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大津局在フォトンプロジェクト中間評価報告書
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総括責任者 大津元一(東京工業大学大学院総合理工学研究科 教授)
研究体制: 理論解析グループ 研究員 小林 潔 他1名
ナノフォトニクスグループ 研究員 八井 崇 他5名
アトムフォトニクスグループ 研究員 戸塚弘毅 他1名
評価委員 飯塚 清 ニコン事業開発センター 主幹
北野正雄 京都大学大学院工学研究科 教授
塚田 捷 東京大学大学院理学系研究科 教授

 

1. 研究構想とその具体化状況
 本研究プロジェクトは、光の波長よりもずっと小さい空間に閉じ込められた光の本質を理論と実験によって解明し、このような光を利用するための技術と、これを実現する物質系の生成法の開発を目指すものである。その基本的な構想は、通常の光技術で用いられる伝搬する光の限界を超えて、ナノメータ以下の空間領域に局在する近接場光の性質とその物質との相互作用を解明し、これを用いた原子操作法や物質の超微細加工技術の基礎を確立し、さらに超小型光素子への応用を探ることである。これを実現するための具体的な推進課題として(A)近接場光の本質を見通しよく記述する理論体系の構築、(B)近接場光の発生と、物質との極微細相互作用を利用したナノ構造物質の創成、および(C)原子と近接場光との相互作用の解明とこれを利用した原子操作法の開発を取り上げている。これらの研究は近接場光の本質と、その誘導する物質現象の解明という光・物質科学の基本的な問題として、その解明に興味がもたれるばかりではなく、光による原子系の操作法の開発、近接場光によるナノテクノロジー材料の創成、画期的な光技術の開発という応用展開にも大きな期待が寄せられる。
 これらの推進課題を効率良く実施するために、(1)理論解析グループ、(2)ナノ・フォトニクスグループ、(3)アトム・フォトニクスグループの3つのサブグループを作り、お互いの密接な協力研究のもとに、各グループが上記 (A)〜(C) の各課題を責任をもって推進している。研究場所は東京都町田市鶴間の天幸ビル17の4階フロアである。またこの研究実施場所は、プロジェクトリーダーである大津教授の研究室の所在する東京工業大学長津田キャンパスに近く、種々の点から好都合である。本プロジェクトは1998年の秋に発足し約3年経過したが、立ち上げ時には研究室の整備、装置の導入などかなりの準備期間が必要であり、実質的な研究期間は2年程度と思われる。以後詳述するようにこのような短期のあいだに特筆すべき大きな成果、あるいはその芽になるような成功が相次いでいる。この点から見ても本プロジェクトは順調にスタートし、かつ良好な進捗状況にあるといえる。現在までの成果の中には、各グループから得られた個別的な成果はそれぞれが新しい展開の芽を含む。現段階ではこれらがコヒーレントに一つの画期的な技術革新にまで集約されている訳ではないが、今後の展開によってそのような大きな発展の可能性は十分にあると考えられる。

2. 研究の現状と今後の見込み
  2-1. 理論解析グループ
 現在までに光近接場の基礎的な理論の構築を完成しており、これを用いてアトムフォトニクス系やナノフォトニクス系の理論解析が可能となっている。この基礎理論では、光と物質系をともに量子論的な枠組みで記述する定式化がなされ、直感的あるいは現象論的なモデルの基礎を構築する。特に射影演算子の方法によって、微視的な系の有効相互作用を導くことに成功し、探針と試料間には湯川ポテンシャルの形で表される有効相互作用が働くことが示された。この理論的な定式化は、既存の理論との詳細な数値計算の比較検討によって、十分に正確なモデルを与えることを確認した。
 さらに上記の理論のアトムフォトニクスへの応用として、プローブ探針による原子捕獲の問題を理論的に解析した。探針の物質特性、形状などにより、冷却原子がどのように偏向されるかを効率良く予測することが可能となった。また冷却原子を捕獲する条件など、単一原子操作の基本的な条件を理論的に予測できるようになった。ナノフォトニクスの理論としては、光近接場を介する量子ドット間の有効相互作用の基礎を明らかにした。具体的に考察した問題は、3つの量子ドットからなる系の光近接場相互作用による励起エネルギー伝達のスイッチ機構である。第1ドットから第2ドットへの励起エネルギーの伝達を第3ドットの状態を制御光で変化させることによってスイッチできることを示した。これはナノフォトニクスグループで行った実験の基礎的な理解を与えることになった。
 現実的な系での近接場光の状態を記述する取り扱いやすいモデルの開発は、実験上の条件に即応して様々な理論解析を行う上で極めて重要である。この意味で本理論班の現状は、極めて満足できる状態と考えられる。また、アトムフォトニクスの実験グループおよびナノフォトニクス系の実験グループとの連携も非常によい。実験グループと密接に協力することによって、本プロジェクト全体としての有効な成果を生み出すことに大きく寄与している。
 今後の課題としては様々な展開が考えられるが、光スイッチの動的過程の理論は基礎的な立場からも興味深い問題を含んでおり、理論として本格的に取り組みさらなる発展を望むべき問題である。また、光化学反応の理論的な予言は重要である。化学反応に関係する理論は、このグループでの実績は必ずしも見えていないが、ナノフォトニクスグループでの研究との連携を考えるとき、そのような方向は極めて重要である。積極的に挑戦することを期待したい。その他、理論の立場から本プロジェクトの一環として今後進むべき方向が広い観点から模索されており、十分に興味深い成果が得られると思われる。

2-2. ナノフォトニクスグループ
 このグループの現在までの主要な成果の一つとして、近接場ファイバプローブの押し付け法による開口作成法、およびその評価法の開発があげられる。この方法は他の方法に比べて簡便で、近接場光の基本的実験技術に大きく貢献するものである。その他、水銀アマルガム化によるプローブ金属遮光膜の改良やアルミニューム金属遮光膜酸化による開口作成法の開発も、高性能近接場プローブを実現する上で重要な進歩である。突起型シリコンプローブでは理論解析によるプローブ形状の最適化を行って、従来より強く局在した近接場光を発生させることができた。また紫外分光用のプローブとして優れた特性をもつ中空型シリコンプローブの作成にも成功した。以上のような各種近接場光用のプローブ開発において、際立って重要な成果を上げつつあることが印象的である。
 次にナノスイッチ材料の創成とその基礎物性に関する成果として特筆すべきことは、近接場光による化学気相堆積法によってナノスケールの亜鉛量子ドットの作成に成功したことである。近接場光の局在したエネルギーや近接場光に固有なメカニズムによって、局所領域の光化学反応を誘起できたことは興味深い。これはナノ構造を創成する新しい有力な方法として注目される。また近接場光における禁制則の破れ、あるいは2光子過程の誘起などと関係して、そのメカニズムの解明も興味深い。
 量子ドット系を用いた近接場光の伝播やその制御に関する基礎実験でも、興味深い結果が得らつつある。量子ドット間の光近接場を介したエネルギー移動現象の観察とその部分的な制御を、NaClマトリックス中に分散させたCuCl量子箱を用いて試みた。理論解析グループにおける理論を用いて、制御量子箱の励起によって、入力量子箱から出力量子箱への励起子の移動が制御できることが予測されるが、サイズの異なる量子箱からの発光ピークの空間強度分布の時間測定から、そのようなプロセスを見い出した。今後、この現象をさらにより確実に検証することは、興味深い課題である。本グループで観察したもう一つの興味深い光近接場の現象は、シリコンナノ微結晶からの縮退準位間の遷移による発光である。この現象はプローブの近接によるスイッチ動作を可能とするため、将来デバイスへの発展が期待できる。
 ナノスケールの光集積回路を外部の光デバイスによって制御するには、ナノスケール光導波路が必要である。この光導波路に用いるための金属コートしたシリコンウエッジを作成した。これはくさび形状シリコンの側面とエッジを金属コーテイングして、背面から照射した伝搬光をプラズモンに変換して、近接場領域に導くものである。このような導波路が十分な特性をもつことも確認した。このように本研究グループでは様々な側面で、ナノスケール近接場光デバイスの機能と関係する基本特性を明らかにし、それらを実現する物質系の生成に成功している。中間経過としては、十分な進展状況といえる。後半期は実用化も視野において、これらの研究を一層発展させることを期待したい。

2-3. アトムフォトニクスグループ
 グループが目標とした課題は、近接場光による原子操作法、および近接場光で操作する冷却原子源の開発である。原子操作には原子偏向と原子トラップとがあるが、それらを実現するための試験研究を行なって、目標とした性能を達成することができた。すなわち原子偏向については、フォトリソグラフィー法と異方性エッチングを用いて、スリット幅100nm、スリット長 100μmのスリット型原子偏向器を試作した。スリットの片側は、スリット部に近接場光を誘導するためレーザー光を導入できる構造とした。またV溝側から2波長のレーザー光を導入して、2色の近接場光を誘起できるスリット型原子検出器を製作した。スリットに侵入した原子は、この近接場光でイオン化され検出される。近接場光の強度分布から100 nm以上の空間分解能を確認し、検出器として十分な性能を実現した。さらに近接場光によるイオン化実験を行い、10 m/s以下の速度の原子に対して、20% 以上の検出効率があることを確かめた。一方、半導体レーザーによる2段階共鳴励起による検出法についても研究し、10% 程度の検出効率を実現した。
 原子トラップについては双極子引力とファンデアワールス斥力をバランスさせて、トラップポテンシャルをファイバープローブ上に作る方法を研究した。すなわち十分深いトラップポテンシャルを形成することが可能なファイバプローブを製作し、その近接場光の強度分布を測定した。またRb原子をトラップするのに必要なスループットを得るための先端テーパー部の形状を決定した。この際、理論解析グループの理論式を用いてトラップポテンシャルの評価や、その条件を導いている。
 近接場光操作用励起原子源の開発については、ドーナツ型の光ビームを実現し、これによって励起した近接場光ファネルを利用した。この装置では、十分に冷却された原子はプリズム底部の細孔から下方に導かれるが、10μKに冷却したRb原子の生成が確認された。ドーナツ光ビームの生成には中空ファイバーを用いたが、より制御性の高い光学系の干渉による方法も開発した。すなわちガウシアンレーザー光ビームを2本に分割し、その位相をPZTアクチュエーターで制御・干渉させラゲール・ガウシアンビームに変換する方法である。後半期にはこれらの先導的研究をさらに充実発展させて、原子の近接場光による有効な操作法を確立することを期待したい。

3. 研究成果の状況
 上述した前半期における成果は、13報の原著論文、10報の総説・著書、76件の学会発表として公表された他、8件の特許申請がなされ、また1件の受賞がある。本プロジェクト研究が活発に推進されており、格段に進捗している状況がうかがえる。

4. 結語
 以上に述べた現況を総合的に判断すると、本プロジェクトが発足してから現在までの期間に多くの注目すべき研究成果が生み出されており、当初の目標は十分に達成されたと考えられる。スタート時点では予測していなかった意外な成果も幾つかあり、これらはさらに今後の研究の推進を加速すると期待される。研究代表者が十分なリーダシップをとり各グループの長所を生かしつつ、その有機的な協力のもとに研究を推進していることが印象的である。これまでに得られた成果は後半期にさらに継続し発展させて行くことが望ましいが、前半期に開発された要素技術を一つの体系的なシステム技術として充実しまとめあげることも期待したい。

This page updated on November 5, 2002
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