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楠見膜組織能プロジェクト中間評価報告書
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総括責任者 楠見明弘(名古屋大学大学院理学研究科 教授)
研究体制: 分子間相互作用グループ 研究員 Kenneth Ritchie 他5名
膜骨格機能グループ 研究員 藤原敬宏 他8名
細胞間相互作用グループ 研究員 鈴木健一 他4名
評価委員 阿久津秀雄 大阪大学蛋白質研究所 教授
大隅良典 岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所 教授
川喜田正夫 工学院大学応用化学科 教授

 

1. 研究の進捗状況と今後の見込み
  1-1. 研究構想の具体化状況
 本プロジェクトは膜オーガナイザーとしての膜骨格の機能とその分子機構の解明を目指して、第一に膜骨格が、膜分子の熱運動に依存するセルフアッセンブリーをうまく利用しつつ、能動的機構によって熱運動を上手に制御して、細胞膜分子の組織化を達成する機構を解明すること、第二に、膜骨格が媒介する細胞骨格と細胞膜の相互作用(+細胞膜間の相互作用)によって誘起される細胞構造/形態の形成の変化、すなわち、細胞運動、食作用、細胞接着構造の形成、多細胞集団の形態形成について、それらが生じる機構を解明すること、を具体的な目標として出発した。これらはいずれも、膜をめぐるさまざまな生物学的反応を理解する上で避けては通れない問題であり、独自の1分子解析法を開発して来た楠見プロジェクトリーダーにしてはじめてチャレンジ可能な課題である。この目標を達成するために、本プロジェクトは (1) 分子間相互作用グループ、 (2) 膜骨格機能グループ、 (3) 細胞間相互作用グループ、の三つの研究グループを設けて研究に取り組んでいる。全体としては、上記研究構想の具体化は順調に進んでいると言うことができる。これらの研究の一部は既に研究論文発表に結実しており、着実な進展が期待できる。グループ間の協力は極めて密接で、(1) で開発された新技術が直ちに (2) や (3) で応用され、顕著な成果につながっている。さらに、重要なことはこの中で、初期構想を越える新しい展開の芽が出て来ていることである。以下、各グループについて具体化の状況を簡潔に検討する。
(1) 分子間相互作用グループ
 このグループはプロジェクトを推進する上での基本的解析技術を開発し、高度化させることに成果をあげている。理論解析法の開発は今後の実験結果解析の強力な武器になるであろうし、生細胞内でのGFP融合タンパク質1分子可視化は今後のin situ研究に大きな可能性を開くものである。また、急速凍結/デイープエッチ/免疫レプリカ電子顕微鏡法は細胞質側表面のカベオラ、クラスリン被覆ピットを見事に画像化しており、1分子解析法が実際に何を見ているのかを明らかにする補完的方法として今後重要な役割を果たすことが期待される。同時に、これらの方法は実際の対象に適用される中で、今後リファインされていく必要がある。

(2) 膜骨格機能グループ
 このグループは出発時に掲げられた二つの目標の第1を達成するために組織されたものと考えられる。このグループではフォスファチジルエタノールアミン誘導体を用いたリン脂質の生体膜上での運動および最近注目を集めているラフトの性質と役割を中心に構想の具体化が進んでいる。リン脂質のように2重層膜の1層にしか関係していない分子が内在性膜タンパク質と同じくコンパートメントの影響を受けていることは意外な発見である。ラフトについてはその性質や安定性について今までの常識とかなり異なる結果を見出している。即ち、ラフトは定常状態では小さく不安定であり、信号の入力によって安定化されると結論している。この結果は生物学にインパクトを与えると考えられるが、生化学者を納得させるためにはもう少し詰めた研究が必要であろう。

(3) 細胞間相互作用グループ
 このグループの研究内容はグループ名から予想されるものよりは二つの目標の第2の具体化そのものであるとの印象を受けた。細胞間相互作用ではカドへリンとカドへリンシグナリングについて全く新しい知見を得ており、今後の展開が期待される。これ以外は主に細胞膜周辺でのシグナル制御機構に関する研究であるが、1分子FRETを巧妙に用いることにより生細胞における情報変換分子活性化の1分子可視化という質的に一つ高い段階への飛躍を実現している。これに関しては、H-Rasと3量体GTP結合タンパク質について研究されて興味ある結果も出ているが、研究自身はまだ始まったばかりである。これらの研究の今後の進展によっては生物科学に重大なインパクトを与える可能性がある。

  1-2. 未踏課題への挑戦状況
 細胞膜上での1分子解析は楠見グループの独壇場であり、このプロジェクトで行われていることは基本的に未踏課題への挑戦と言える。例えば、膜脂質の並進拡散速度が自由拡散から想定されるよりも著しく遅い原因の解明は25年来の課題であったが、その現象の物理的基礎は時間分解能25msにおける1分子解析法という新しい高度な技術の開発によって初めて明らかになった。生細胞における1分子可視化、およびそれを用いた動的膜組織とシグナル制御の関連の解明、ラフトの物理化学的キャラクタリゼーションと機能の解明は新しい挑戦である。また、シリコンナノ粒子等を用いた褪色のない新たな蛍光プローブの開発は、たとえば細胞接着過程におけるE-カドヘリンの再編成過程の継続的解析など、本プロジェクトの後半の展開の鍵を握る課題への挑戦に極めて重要な意味を持つ。

  1-3. 研究者の参集状況
 外国人を含めた意欲的な若手研究者と研究補助者が多数参加しており、研究グループの人的構成はよいとの印象を受けた。中間評価会においても、多数の若い研究員が自由な発想に基づく魅力的な研究報告を行った。技術員の水準も高く、プロジェクト総括責任者を中心にして、理論的解析、1分子測定系の開発、微細形態観察、細胞応答、細胞制御の解析にまたがる広い領域にわたる課題を効率良く追求するためのバランスのとれた人材構成が実現されている。特に、技術参事が研究の面での主要メンバーの一人であることはこのグループではうまく機能しているように思われた。

  1-4. 施設・設備の整備状況
 研究施設はビルの3階と半分を使っている。そのビルは研究のために整備されたものではない。しかも街中のため、振動などの使用上の問題はありそうであるが、研究の遂行に適したスペースが確保されている。設備はよく整っており、管理状況もよく、大学等では発展が難しい課題に挑戦しているERATOのプロジェクトに相応しいものと思われる。本プロジェクトを推進するために必要な基本的施設・設備はほぼ整ったと見てよい。特に、1分子観察用の全反射顕微鏡装置、光ピンセット、微細構造観察用顕微鏡装置、微弱蛍光解析装置その他の精密光学器機類、およびそれらに附随する画像解析装置などが、プロジェクト全体の共同設備として整備、活用されていることは研究成果報告からも窺うことができ、高く評価される。

  1-5. 今後の見込み
 各グループとも体制が整い、研究は現在順調に進捗している。研究員、技術員もプロジェクト総括責任者を中心によくまとまっており、意欲的に研究を進めている。したがって、研究成果はまだ出始めたところであるが、今後インパクトの高い成果が次々と出てくることが期待される。

2. 研究成果の現状と今後の見込み
  2-1. 研究成果の現状
 研究の成果はプロジェクト開始3年を経て数扁の論文として形を取りつつあり、成果は着実に積み上げられている。この間、分子間相互作用グループが開発した、細胞内でのGFP1分子イメージング法、1分子光ピンセット顕微鏡法、細胞質側表面全体の電子顕微鏡観察法等は今後他の研究グループの研究を発展させる上で大きな力となることが期待される。これまで主要な方法として来た1粒子追跡法についても、時間分解能を25 ms、空間精度を20 nm(高い空間精度が必要なときは、時間分解能220マイクロ秒で6 nm)にまで上げ、解析法の理論的骨組みを拡張するなど、着実な成果をあげている。膜骨格研究グループでは、リン脂質の拡散運動遅延を解析する中で「アンカード膜タンパク質ピケットモデル」に基づき、今まで現象としては知られていたが、理由が明らかでなかった生体膜におけるリン脂質分子の遅い並進拡散の分子論的な機構を明らかにした。これは神経細胞におけるリン脂質分子の運動解析を通しての新しい発見に見られるように、膜骨格機能研究一般に新しい視点を持ち込むものである。膜脂質という点では、現在注目されているラフトについても今までの常識を覆す結果を出しており、この分野の研究に大きなインパクトを与えるであろう。膜受容体分子の解析から「会合誘起トラッピングモデル」をも提案している。細胞間相互作用研究グループではカドへリン、生細胞中のシグナル伝達系において多くの注目すべき成果が出始めている。特に、生細胞中の1分子蛍光共鳴エネルギー移動法は生体膜における生化学的反応を1分子の分解能で見る上でのキーテクノロジーとなることが期待される。ただ、この分野はまだ始まったばかりであり、今後の研究の基礎が出来上がったという状況であろう。徹底した分子の振る舞いの解析を進めることが望まれると同時に、本研究で見いだされた分子の振るまいが生命現象でいかなる意義を持っているかを解明することを視野に入れた研究が必要である。

2-2. 今後の見込み
 中間評価会における研究報告の内容から推定すれば、これらの個性的、創造的な研究成果の公表は今後も順調に行われ、科学技術の革新の芽としての役割を果たすことは十分に期待できる。ただし、細胞間相互作用研究グループの研究対象に関しては、対象の複雑さ、細胞内シグナル伝達経路の多様性とグループの規模を考え合わせると、ある時点で対象の多少の絞り込みを検討する必要があろう。また、生細胞における情報変換分子の1分子可視化は生物学的インパクトが大きいが、大阪大学柳田敏雄グループ等も取り組んでおり、膜との関連での独自性を出していく必要があろう。これまでの研究過程で解析の対象になってきたのは、いずれも比較的短時間の細胞応答であった。今後の研究期間においては、より長時間にわたる細胞応答を連続して解析する方法を開発し、これまでのところでは比較的静的に振る舞っている膜骨格の動的な挙動とその制御や、おそらくその状況ではじめて検出できるようになる「膜分子の熱運動に依存するセルフアッセンブリーの能動的機構による制御」の実体が明らかにされることを期待したい。

3. 結語
 中間時点での本プロジェクトの進捗は順調であり、「萌芽的かつ重要なアイデアを適切な人材と資金で集中的に研究して新しい科学技術の流れをつくり出す」というERATOの特徴を十分に活かした方向で実際に多くのシーズを生み出している。したがって、本プロジェクトの研究活動は高く評価することができる。同時に、この分野が大きく発展するためは、一流誌に多数の論文が掲載されることが重要であるので、それぞれの実験が当該分野の生物学者を納得させる完成度の高いものになることを期待する。一分子観察は日本で最も優れた成果の挙がっている領域であるが、近年欧米でも急速に系の立ち上げがなされてきている。その点からも短期的な成果のみならず、この研究グループで育った研究者が今後独立して研究を発展させ、日本における1つの潮流を作り出すことが望まれる。本プロジェクトで開発された測定技術の質、測定器機の専門性、研究対象の秘める可能性の豊かさ、プロジェクトの立ち上げに要した努力と人材の豊富さなどを考え合わせると、本プロジェクトは今後の2年間で一層の飛躍を遂げ、所期の構想を越える展開が期待される。したがって、このプロジェクトの可能性を全て花開かせるためには、5年間を越えた長期にわたる支援体制を視野に入れるべきであろう。

This page updated on November 5, 2002
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