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五神協同励起プロジェクト事後評価報告書
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総括責任者 五神 真 (東京大学大学院工学系研究科 教授)
研究体制: 協同励起基礎グループ 研究員 香取秀俊 他2名
協同励起応用グループ 研究員 大川和宏 他6名
理論設計グループ 研究員 Nasser, P. 他4名
評価委員 井筒雅之  通信総合研究所 上席研究員
小林功郎  東京工業大学精密工学研究所 教授
覧具博義  東京農工大学工学部 教授
矢島達夫  東京大学 名誉教授

 

1. 研究の内容
 本プロジェクトは,レーザー技術を駆使して光励起による物質の新しい状態をつくりだし,その生成法と物理的性質を解明して,更にこれに基づいた従来にない高性能・高機能の光デバイス応用を開拓しようとするものである。この新しい状態とは,光と物質との相互作用を通じて生ずる,多数の原子・分子が協同的に相互作用して集団としての多体量子効果を示す状態,すなわち協同励起状態である。レーザーの進歩により,社会的影響の大きい光エレクトロニクス・光通信情報処理の分野は著しく発展したが,現状の材料・デバイスでは光の潜在力を十分に引き出せないある限界が見え始めている。そのブレークスルーをめざすこともこのプロジェクトの一つの大きな動機である。このような協同励起量子状態の解明は,それ自体が基礎物理学的課題としても重要であり,その発展は更に広い応用分野にも有用であると期待される。このプロジェクトは,気体,半導体,酸化物,高分子といった幅広い物質群を協同励起状態という統一的観点に基づいて様々な角度から捉えようとするもので,基礎・応用の両面で新しい可能性を開く挑戦的な試みとして高く評価できる。
 取り上げられた具体的な研究テーマを大別すると,(1)レーザー冷却法による極低温高密度原子気体の生成とその分光学的研究,(2)光励起された極低温高密度電子正孔系の物理現象の研究,(3)強相関電子系材料の分光学・非線形光学と光制御機能の探索,(4)多体量子系の非線形光学応答の理論,(5)実用的な協同励起材料としての高品質GaN半導体の作製,(6)光機能素子のための微小共振器構造の研究,となる。
これらのテーマは相互に強い関連性をもっている。実際の研究は,項目毎にチームリーダーにより主導された幾つかの研究チームによって遂行されたが,この関連性を配慮して行われた。
 この研究プロジェクトで見られる独自性あるいは特徴として次のことがあげられる。
(1) 従来の分野の枠にとらわれず,関連性の深いものを幅広く取り入れた。特に,気体原子系と半導体電子正孔系の量子縮退をめざす研究を相補的に同時遂行したのは世界的にも例がない。これは量子エレクトロニクス分野と光物性分野との融合的な仕事ともいえる。
(2) 各種の新しい分光法の開発,高性能半導体レーザー制御技術の開発,新しい原子冷却法の開発など,新しい手法や技術の開発が多く取り入れられている。
(3) 基礎研究に重点があるが,応用指向あるいは応用の可能性を開く研究も多く含まれている。

2. 研究成果の状況
 このプロジェクトでは,優れた研究者が当初から広く集められて研究の立ち上げが速やかに行われ,中間評価の時点でかなりの成果があげられていた。その後の発展によって更に充実し,全体の研究成果は,英文原著論文44件,国際会議プロシーディング論文7件,国際会議招待講演29件,国際会議一般講演41件,国内会議等招待講演30件,国内会議等一般講演56件として発表されている。研究テーマによって濃淡の差はあるが,5年の期間内の結果としては先ず量的にも十分な成果であるといえよう。
 原著論文の大部分がインパクトファクターの高い一流の国際的学術誌に掲載されていること,国内外での学術集会で非常に多くの招待講演が行われていることなどは,研究の水準の高さを示すものであり,国際的にも高く評価されたものと認められる。そのインパクトの強さは,発表済みの論文に対して,短期間にもかかわらず,この分野としてかなり高い論文引用回数が示されていることにも表れている。更に各種の賞の受賞も研究成果の質の高さを裏付けている。
 プロジェクト期間中に米国と日本でプロジェクト成果に関連したワークショップを開催しているが、その内容は充実している。しかも、関連分野のトップレベルの研究者が多数参加していることも、このプロジェクト成果の影響力の広がりを示している。ここで形成された人的なつながりは、プロジェクトのリーダーにとどまらずメンバー及び関連分野の多くの研究者達にとって重要な資産になるものと思われる。
 特許の出願件数は比較的少ないが,これは基礎研究の比重が高いというこのプロジェクトの性格からやむを得ないかもしれない。しかし,研究成果の内容からいえば特許性のあるものはもっと多いと考えられ,特許対策が不十分であったことが惜しまれる。ERATO事業における特許化支援体制の推進が望まれる。

3. 研究成果の科学技術への貢献
 研究成果は,多岐に渡っているが,テーマ毎に注目すべき成果の要点を取り上げ,その科学技術的効果について評価してみよう。

3.1. ストロンチウムの量子縮退へのレーザー冷却
 このテーマでは,とりわけ大きな成果を創出したと考えられる。全光学式手法で原子の量子縮退を実現するという世界で初めての試みに挑戦し,ボーズ凝縮まであと約一桁という位相空間密度にまで極低温高密度の状態を高速に実現することに成功した。これには,アルカリ土類原子のスピン禁止遷移の利用,光シュタルクシフトフリーな光双極子トラップ法,高効率ローディング法など独自のアイディアに基づく新しい手法が大きな寄与をしている,また,半導体レーザーの高精度周波数制御や固体レーザーの高安定化など,技術開発の重要な役割も見逃せない。冷却の最終段階を阻む光誘起衝突効果を回避する方法も考案され,ボーズ凝縮の実現も間近いと期待される。
 一方,従来の磁気光学トラップ法では不可能とされたストロンチウムのフェルミオン同位体でも独自の方法により反跳限界温度までの冷却を実現し,フェルミ縮退温度の2倍にまで迫った。
 この研究で開発された光双極子トラップを用いた精密分光も進展し,中性原子における一光子遷移サイドバンド冷却を初めて実現し,また原子を波長以下の狭い領域に閉じこめて凍結し,10kHz幅のドップラーフリー分光にも成功した。
 これらのアプローチは当該分野の中で新しい流れを生み出したもので,その発展による実現が予想される精密周波数標準や高強度原子波レーザー等は科学技術に大きな進展をもたらすと期待される。

3.2. 光励起された極低温高密度電子正孔系の物理現象
 半導体等の高密度電子正孔系の問題は永年研究されてきた課題であるが,本プロジェクトでは協同励起という観点から新しい光があてられて大きな進展を見せた。
 先ずGaAs系量子井戸からなる微小共振器中の励起子に対する縮退4光波混合の詳しい実験が行われ,これを弱く相互作用する複合ボソンのモデルによって説明した。また,電子正孔状態を出発点とする微視的理論を展開し,このモデルの妥当性を示す基礎付けを行った。こうして多体効果に基づいた半導体非線形光学応答の基礎が明らかにされた。更に,Cu2Oパラ励起子の直接観測法を開発し,励起子ボーズ凝縮検証への道を開いた。
 CuClでは,フェムト秒光パルス励起によりボーズ縮重度の高い励起子分子波を生成し,その高いコヒーレンス性を実証す干渉実験を行った。その量子光学的応用として,これを用いた高効率パラメトリック効果による非古典光発生の計画もある。
 一方,励起子をモット転移密度以上に光励起して高密度かつ低温の電子正孔液滴を直接遷移型半導体(CuCl)で初めて生成した。そして,これを新しい赤外ポンプ−プローブ法により観測して確認した。また,ダイヤモンドでの高臨界温度の高密度電子正孔液滴の生成やGaNでの電子正孔プラズマの観測もなされた。これらの発展は高性能短波長発光デバイスの実現につながるものである。
 こうして,全体として見ると,現象の解明,新しい状態の生成,新しい応用の展開などが著しく進んだと認められる。これには,理論と実験チームの連携,気体原子系と共有する極低温高密度状態生成の共通概念が大きい役割を果たしたと思われる。

3.3. 強相関電子系の電子状態の分光学と光制御機能の探索
 遷移金属酸化物などの強相関電子系は基底状態で強い電子間相互作用がある一種の協同励起状態にある。従来はその超伝導性・磁性等だけが研究対象となっていたが,前記の性質から光学材料としても顕著な特性と有用な応用が期待できる。このプロジェクトではこの未踏の課題に挑戦して以下のような成果を上げ,このことを実証できた。
 先ず一次元モット絶縁体Sr2CuO3では半導体より一桁も大きい光非線形性とピコ秒の超高速応答が見いだされた。中赤外フェムト秒二光子分光と理論解析の結果から,大きい非線形性の源や次元依存性が明らかにされた。その超高速光スイッチ動作も確認され,全光学式スイッチ材料としての評価もなされた。これらの現象解明に理論チームとの協力が有効な働きをした。
 半金属強磁性体Sr2FeMoO6に対しては,光学的手法で磁性を調べる時間分解磁気光学分光法を開拓し,超高速スピン緩和ダイナミクスを明らかにした。この手法は強磁性半導体 (Ga,Mn)Asにも適用されてその半金属的スピン特性が明らかにされた。これらの結果はスピン自由度を利用したスピントロニクス素子の開発に有用である。
 中赤外分光の延長として,光整流に基づくTHz電磁波パルスを用いた非接触的な磁気光学分光法を開発し,これをn-InAsに適用して磁気プラズマ共鳴を観測した。

3.4. GaN結晶作製及び微小共振器の研究
 GaN結晶については,高品質試料を再現性よく成長させる条件を明らかにして,高移動度試料の作製に成功し,ヘテロ構造及び量子井戸構造も作製した。これを材料とする協同励起現象の追求は今後に残された問題である。
 協同励起光学素子の開発のための基礎研究として微小共振器の研究も進展した。ガラス等の透明微小球に非線形性の大きい共役系ポリマーを導入する方法や,入出力光制御のための微小共振器球間の結合共振や微小球と光導波路との結合等について見るべき成果があった。
 これらは協同励起状態の直接的研究ではなく,前記テーマの研究とはかなり異質である。これらは協同励起材料と実用的応用装置との橋渡しをする科学技術であって,協同励起プロジェクトの一環としてその真価を発揮するのはもっと先のことであろう。しかし,その基礎には寄与したものと認められる。

4. 波及効果
 このプロジェクトの成果の学術的波及効果と期待される技術的インパクトについては既に述べた。ここでは,このプロジェクトが人材交流に果たした特筆すべき波及効果について言及しよう。
 本プロジェクトの特色の一つとして,研究拠点の一つを外国,特にこの分野の一流センターであるアリゾナ大学におき,国内外でかなり多数の外国人をメンバーとして採用した点にある。これはプロジェクト遂行上必要な人材を考慮した必然的な帰結であろうが,結果としては研究の質を国際的レベルに高め,世界規模での学術交流に役立ったと考えられ,高く評価できる。
 メンバーの中心には若くて実力のある研究者が多数参加したが,必要な箇所にはベテラン研究者も置かれ,更に新しい実験研究に欠かせない工作・メンテナンス用のサポート技術員まで配置されたことは,例の少ない特色の一つといえよう。多様な人材が適材適所で活用されたと見なされ,ERATO制度の特徴をうまく生かしたやり方であるといえる。
 若手メンバーの多くは,参加後に指導的あるいは更に向上した地位への就任や国際舞台での活躍を果たしており,プロジェクト参加の経験が効果的に生かされたものと思われる。また,この研究には多数の修士・博士大学院生が参加したこともこのプロジェクトの特色の一つである。その研究テーマの一部を担って学位を得た者も少なくない。これら院生の活動は,プロジェクトの戦力として寄与すると同時に,院生にとっても通常では得難い貴重な経験であったと考えられる。これらは本プロジェクトが若い研究者の育成の面でも重要な貢献をしたことを示しており高く評価される。

5. まとめと特記事項
 全体としてみると,このプロジェクトでは,協同励起という新しいキーワードを中心として,分野の枠を超えた多彩な物質群に対する新しい状態の生成とその性質の解明及び応用という課題に対し,先端的な研究が活発に行われ,有意義な成果が数多く生み出されたと評価できる。これは研究者個人の自発性と個性を尊重して最大限の力を発揮する環境の形成に努力すると共に,多岐に渡る研究テーマの相互関連を維持し,相互の連携とチームワークによる相乗効果の創出を図るという適切な運営方針によるものといってよかろう。このプロジェクトの成功はプロジェクト総括責任者の卓見と優れた企画力及び指導力に負う所が大であろう。
 最後に,今後の問題について指摘しておきたい。このプロジェクトはこれで完全に終了した訳ではない。残された問題や派生した問題も多くあり,また一部の課題には当初の思惑を外れたものもあろう。何らかの形での継続によって効果的な発展が期待されるものも少なくない。ERATOプロジェクトの性格からいえば,このような状況での終了は一般的な問題でやむを得ないことかもしれない。しかし,このまま蓄積された実験技術,設備,人材を散逸させてしまうのはもったいないことで,何らかの対策が必要と思われる。これはプロジェクトメンバーに課せられた課題であると同時に,事業団側も検討を要すべき課題であろう。現制度ではこのような面での支援体制が十分に整っていないと思われるからである。

This page updated on August 1, 2003
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