそれに伴う重要な基礎概念の解明に大きな成果を上げることが出来た。

4. 波及効果
 何よりも世界的なレベルの研究を達成し、国内外のこの分野の活性・レベルの向上に多大な寄与をしている。それを成し遂げる過程で、多くの若い研究者がチームプレーの中で自らの役割と責任を果たすという貴重な経験をつみ、人材育成の点からも評価すべき成果を挙げた。ERATOの場でそれがなされた結果、若い有能な人材の流動化が促進されたことへの寄与も特筆しなければならない。

5. その他の特記事項
5.1. このプロジェクトは、主観的な誇張ではなく、世界の専門家が評価する一流の成果を着実に積み上げている。そのことを第一に指摘、評価したい。
5.2. 着実な成果を積み上げられたのには、一つは研究の目的が明確に絞られていたことが寄与しているのではないかと思う。
5.3. 5年間と言う研究期間は決して長くない。このプロジェクトが5年間で目覚しい成果を挙げたのには、構成員中の主要なメンバーが、それ以前の松下国際研以来の研究グループで、実質そこでの研究を引き継いだことが大きいと思われる。ERATOの在り方に大きな示唆を与えているように思う。だからと言って、5年の年限を延ばすことを提案しているのではない。5年やってもだめなものはだめだから、5年で切るのは適当と思う。5年でよい芽の出ているものについては、評価に基づいて引き続き何らかの方法でサポートするのが良いと思う。
5.4. このプロジェクトは5年間で目覚しい成果を挙げたが、当初目標に考えていたプロトン流が如何に駆動力を作りだすかに関する研究には、時間が足りなくて届かなかった。これは、しかし、このプロジェクトの成果の評価を下げるものではない。このプロジェクトの研究して来た先にまだ解明すべき本命の問題が残っている。是非後10年は今までの勢いで研究を続けていただきたい。今までの勢いで後10年続ければ、本命に届くのではないか。

This page updated on August 1, 2003
Copyrightc 2003 Japan Science and Technology Corporation.
www-admin@tokyo.jst.go.jp

前へ戻る

 
独立行政法人
科学技術振興機構 過去のお知らせはこちら ERATO
Exploratory Research for Advanced Technology 
戦略的創造研究推進事業(総括実施型研究)
創造科学技術推進事業 ERATO