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月田細胞軸プロジェクト事後評価報告書
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総括責任者 月田承一郎(京都大学大学院医学研究科 教授)
研究体制: 蛋白輸送軸グループ 研究員 逆瀬川如美 他2名
細胞分裂軸グループ 研究員 椎名伸之 他5名
形態形成軸グループ 研究員 小田広樹 他2名
評価委員 高井義美 大阪大学大学院医学系研究科 教授
野田哲生 東北大学大学院医学系研究科 教授
宮園浩平 東京大学大学院医学系研究科 教授

 

1. 研究の内容
   月田細胞軸プロジェクトは、分子細胞生物学領域において今日高い関心が寄せられている「細胞極性」の問題を「細胞軸」という視点から捉えようという計画のもとに組織された。生体の基本単位である細胞が示す生命活動の多くは細胞軸に沿って整然となされている。「細胞軸の本体は何か」という未解明の課題に対し、総括責任者は研究の手がかりとなる「種探し」を始めることからスタートした。そして本プロジェクトによってこの「種」を芽生えさせ、5年後にその中にいくつかを大きな「幹」となるように育てることを目標としてプロジェクトを計画した。本プロジェクトでは総括責任者が備えている形態学の基礎をもとに、分子生物学をはじめとする新しい研究方法を駆使して、その「種探し」を精力的に行った点が最大の特色であり、世界的にもレベルの極めて高い、独創的な研究といえる。とくに総括責任者の持つ形態学的研究手法は世界でも最先端を行くものであり、これを基盤に「細胞軸」の本体を可視化することを試み、その結果得た多くの成果は世界にも誇れる極めて優れたものであることは評価委員の意見の一致するところである。
 本プロジェクトは、「細胞軸」を蛋白輸送軸、細胞分裂軸、および形態形成軸という3つの軸に分け、それぞれに研究グループを組織し、「種探し」を強く意識した研究が行われた。3つの研究グループはバランスがよく、若い研究者をリーダーとした点は特筆すべきであろう。彼らはそれぞれに興味深い具体的テーマを掲げ、積極的に取り組み、多くの極めて重要な成果をあげた。5年のプロジェクトの終了にあたり、いくつもの「種」が芽生え、その中のいくつかは「幹」として成長し、プロジェクト終了後には大きな「樹」となろうとしている。評価者は全員が平成13年9月に京都で行われた最終シンポジウムに出席してその極めてレベルの高い、独創的な研究成果の詳細を聞くことができた。その後の評価委員会で委員の意見はほぼ一致したものであったので、ここに統一見解として報告する。

2. 研究成果の状況
  2.1. 全体の評価
 本プロジェクトは3つの研究グループから組織された。(1) 蛋白輸送軸グループでは蛋白質分泌の軸を探る方向の研究、(2) 細胞分裂軸グループでは中心体構造と機能を探る方向、および(3)形態形成軸グループでは細胞間接着という観点を中心に研究者が極めて自由な発想のもとに研究を行った。本プロジェクトの基本方針として、「種探し」に重点を置いて研究活動が開始され、それぞれのグループにおいていくつかの「種」が見出され、「芽」の創出が見られた。その中のいくつかはこの5年の間に「幹」となるまで育ったことは、本プロジェクトが限られた研究期間であったことや、メンバーがすべて若い研究者であったことを考えると驚くべきことである。いくつかの優れた論文が本プロジェクトから発表され、基本特許もいくつか取得された。本プロジェクトの研究成果の質の高さ、科学技術分野に与えたインパクトの大きさを考えると、本プロジェクトは極めて優れた成果を納めたというのが評価委員の一致した見解である。

  2.2. 各研究グループの研究成果に対する評価
1) 蛋白輸送軸グループ
 このグループでは、グループリーダーを中心として、蛋白質の折りたたみ(folding)を制御する新たな蛋白質アンフォルジン(unfoldin)をクローニングし、精製し、その性質を詳細に検討し、きわめて興味深い結果を得た。アンフォルジンはATP依存性に基質蛋白質を認識して蛋白質の折りたたみをほぐす働きをもつ。アンフォルジンは大きなオリゴマーを形成し、きわめて広い基質特異性を持つ。アンフォルジンはrod様の構造を作り、細胞のdeformingを起こすことが示された。そのほか酵母のミトコンドリアに存在する核様体に局在する新規のストレス蛋白質Ecm10の研究、小胞体で合成された異常蛋白質の分解に関わるERADシステムの研究を行い、優れた成果を納めた。このグループの研究成果は現在投稿準備中であり、これらの研究成果が発表されれば、蛋白質の輸送軸に関連した分野に大きなインパクトを与えるものと期待される。

2) 細胞分裂軸グループ
 このグループでは、グループリーダーを中心として、単離した中心体に対する抗体を多数作製し、これらを用いて中心体局在蛋白質の同定を進めた。その結果としてPCM(pericentriolar material)顆粒という新たな細胞内小器官を見い出し、これを構成する蛋白質としてPCM-1を同定した点が特筆される。抗体を用いた研究は総括責任者の得意とする手法であろうが、これを中心体の研究に応用した点が極めて独創的である。さらにPCM-1が1960年代に記載されて以来その本体が明らかでなかったcentriolar satelliteの構成蛋白質であることが明らかとなった。電子顕微鏡による解析手法が普及した現在において新たな細胞内顆粒が同定されたことは極めて重要な成果である。さらに久保らはcentriolar satelliteは微小管依存的に中心体周辺に局在することを示し、生細胞内におけるcentriolar satelliteの挙動を明らかにした。さらに中心体の複製と繊毛形成のプロセスの研究を行い、繊毛形成時に出現するfibrous granuleにもPCM-1が局在することを明らかにした。centriolar satelliteの機能は明らかではないが中心体複製に関わる機能を持っていることが期待され、今後PCM-1蛋白とcentriolar satelliteをさらに詳しく研究されることで中心体複製の分子メカニズムが明らかとなっていくことが期待される。
 また、がん抑制遺伝子産物であるAPC蛋白質が培養細胞の突起部の微小管に特異的に濃縮する像を示した研究も高く評価される。APCが細胞の増殖や分化などに極めて重要な蛋白質であることはいうまでもないが、このプロジェクトにおいてAPCの細胞内での局在が明らかにされ、細胞極性形成と関係した新たな機能を示唆した。さらにAPCに結合する蛋白質EB1が細胞の先端で微小管上でのみAPCと相互作用していることを明らかにした。清末らは微小管の空間配置が形成されていく過程でAPCやEB1などの蛋白質が微小管の"search and capture"に関与すると考えて微小管配向を制御する新たなメカニズムを提唱し、この分野に新たな研究の方向性を開拓した点は注目に値する。
 さらにマウスのγチュブリンの機能を解析するためにγチュブリン1(TUB1)とγチュブリン2(TUB2)遺伝子のノックアウトを行った。TUB1遺伝子は初期胚の発生に必須であること、またTUB2ノックアウトマウスは痛覚に鈍感になるというきわめて特徴的な表現型を示すことが明らかとなった。γチュブリンはよく知られている分子であるがその遺伝子ノックアウトマウスが予想しなかった表現型を示したことは極めて興味深い。この研究はまだスタートしたばかりであるが、本プロジェクト終了後もさらに詳細な解析が続けられることが期待される。

3) 形態形成軸グループ
 このグループでは、細胞接着蛋白質であるショウジョウバエのDEカドヘリンを中心にその機能や構造の解析を行った。グループリーダーはカドヘリンの構造と作用を個体発生と系統発生という観点から研究を進めた。個体発生ではとくに卵細胞の形成時におけるカドヘリンの動きを経時的に観察した実験、およびカドヘリンやカテニン分子内の形態形成関与ドメインを明らかにするレスキュー実験は極めて興味深い。さらに気管の形態形成の研究でも興味深い結果を得た。一方、系統発生ではカドヘリンをさまざまな生物種からクローニングし、その構造の比較を行った。この結果、異なった生物種におけるカドヘリンの構造と作用の違いだけでなく、生物間の系統発生にまで展開した点は独創的であると言えよう。しかし、研究の焦点が個体発生と系統発生という2本の柱にわかれてしまったため、研究全体の統一性にやや欠ける印象があったことは否めない。系統発生の研究はグループリーダーの学問的興味からスタートしたものであろうが、プロジェクト全体のバランスを考えると個体発生の研究にフォーカスしたほうがよかったのではないかという意見が一部の評価委員から寄せられた。

3. 研究成果の科学技術への貢献
 「細胞軸」という観点は本プロジェクトがスタート時点ではまだ新しく、全体像が見えない分野であり、本プロジェクトはそれを主題に取り組んだ新しい挑戦であったといえる。その後、細胞の極性、細胞軸といったキーワードが生命科学の分野で注目を浴びるようになったことは、本プロジェクトの果たした大きな貢献の一つであったと言えよう。本プロジェクトを通して、若い研究者が自由な発想で、討論を重ねながら試行錯誤的に研究に取り組み、それぞれのグループが優れた成果を挙げたことは特筆すべきである。本研究の成果によって、生命科学研究の中で重要な位置をしめる細胞生物学、発生学をはじめ、癌の研究にもあらたな知見を生み出したことから、産業界にも大きなインパクトを与えることができたと考えられる。

4. 波及効果
 本プロジェクトは、ほとんどが学位を取得したばかりの若い研究者によって進められた。若手研究者が総括責任者と議論をくり返しながら自由な発想で研究を展開し、優れた成果を治めたことが本プロジェクトの最大の特徴であろう。このような若い研究者の自由な発想が直ちに試行される研究体制は通常の研究ではリスクも考えられるが、「種探し」を目的とする本プロジェクトでは当を得たものであり、実際、人材選考も見事に成功したといえる。「産」「官」「学」「海外」の研究者が集まって研究をしている点でもバランスの取れた構成であり、研究自体も新たなメンバー構成でスタートしたとは思えないほど順調に進行した。プロジェクト終了後は一部の研究者は総括代表者とともにさらに研究を進めていくことになり、本プロジェクトで育った「芽」の一部は総括責任者のもとでさらに大きな「樹」へと育てられて行くものと期待される。一方、他のメンバーも自らの力で新しいポジションを探し、これまでの研究をさらに発展させていく道を選ぶことに成功したことも極めて印象的であった。

5. その他の特記事項
 以上のとおり、本プロジェクトは、いくつもの興味深い成果を挙げて終了した。本プロジェクトではいくつもの「種」がまかれ、プロジェクト終了後もさらに発展していくことを期待された。本プロジェクトで見出された新しい「種」の中には非常に興味深い研究であるにもかかわらず、まだ、スタートしたばかりで今後の発展をもう少し見届けたいものも見られた。これらのうち細胞分裂軸グループの中心体複製、微小管プラス端、γチュブリンノックアウトマウスのプロジェクトは今後、総括責任者の研究室で続けて行くことになるということである。本プロジェクトで得られた成果が今後どのように発展し、展開していくか、評価委員一同で楽しみに見守りたい。

This page updated on November 5, 2002
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