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加藤たんぱく生態プロジェクト事後評価報告書
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総括責任者 加藤誠志(相模中央化学研究所 主席研究員)
研究体制: 蛋白解析グループ 研究員 逢坂文男 他3名
局在解析グループ 研究員 伊藤巧一 他3名
動態解析グループ 研究員 岩室祥一 他4名
評価委員 谷口寿章(理化学研究所播磨研究所 チームリーダー)
古谷利夫((株)ファルマデザイン 代表取締役社長)
松原謙一(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 教授)
Marius Sudol(Mount Sinai School of Medicine at NYU Associate Professor)

 

1. 研究の内容
 1997年に酵母の全ゲノムシークエンスが決定されたのに続き、線虫、ショウジョウバエ、アラビドプシス(植物)等のゲノムシークエンス決定作業が完成し、ヒト(30億ヌクレオチド)も87%がドラフトシークエンスとして近く発表の目途とされている。さらに数十に及ぶ微生物のゲノムデータが存在している事を考えると、ゲノム解析プロジェクトが当初宣言した「ゲノムに担われているすべての遺伝子をリストアップする」という目的に我々は大いに近付いたと言って過言ではない。
 しかし、シークエンスから得られるのは、ゲノムDNAに並べられた遺伝子の存在位置と、それぞれの遺伝子が指令するアミノ酸配列情報に過ぎず、現在の我々の知識ではその情報を基にして遺伝子産物の働きを正しく予測することは容易でない。このため、新規に沢山発見された遺伝子産物の働きを決定しようということがきわめてアップトウーデートな課題として浮上している。さらに新規遺伝子の機能を知ることが特許取得の条件という国際社会のコンセンサスが加わって、遺伝子の働きの決定はますますホットな課題となった。
 本プロジェクトは、出発時点2000個の完全長cDNAクローンを持っていることを利点と捉え、(T)蛋白解析グループ、(U)局在解析グループ、(V)動態解析グループ、の3つの研究グループを組織してこの課題に挑戦した。なお、「たんぱく生態」という漠然としたタイトルからは、プロジェクトが個々の遺伝子産物の働きを決めようとする以外に当初から他の目的も併せ持っていたのかどうか明らかでない。しかし、もし持っていたとすれば、「それらはどのような調節を受けて発現するか、産物の細胞内存在状態や翻訳後の修飾はどうか、あるいはそれらの細胞内輸送、局在、他の成分との相互作用、分解はどうか」などの問いを発し、情報の収集に最初から取り組んでいたことであろう。参考までに記すと、我が国のゲノムプロジェクトは10年前の発足当初からcDNA解析に力を入れており、5年前には完全長cDNA作成(菅野純夫、東京大学医科学研究所)、最適発現ベクター開発(加藤誠志、相模中央化学研究所)、発現頻度測定(大久保公策、大阪大学細胞工学センター)などにおいて世界をリードするレベルに達していた。
2. 研究成果の状況
  2.1. 研究成果の概要
 2000個の発現可能なcDNAクローンを活用するにあたって、当初は「それらをどんどん発現させて遺伝子の産物を生化学的に調べあげよう」という線で作業に取りかかり、少なからぬエネルギーを費やした模様である。しかし、クローン毎に「発現量を上げ、精製し、性質や活性を測る」という生化学的なステップはいずれも時間喰いで、スピードが出なかったことは否めない。本プロジェクトの成果としてglycosylationや細胞増殖等に関わる興味深い遺伝子産物が報告され、関連分野の研究者の注目を引き評価されている。さらに、この研究が機能から攻めても捕まらない遺伝子産物を捕らえる方法論となったという主張もうなづけるが、とにかく機能決定のできた遺伝子の種類はあまり多くなかった。このため中間評価においては、「大量のcDNAクローンを持ち、それらを調べ尽くす方法論の開発」に期待した人々から「成果は部分的であり、若干の遺伝子産物について生化学をしただけ」という厳しい評価を受けてしまった。「たんぱくネットワーク」という生化学にとっても分子生物学にとっても意味の明確でない標語も、批判を受ける一因となった模様である。このために本プロジェクトは途中から大幅な軌道修正を行って「どのような機能解析をするか、どうやって多数のクローンを網羅的に解析するか」という新たな方法論の開発に重点を移した模様である。このような開発の方法論は現代のニーズそのものであり、世界中にスタンダードと言えるものは無い。またこの研究開発は、個々の遺伝子や蛋白質を対象に機能解析を行ったり、個々の生命現象を調べ進む通常の研究姿勢とは大きく隔たったものであることに注意する必要がある。
 軌道修正後に、本プロジェクトでは、@ 遺伝子産物局在の調査(ウロキナーゼ分泌、GFP の利用)、A 2-ハイブリッド解析の導入による蛋白質間の相互作用の調査、B 強制発現による細胞機能の変化の観察、C cDNA注入による免疫、D in vitro翻訳系を活用した生体分子の相互作用の解析、などが新たに実行された。
2.2. 研究成果の状況
2.1.1. 蛋白解析グループ
(1) NEDD8修飾とその細胞周期の制御機構
 NEDD8蛋白質の分子機構を発見し、そのubiquitin様蛋白質修飾系が細胞周期の制御に機能することを示した。
(2) 細胞内蛋白質のO-glycosylation
 米国の研究グループによって既に報告されている細胞内蛋白質の糖鎖修飾系であるO-GlcNAcylationの他に、O-glycosylationを新たに同定し、細胞内糖鎖修飾系が従来の予想をはるかに越えて広く細胞内機能調節に拘わる可能性を示した。
2.2.2. 局在解析グループ
(1) cDNA 免疫法の開発
 cDNAを直接動物に注入することにより、従来の手法では難しかった膜蛋白質や不安定な蛋白質に対する抗体を安定に作成できることを示した。
2.2.3. 動態解析グループ
(1) Npw38-NpwBP複合体
 Npw38-NpwBP複合体を発見し、そのmRNA代謝における役割を研究し、その結果新しいタイプのWWドメインによる機能的結合反応の様式を明らかにした。
(2) 2-ハイブリッド局在化法
 2-ハイブリッド法とレポーター融合蛋白質法(ウロキナーゼ分泌、GFP の利用)を組み合わせて、光学顕微鏡レベルで蛋白質―蛋白質相互作用の局在性を示した。
3. 研究成果の科学技術への貢献
 本プロジェクトからは、glycosylationや細胞増殖等に関わる興味深い遺伝子産物が報告されて関連分野の研究者から評価されている。また、膜蛋白質に対する抗体の作成、in vitro翻訳産物と相互作用する物質、特に結合型相互作用物質の研究、修飾系のスクリーニング等に適用できる解析法の試行も評価できる。一方、急速に変化しつつある今日の研究環境の中で発足時点で持っていたアドバンテージを十二分に活かし得たかという事になるとかなり厳しい点をつけざるを得ない。
4. 波及効果
 本プロジェクトの成果は、「これからの仕事の進め方について大いに経験を積んだ」と評すべきであろう。
5. その他の特記事項
5.1. 今後の指針
 本プロジェクトの経験をふまえて、さらなる研究の継続のためにどのようなことに配慮が必要かについて考察したい。
(1) どのような機能に着目するか
 2000クローンを調べる事が如何に大変かということは良く分かった。ところが今日ではヒトのゲノムがほぼ解析されて予想される遺伝子がはるかに大量に存在しており、ゲノム研究的思考法によって全体像を提示するよう強く求められる時代である。この矛盾した状況に力づくで対処できるのは約6000の遺伝子を持つ酵母のレベルまでであろう。その6-7倍の遺伝子を持つヒトゲノムを対象とする場合には「どのような機能に着目するか」を選択することが解決の一方法ではないか。前出 @-D のどれか一項(それ以外にも色々とありうる)をこのような視点によって選択し、高速化する方法論を編み出せば大きなインパクトとなるであろう。
(2) 出発材料(ライブラリー)の考察
 バンク作りは本プロジェクトの守備範囲外のことであったが、今後の展開を考えるならば、どのようなcDNAの集団を選択するかが極めて重要である。つまり、単に「何かの細胞」から採った2000個のクローンではなく、重要な機能を持った細胞から大きなライブラリーを作るべきである。
 本プロジェクトでは当初手にしていた2000個のcDNAクローンを解析することに作業が限定されていた模様だが、これは妥当でなかった。言い換えると、実体がどのようなものかあまり良く分からないcDNAの解析に固執するよりも、「面白い」遺伝子を沢山含んでいることが明らかなライブラリーの解析のほうがベターであったと思われる。或いは途中でそのように計画の変更を認めるべきであった。これは任意のcDNAを解析するという姿勢の放棄ではある。しかし、神経系や心臓などの臓器の形成途上にある細胞内で活性な遺伝子群の全体像や、免疫担当細胞の膜に表出している蛋白質の全体像、毒性物質あるいは疾患により撹乱される細胞機能の全体像等の研究の意義について改めて論ずる必要は無いであろう。
(3) 情報科学を駆使する必要性
 今後は圧倒的に進歩の速い情報科学の成果を取り入れる事が不可欠である。このためには解析すべきクローンのシークエンスは全て自ら持つところから出発するべきである。不十分とは言え、今日ではアミノ酸配列解析から予測される蛋白質の約半分について、その性質の予見ができる。DNAチップのように大量の遺伝子のデータを素早く可視化する手法を持たぬこの種のプロジェクトでは、一つ一つの遺伝子について調べ進んでゆかなくてはならない。従って、解析の対象とするクローンの選択、あるいはその優先順位を決めるのに情報科学活用の重要性はいくら強調してもし過ぎることはない。特定の細胞で(或いは特定の機能に関連して)働いている膜蛋白質、キナーゼ、ホスファターゼ、分泌蛋白質、リガンド、リセプター蛋白質等の全貌を解析することはその例であろう。
(4) その他
 細胞とはどのような蛋白質構成なのか、細胞内にはいくつくらいの相互にリンクした反応系(例えば一つの遺伝子の変化で変動する遺伝子のセットの数)があるか等の研究なども生物型とゲノム的思考による解析との組み合わせの一例であろう。
5.2. ネットワークの活用
 最後に、大規模広汎にわたる研究は人的ネットワークにこそ頼るべきであって全部自分達でやろうとするべきではない事を指摘しておきたい。ERATOにおける孤立化の恐れが度々指摘されている模様であるが、知らず知らず他との協力関係が薄くなるケースが少くない。

This page updated on August 6, 2001
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