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横山情報分子プロジェクト事後評価報告書
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総括責任者 横山茂之(東京大学大学院理学系研究科 教授)
研究体制: 遺伝情報分子研究グループ 研究員 平尾一郎 他8名
細胞情報分子研究グループ 研究員 斎藤一樹 他4名
評価委員 石黒正路 (財)サントリー生物有機科学研究所 部長研究員
多比良和誠 東京大学大学院工学系化学生命工学 教授
三浦謹一郎 東京大学名誉教授、(株)プロテイオス研究所 代表

 

はじめに
 生体が種々の生理作用を営むには種々の蛋白質の働きが必要である。蛋白質の情報は遺伝子に刻まれているが、遺伝子の研究が進み、蛋白質がどのようにして作られ、でき上がった蛋白質はどのような機構で生理作用を営むかが問題である。遺伝子を改変して蛋白質の構造変化を起こす蛋白工学はこのような問題に迫る方法であり、有用な蛋白質を作り出す方法でもあるが、さらに非天然型アミノ酸をとりこませた蛋白質を作ることは蛋白質の構造や機能を追究するために必要な方法であるし、さらには人工的な有用蛋白質を合成するためにも期待されることである。本プロジェクトはこのような大きな目標に向かって道をつける研究といえる。横山情報分子プロジェクトは「人工的な遺伝・細胞情報処理システムをめざして」という内容で5年間という短期間に目覚しい成果を上げ、さらに新しい発展にるながるものを産み出したといえる。
1. 1. 研究成果の状況
  1-1. 人工的遺伝情報処理システムの研究―新規塩基対の創製
 非天然型アミノ酸を計画通りに蛋白質の分子の特定位置にとりこませる方法を作るために、遺伝子発現系の改造から行うという筋書きであるが、まずは人工的な塩基対を作るということが問題であった。この問題はすでに世界でも先駆的な研究は始められていたが、遺伝子発現系(蛋白質合成系)の中でも安定で確実に複製・転写・翻訳という遺伝子情報処理システムで働く塩基対を作り出すという点で世界的に初めての成果が挙げられた。
 新規の人工塩基対として設計したポイントは二つの塩基間で確実に相手塩基の選択ができるように、従来の塩基の特定の位置にかさ高い置換基を導入することであり、塩基間の水素結合がかかる位置も天然型の様式にこだわらなくてもよいという点であった。デザインしたものを合成し、塩基対の安定性、選択の厳密さ(排他性)を実験した上で全く新しい塩基対を作製した。さらにDNA合成酵素(細胞中でDNA複製に使われる酵素ではなく、DNA修復に使われる酵素)によるDNAへの取り込み、DNA依存RNA合成酵素によるRNAの定位置への新規塩素の取り込みを調べ、二つの新規塩基対が好都合なことを明らかにした。さらに転移RNAのアンチコドンに新規塩基を入れ、末端に非天然型アミノ酸を結合したものを作製し、大腸菌由来のin vitro転写―翻訳系を用いて非天然型アミノ酸を特定位置に入れた蛋白質を合成することに成功した。
  1-2. 細胞情報処理システムの研究―リガンド分子とレセプター間の情報伝達機構
 細胞の調節機構は外部からの諸因子(蛋白質やポリペプチド)の働きを細胞表面に突き出たレセプターで受け止め、各因子が持つ情報が遺伝子発現系にどのように伝えられるかを明らかにする必要がある。このような研究は最近盛んに進められているが、本研究ではこのような情報伝達システムに非天然型のアミノ酸を導入して、外来因子の情報がレセプターを介してどのようなメカニズムで細胞内の要所に伝えられるかを明らかにすることを将来の目標とし、具体的な研究対象として上皮成長因子(EGF)からレセプターへの情報伝達を選んだ。
 レセプターの細胞外領域の各ドメインのキメラを系統的に作成して各ドメインのリガンド結合に対する役割と特異性を解明した。そこで、レセプターの細胞外領域でEGFと直接結合するドメインとEGFの複合体を結晶化し、X線回折により構造解析をすることに成功した。一方、同レセプター蛋白質との相互作用については、非天然型チロシン・アナログを含むペプチドを用意してアダプターのSH2ドメインによるリン酸化ペプチドの認識が解析され、さらにリン酸化チロシン認識部位の変異によって、リン酸化チロシン・アナログを含むペプチドを特異的に認識する変異蛋白質が得られたことは今後シグナル伝達機構の研究を進める上で重要な知見であった。
2. 研究成果の科学技術への貢献
  2-1. 新規の塩基対デザイン
 プロジェクトから発表された新規の塩基対デザインはライフサイエンスの世界で大きなインパクトを与えることは間違いない。この研究成果は基本的な特許となることも期待でき、今後発展する蛋白質の機能研究で基礎的な技術として利用されることが期待される。
2-2. 非天然型アミノ酸の蛋白質への導入
 in vitro系で非天然型アミノ酸を蛋白質の特定位置に導入することを達成できたが、この技術を細胞内の反応に適用するためにはDNA複製の段階で通用する塩基対を作る必要があり、天然型塩基対の正確さと同等のものを作り上げるには、さらに洗練された塩基対を作り上げる必要がある。この限られた期間内に目標の基本的な部分を到成できたことは大きく評価できる。そして次の発展を期待させる立派な研究成果であった。
2-3. セントラルドグマへの人工的な改変
 生物の遺伝情報のセントラルドグマに対してどこまで人工的な改変または付加を加えられるかという期待は今後の生命科学における重要な課題であり、この課題に解答を与えられることは生命科学技術の発展を大きく促すものになることは明らかである。
2-4. 上皮成長因子とそのレセプター一部の複合体の構造解明
 上皮成長因子とそのレセプター一部の複合体の構造解明は現在進行中のアポ型レセプターの立体構造の解析と合わせると、リガンドによるレセプターの活性化機構が完全に解明されることが期待でき、細胞膜に挿まったレセプター蛋白質による情報伝達機構の研究分野において大きなインパクトを与える成果となるに違いない。当然、医薬品デザインの研究分野への貢献は非常に大きいものであり、構造情報の特許も基本的に重要なものとなるであろう。
3. 波及効果
 今後、細胞情報処理システムの分野でも非天然型アミノ酸を導入するプロテイン・エンジニアリングの手法と合わせることによる画期的発展は疑いのないものであるが、本プロジェクトではこの期待に対して間違いなく解答を与えたものであり、かつ今後解決してゆかなければならない課題も明らかにされていることから、生命科学分野での重要な貢献といえる。すでに海外の研究者によってもいくつかのアプローチがなされ、その課題に対する困難さが示されている新規塩基対のデザインでは、彼らが到達できていない段階まで到達し、今後の発展が期待できるところまで示した研究は非常に価値が高いと評価できる。レセプターの機能の解明が効率よく進められるものと期待される。
 本プロジェクトは社会的な関心事になっているゲノムプロジェクトやプロテオームプロジェクトに対しても重要な貢献をするものであり、このプロジェクトのいっそうの発展を期待するとともに、特に蛋白質の機能に関わる分野への大きな波及効果が期待できる。
4. その他
 横山総括責任者のもとに、遺伝情報分子研究グループと細胞情報分子研究グループの2グループから構成されていた。遺伝情報分子研究グループのリーダー(平尾一郎博士)は、ヌクレオチドの有機合成化学のトレーニングを受けてから分子生物学分野に進んでいるので生命現象の解析面でも優れて居り、出身分野の異なる研究者をリードして優れた研究成果を産み出した。平尾グループリーダーは理論的な考察と実験的な検証をねばり強く繰り返し、独創的な研究を進めた。  細胞情報分子研究グループのリーダー(斎藤一樹博士)は、有機化学、蛋白質科学、細胞生物学に通じていて、関連分野から集めた研究者をリードして終盤では研究のピッチを上げ成果を挙げた。斎藤グループリーダーの長期的展望に基づいた着実な研究手法が好結果を出したといえる。 両グループとも幸いやる気に溢れた研究者を集め、立派な研究成果を出すことができたが、全体のリーダーである横山総括責任者は、蛋白質及び核酸の構造に関して一流の研究者であり、先生であった故宮津辰雄教授が夢を抱いていた非天然型アミノ酸を蛋白質中に導入して新しい機能をもつ蛋白質を作り出すことを実現する道をつけることができたといえる。総括責任者自身の秀れた着眼点が生かされ、指導力が発揮されたことが今回のプロジェクトを大成功に導いた原因と考えられる。
5. 結語
 本研究プロジェクトの目標設定はきわめて高いものであって、主題も「人工的な遺伝・細胞情報処理システムをめざして」となっている。それにも拘らず5年という短期間にこの目標の基本段階を世界に先がけてクリアしたといえる。そればかりか、本プロジェクトに関わった研究者の研究経験と洞察力が今後関係分野に活かされるならば、ユニークでインパクトのある研究成果がつぎつぎと生み出されるものと期待される。当創造科学技術推進事業では多数の秀れた研究が行われてきたが、その中でも横山プロジェクトは、日本独自の、独創的で、国際的にみても極めてレベルの高いものであったといえる。
6. その他の特記事項
 本事業では5年という年限で切って、総括責任者の研究構想の実現に向けたプロジェクト研究であるが、継続研究や新プロジェクトとして発展させる仕組みがあるにせよ未だその採択率は低く充分でない現状にあると聞いている。本プロジェクトのような誇るべき成果を挙げ、しかも先の発展へとつながる期待が大きい研究プロジェクトには、評価のうえ何らかの形で成果としての芽が育成される措置が期待される。これは評価委員3名ともが特に要望している意見であることを付け加えておく。

This page updated on November 5, 2002
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