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北野共生システムプロジェクト中間評価報告書
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総括責任者 北野宏明((株)ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー)
研究体制: システムバイオロジーグループ 研究員 大波修一 他11名
共生系知能グループ 研究員 奥乃 博 他8名
評価委員 小原雄治 国立遺伝学研究所生物遺伝資源総合センター長
冨田 勝 慶應義塾大学環境情報学部 教授
原島文雄 東京都立科学技術大学 学長
中村仁彦 東京大学大学院情報理工学系研究科 教授

 

1. 研究の進捗状況と今後の見込み
  1-1. 研究構想とその具体化状況
1) プロジェクトの目標
 本プロジェクトは、その目標を、生命現象を広義の共生系としてとらえ、非常に複雑な系の理解に関するシステム的アプローチを開拓していくこと、に設定している。すなわち、「多数の要素からなる複数のpathwayが相互に関わりあいながら、究極的に高度な機能を発現する」であろう、という仮説を、バイオロジーとロボットの2つの研究を進めて検証し、さらにシステムバイオロジーという分野の立ち上げをねらいとしたものである。生命現象の理解において、工学の分野で確立しているシステム的アプローチを導入すること、および、ロボットというきわめて工学的な分野に生命現象の考え方を導入するという両面からの研究が融合されれば、新しい科学技術の展開が期待され、野心的なプロジェクトといえる。

2) 基本理念
 研究の基本理念としては、つぎのようなものをあげている。すなわち「新分野(学問・産業分野)の創生を最大の目標とし、それに必要な研究、成果展開、プロモーションを、あらゆる手段で遂行することを基本的な方針とする。さらに、新分野の創生にいたらずとも、学問的・産業的にインパクトのある研究成果が生み出された場合には、その成果展開作業を集中的に行い、広く研究と産業の活性化に資する展開を行う。また、当プロジェクトから、新たな研究組織や企業が、派生的に生み出されることを意図する。」すなわち、本プロジェクトの理念は、「探索型」と「基礎型」を掲げつつも、「応用型」、「実用型」も重要な視野にいれている。

3) 実施体制
 以上の目標と理念を実現するために、
(1) システムバイオロジーグループ
(2) 共生系知能グループ
の2グループを設置し、相互に連携を保ちつつ、研究を展開している。

  1-2. 未踏の課題への挑戦状況
 以下に示す3点が挑戦的と考えられる。
(1)システムバイオロジーという分野の必要性は、多くのバイオロジー研究者が長年感じているところであり、この分野の体系化に挑戦することの意義は大きい。生命現象は階層性を持っており、個々の現象に限っても様々な階層・種類のデータを体系的に集めて処理する必要がある。しかし生命現象の解析データには生物本来のゆらぎやノイズが含まれるし、実験者の違いによる振れもある。したがって、現在ゲノム研究を始めとして大量の情報が産み出されてはいるが、これを単純に収集してもシステムバイオロジーに載せることは無理である。このために必要なことは、第1に後の解析に適した形のデータを自前ですべて取得することである。第2はそのような形のデータ収集をおこなう国際コンソーシアム形成である。第3は、様々な問題を含みながらもすでに存在する夥しいデータを処理しシステムバイオロジー解析にのせるためのツールやプラットフォームの構築である。これらは困難ではあるが避けて通れないものであり、本プロジェクトではこれらすべてに挑戦しており、これらの点で極めて野心的といえる。 (2)ロボットを人工生命と考える流れは、ロボット工学の初期からある概念であるが、近年、コンピュータの著しい発展により、その研究が加速している。本研究は、ロボットを共生系としてとらえ、高次の機能が生物と類似のしかけから生まれることを検証しようとしており、野心的である。
(3)学問的・産業的にインパクトのある研究成果が生み出された場合には、その成果展開作業を集中的に行い、広く研究と産業の活性化に資する展開を行うことを、研究の基本理念の中に掲げており、この面からの成果が期待される。

  1-3. 研究者の参集状況
 総括責任者,北野宏明氏のもとに、システムバイオロジーグループ、共生系知能グループの2つのグループが組織され、それぞれのグループリーダーのもとに若手の優秀な研究者が配置されている。さらに、システムバイオロジーグループには、実験面およびソフトウェア−面を補うCALTECHユニットが置かれている。それぞれのグループは、特に遺伝子ネットワークとソフトウェア−標準化に関して相互に密接な連携を保ちつつ研究を展開している。このように研究者の参集状況はおおむね良好と認められたが、今後の一層の発展を視野にいれた時、以下のようなコメントが評価委員から特別になされた。

システムバイオロジーグループ
 “生物実験データには様々なノイズが含まれており、このことを知っている生物研究者は複数の研究者がやった結果を単純にデジタル的に扱うことには拒否反応がある。一方、情報系の研究者は、公開されたデータに含まれているノイズについては無頓着なことが多い。システムバイオロジーを推進するためにはこの両方を理解した人材が必須であり、これを育てることが必要である。その点から見ると、それに近い経験と能力をもった人材がグループリーダーに起用されており、総括責任者の見識があらわれている。ただ、そのような人材は非常に少なく、研究課題の大きさから見ると弱小の感は否めない。CALTECH サイトの参加はこのプロジェクトの大きな利点であるが、情報面に偏っているのが少々残念である。

共生系知能グループ
 大自由度系ロボットの複雑性を生物の「共生」の視点からとらえ、知能の構成法を探求しようとすることは基礎的研究課題であり、そのためには、数理的なひらめきと地味かつ堅実な研究開発が必要である。そうした視点から見るとき、研究体制の一層の強化と総括責任者の先見的な指導の必要性を感じる。

  1-4. 施設・設備の整備状況
 クリエーティブな研究環境と充実した機能をめざして構築している。さらに、パブリシティーと情報の集約点になることを目指していることが印象的である。しかしながら、システムバイオロジーグループについては、つぎのような問題点を指摘したい。  生物学実験面では東京サイトの設備は不充分である。それをCALTECH サイトで補っているがもう少しCALTECH サイトからの実験面の参加が必要ではないか。また、ERATOでは大学等から離れており「たこつぼ」の感がある。特に情報系学生や研究者にとって実験系とのすりあわせの機会が非常に少ない。この点に今後の改善の余地があるが、総括責任者のリーダーシップで上述の両刀使いの育成を推進する必要があろう。

  1-5. 今後の見込み
 本研究プロジェクトの今後について、1) 新しい科学技術の流れをつくる可能性、および、2) 応用・実用の見込み、の両面から分析した結果は以下の通りであった。

1) 新しい科学技術の流れをつくる可能性
システムバイオロジー
 バイオロジーをシステム論的に体系化するという新しい学術分野の確立における先駆的役割は十分期待できるし、かつ実現しつつある。しかしながら、生物現象をシステムとして再現するために必要な生物学的情報をおぎなう種々の試みは、いまだ模索が続いている状態である。

共生系知能
 視覚と聴覚の統合の研究において前進があり、さらに運動との連動などの発展が期待されるものの、応用・実用的研究の域であり、現在のところ「新しい科学技術の流れ」をつくるにはいたっていない。

新しい科学技術の流れ
 新しい科学技術の流れを創る試みについては、主力を「システムバイオロジーのコンセプトの具現」に置き、その他の探索的研究に関しては、今後2年間で成果が期待されるものを選んで行うべきであろう。

2) 応用・実用の見込み
 本研究プロジェクトは、応用・実用に関しては、著しい成果が出つつあり、さらに今後が期待される。
システムバイオロジー
 各種のソフトウェアの基盤が形成されつつあり、今後のさらなる整備により、システムバイオロジーのみならず、バイオロジー全体の学術的発展の強力なツールを提供することとなろう。

共生系知能  多くの応用・実用的成果が生まれつつある。とくに、「ロボットデザイン」における成果は顕著であり、優れたデザインを発表するとともに、ロボットデザインという分野の創設とその社会的認知に果たしている役割は、今後とも大きな成果が期待される。

2. 研究成果の現状と今後の見込み
  2-1. システムバイオロジーグループ
1) システムバイオロジーのコンセプト構築
 システムバイオロジーという言葉を発明して流布したことが最大の功績である。国際会議、連載、授業などで、コンセプトの構築と普及をおこなった。第一回システムバイオロジー国際会議 (The lst International Conference on Systems Biology; ICSB) を提唱・主宰し、さらにNPO研究機構「システムバイオロジー研究機構(SBI)」を設立するなど、この分野の創設とリーダーシップを確立しつつある。またシステムバイオロジーが総合科学技術会議の「第二次科学技術基本計画」に重点領域として取り上げられたことも大きい。しかしながら、システムバイオロジーという言葉は定着したがその中身は確立されたとはいえない。具体的な結果が未だ見えないからである。これは新しい分野であるから当然のことではあるが、総括責任者のコンセプトを明確にするためには具体的な結果を示す必要があろう。

2) システムバイオロジーのための生物データの体系的取得と解析
 2-1) 線虫胚細胞系譜自動特定システム
 システムバイオロジーのゴールのひとつは、生命のコンピュータシミュレーションである。このためのベストの系のひとつが線虫発生である。線虫は受精から成虫までの細胞分裂パターン(細胞系譜とよぶ)が明らかにされている。これが乱されると発生はうまく進まない。細胞内の遺伝子の働きと細胞間のやりとりの総体が発生を司っている。これをシミュレーションするためには遺伝子から細胞、組織まで様々な階層でのデータ収集が必要である。多細胞生物では細胞の配置は極めて重要である。どの遺伝子の異常がどのような細胞配置の異常につながるのか、これを体系的に解析するが、細胞レベルでのシミュレーションに必須である。線虫は透明であり、発生過程が生きたまま観察できるが、細胞系譜の解析は非常に時間のかかる作業であった。時系列の連続顕微鏡画像から細胞系譜が自動的に生成されることは線虫研究者の長年の夢であった。本プロジェクトではこの課題に挑戦し、従来専門家が何日もかかって手作業でおこなっていた細胞系譜生成を数時間で自動生成するシステムを作りあげた。比較的短期間で作り上げた能力は高く評価できる。ただ、このシステムをバイオロジカルな問題に応用するには課題が山積している。それらのうちの代表的ものを次ぎに記述する。

・ このシステムは細胞核の形と位置を認識して細胞の分裂(正確にいえば核の分裂)パターンを解析するものであり、これまでに受精から25細胞程度までを解析することができている。しかし、細胞系譜を較べることで意味のある情報を引き出すには25細胞まででは明らかに不十分である。50細胞まででも不十分であり、このシステムではこれ以降はかなり困難が予想されることから、別の測定方法(例えばGFP標識マーカー)を考慮すべきである。

・ 突然変異体での細胞系譜の違いを解析することが目的であるが、変異の効果に個体差があることが多く、変異体での解析がうまくできるか早目に確かめる必要がある。方法の確立に凝りすぎないことがバイオロジーのセンスとして重要である。また、細胞系譜の解析から何を抽出するのか戦略を明確にすべきである。

・ このシステムは核のパターンであり、細胞の形は解析できない。上述のように細胞間のやりとりは多細胞生物発生にとって極めて重要であり、形の解析システム開発が望まれる。

 2-2) 染色体ダイナミックス
 1細胞期における染色体のダイナミックスのシミュレーションであり、意欲的な試みである。今のところはチュブリンのみを入れているが、細胞骨格系を始め様々な因子の関与が必要である。しかし、複雑になりすぎると解けない。どれだけの因子を想定すべきなのか、戦略が必要である。また、シミュレーション結果の評価の仕方が考えられていないように思える。

 2-3) 遺伝子ネットワーク・仮説推定システム
 すでに公開されている酵母マイクロアレイデータを用いて遺伝子ネットワーク推定システムを構築した。特色は2値化しないことであり、これにより情報のロスを少なくして精度向上をはかっている。STE遺伝子などの挙動がモデル実験で解析され、有効性が示された。ただこの種の解析は世界中で競合しており、チャンピオンデータだけで終わるケースも多い。システムバイオロジー的に応用するために、このシステムがどこまで有効であるか、早期に示す必要がある。

 2-4) G プロテイン・カスケード・モデル
 Gタンパクは創薬ターゲットの多くを占める重要タンパクである。したがって、Gタンパクの機能カスケード解明は応用的価値が極めて高い。米国でシステムバイオロジープロジェクトとして開始したGillmanコンソーシアムの情報を応用したものである。これは、Gタンパクを始めとする重要な生化学反応の反応定数の体系的測定をめざすものである。大プロジェクトであり、困難も伝えられているが、国際プロジェクトとしてシステムバイオロジーの最初の成果も期待されている。この課題は、本プロジェクトの後半活動の中心となることが予想されるが、その理論的中心として世界に存在感を打ち出せることを期待したい。

 2-5) 細胞内タンパク質局在高精度測定システム
 分裂酵母を用いたきれいなデータが示されたが、データを提供した平岡研究室の成果の域を出ていない。今後は、システムの改良もさることながら、早期に、上記c)およびd)の基礎資料として活用してその有効性を検証するのが望ましい。

3) 生物シミュレーションシステム
 BioDrive 及びBioCalculus という生物システムシミュレーション環境とその記述形式は、SBW・SBMLにリソースを集中することにし、タスクを統合している。

4) システムバイオロジーワークベンチ
 システムバイオロジーに関わるソフトウェアの基盤の形成。コンソーシアムを組織し、標準化を模索している。このプロジェクトは、CALTECH 側のHamid Bolouri が中心となってコンソーシアムを結成し、標準化を進めている。標準化案原案は、前述の2000年11月のICSBで発表され、2001年11月のICSB・2001でリリースを行った。

5) システムバイオロジーソフトウエア標準化コンソーシアム
 システムバイオロジーワークベンチを核として、システムバイオロジーに関係するソフトウェアのグローバルスタンダード(国際標準)を制定することを目指している。当プロジェクトとCALTECH が中心となり、慶応義塾大学、ローレンス・バークレイ研究所、コネチカット大学、米国ゲノムリソースセンター、AstraZenica 社などが参加している。2000年4月末のCALTECH でのワークショップや、2000年11月のICSB 等で標準化を提唱しているSBML (Systems Biology Markup Language) の、レベル・の仕様を、昨年度後半公開し、2001年3月にレベル1仕様を決定。レベル2仕様を2002年末に公開予定。その後さらに本仕様を実装したインターフェースソフトウエアを開発、公開の予定である。

6) 疾病モデル
 ガンの疾病モデルの構築を開始した。分子レベルでの疾病モデルは、例が無く、時間がかかる課題であるが、プロジェクト後期での重要テーマとなる可能性が高い。2000年10月5日、日本癌学会での北野の招待講演で「ガンへのコンピュータシミュレーションからのアプローチ」と題して、最初の成果が発表されたとあるが、モデルの詳細の報告がなかったので判断できないが、後半の活動において何らかの手がかりが得られれば、重要なインパクトとなろう。

* プロジェクト発足時の計画書では、ショウジョウバエのシミュレーションが大きく取り上げられていたが、人員の配置とリソース、戦略を再検討し、酵母と線虫に集中することにしたので、ショウジョウバエの研究は行っていない。
* 本研究推進の中心的役割を担っている大浪グループリーダーが、2002年1月より本プロジェクトを退職し、事業団の推進するバイオインフォマティクス推進センター(BIRD)の研究員となった。それに伴い、総括責任者がグループリーダーを兼任し、これまでの線虫研究についてはBIRDとの共同研究として継続する。

2-2. 共生系知能グループ
 共生系知能グループは、複数感覚の統合を多自由度ロボット上で実現する研究と、複数の移動ロボットの協調をテーマにしている。

1) アクティブオーディション
 視覚情報処理の理論であるエピポーラ拘束を用いて、音源の同定法を開発したことは、興味深い視点であり高く評価する。一方、聴覚と視覚(さらにポテンショメータ)の融合(センサーフュジョン)法を用いてロボットによる認知のシステムを構築したとする点については、80年代から継続されてきた研究の範囲を越えるものと認めることは困難であった。現在のロボットは主に首を振るだけの応答なので、今後は、さらに一歩進んで認知のモデルに切り込んでいくことを期待する。
 本成果はRoboCup-2000などの分野に応用されて、この分野の研究が社会的に認知される大きな、おそらく誰も為し得なかった貢献を行った。この成果は、ERATOという探索基礎研究のなかで生まれた予期せぬ成果として評価委員は高く評価するものである。ただし、こうした社会的認知は、一方でロボット研究を表層的なものとして、地味な基礎研究を軽視する風潮を作り上げる危険もまた評価委員より述べられた。同じ危惧は、事項で述べるロボットデザインにもあてはまる。従って、今後は、共生系知能の成果を充分にあげて、RoboCupやロボットデザインは、大きな副産物成果として位置付けることを望ましい。

2) ロボットデザイン
 本成果は、松井研究員が中心となり、メディア的には、共生系知能グループで最も注目された。2000年末、国際ロボットデザイン委員会(IRoDA)を設立し、新分野の創設という明確な成果展開を行っており、デザイン関係者に大きなインパクトを与えている。小型ヒューマノイドロボットPINOは、2000年6月のヴェネチアビエンナーレ国際建築展に正式に招待展示され、ロボットデザインの先駆けとして国際的評価を受けた。また、ヒューマノイドロボットSIGとPINOのデザイン、及び、ロボットデザインという分野の創設に対して、通産省の認定する2000年度グッドデザイン賞が贈られた。一方、PINOの意匠に対し、東芝EMIより、宇多田ヒカルのプロモーションビデオに使用したいと要請があり、それを機に技術展開を行うために2001年1月30日に設立されたZMP社を経由して、意匠のライセンシングを行った。日本科学未来館にも納入され、シンボル的な役割を担っている。また、2001年7月には、ZMP社からのライセンスをうけたツクダオリジナル社が、PINO関連商品を市場展開している。今後さらに数体のロボットを試作し、この分野の創造を行う。なお、松井グループは、2001年9月にスピンオフし、ロボットデザインおよびサイエンス・プレゼンテーションを専業とする企業を設立した。

3) 二足歩行ヒューマノイド
 共生系知能グループの研究の発展として、今まで上半身だけであったロボットを全身に拡張した。ヒューマノイドロボットPINOの基本機構は、極めて短期間に開発する事に成功し、2000年6月に完成した。二足歩行実験は、モーターが脆弱な状態での簡単な歩行は実現したが、スムーズな歩行にはさらに高価かつ強力なモーターに置き換えることが必要であり、現在これに関わる改造を行っている。また、トルクに制約のあるモーターで歩行を可能とする理論の研究、さらに、進化的に歩行パターンを学習する研究を開始した。これらの方法と、ホンダやソニーが使っている従来型の、三種類の歩行方式の優位性評価を行い、本プロジェクト方式が、エネルギー効率的に優位であるという結果を得た。PINOの研究は、フランス、イタリアなどから共同研究の要請がなされるなど軌道に乗っている。また、PINOを中心とし、本プロジェクトで生みだされた二足歩行ロボットの技術の産業化・技術移転を行う会社「ZMP社」が、2001年1月30日に設立された。以上述べた如く、本成果の産業面として成功は疑う余地がないが、ラジコンサーボを用いたヒューマノイドロボットの開発自体に特に科学技術としての新しい側面を見出すことができない点を指摘しなければならない。
 2001年夏には、MORPHという35 cm程度の大きさの新型ヒューマノイドが完成した。これは、古田研究員が前任の青山学院大学において富山教授と共同開発してきた成果を、プロジェクトにおいて急速に進展せしめた成果である。基盤技術は、前述のラジコンサーボによるヒューマノイド構成法と、独自のサーボアンプや基板設計などである。この従来発表されているヒューマノイドを遥かに上回る運動性能を有するロボットは、完成度の高い要素技術を開発した成果とみなすのが適当と思われる。

4) 分散強調システム・災害救助システムカーネル
 複数ロボットと環境に埋め込まれた複数カメラ・センサーが強調的に状況を認識するシステムとそのカーネルソフトウェアを開発中。既に、分散処理カーネルは、プロトタイプの開発が終了しており性能評価に入っている。このカーネルは、RoboCup-Rescue のシミュレーターカーネルに採用されており、国際標準になる予定である。本シミュレーションシステムは、災害救助などの状況を想定しての開発が進行しており、2000年、ICMASなどでその成果のいくつかを発表した。このような災害救助などの状況設定は、本プロジェクトで従来から扱っていたサッカーよりも複雑であり、研究的に多くの進展が見込まれるだけでなく、社会的・産業的にも注目を集めている。この研究の中核部分は、RoboCup-Rescueシミュレーターに採用され、国際標準になりつつある。また、携わった非常勤研究員の古藤氏は、IPAの独創ソフトウエアプログラム(いわゆる、天才ファンド)の助成対象となり独立、大田氏は、学位取得後、産業技術総合研究所でポジションを得て研究を継続している。また、この技術の発展は、現在、米国空軍基礎科学研究資金(AFOSR)の助成を得て、独立したプログラムへと発展している。

5) 研究継続の仕組み
 プロジェクト終了後に研究を継続していく仕組みとして、下記の2つのNPO研究機構をすでにたちあげ、活動を開始している。
 ‐システムバイオロジー研究機構
 ‐国際ロボットデザイン委員会(IRoDA)

6) 産業展開
 研究成果からの事業化の際に必須となる工業所有権の出願を積極的に行っており、さらにタイミングをはかってベンチャーをスピンオフさせつつある。
 ‐株式会社ZMP
 ‐フラワーロボティクス株式会社

7) 出版活動
 著書、学会誌論文、国際会議論文も多数発表されており、この面からの活動も十分おこなわれている。ただし、共生系知能グループから発表されている多くの論文は、これまでのところ、国内外の権威ある学会誌や学会におけるものが多くなく、AAAIや IJCAIなどの会議論文が数編、さらにこの分野で最も権威あるとされるIEEE ICRAへの発表論文はRoboCupに関する1件であるので、今後は、この面の改善が望まれる。

3. 結語
 北野共生プロジェクトは、発足から3年が経過し、その間、インフラの整備、研究の立ち上げ、研究課題の探索が行われた。いくつかの探索的研究は、いまだ模索の段階にあり、現時点ではっきりした評価コメントを出すことは難しい。特にシステムバイオロジー研究は、まだ模索の段階であるが、世界的にみても同様であり、最初のブレイクスルーが待たれる。この分野の開拓者として成果を期待したい。
 これまで、ロボットデザインや二足歩行ロボット、さらに線虫研究の一部が、プロジェクトからスピンオフした、あるいは近い将来スピンオフする予定である。こうした積極的なスピンオフも本プロジェクトに見られる一つの特徴と思われる。プロジェクトには、いくつかの有望な成果も見られる。今後は、これら有望な成果が、新たな産業へと巣立っていくことを目的とした目的志向の研究体制へ転換することを勧める。

This page updated on November 5, 2002
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