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井上光不斉反応プロジェクト中間評価報告書
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評価委員
甲斐 学 ダイセル化学工業(株) 常任顧問
z合憲三 東京理科大学理学部 教授
徳丸克己 筑波大学 名誉教授

 

1. 研究の進捗状況と今後の見込み
1.1. 緒言
 本研究は光の作用によるキラリティー (不斉) の創出 (Photochirogenesis) とその増殖と伝播を目標とするもので、(1) 絶対不斉合成、(2) 不斉光増感、(3)超分子光化学の3グループにより進められている。本中間評価において井上総括責任者をはじめグループリーダーの諸氏から研究状況を聞き、また実験棟を見学した。その結果、評価者全員が、本研究が開始後3年の間に、未踏と言える分野の開拓に際し、予想を上回るほどの成果を挙げていることを認めた。
  1.2. 研究構想の具体化状況
 以下に述べるように、研究構想は充分に具体化されつつあり、これは総括責任者のリーダーシップとともに熱心な研究者諸氏とともに研究の管理や知的所有権の取り扱いの実績と経験に富む参事の諸氏の努力に負うものである。
1.3. 未踏の課題への挑戦状況
 光の照射によるキラリティー創出の試みは古いものの、その程度は極めて低いものにとどまっていたが、本研究はその程度を初めて実用に近いレベルにまで引き上げるのに成功している。
 光による絶対不斉合成に関しては、円偏光による不斉合成は、物質的不斉源を必要とせず、さらに生命の起源にかかわる反応としてかねてから関心が高く、いくつかの試みが行われてきたが、本研究では、世界に先駆けてシンクロトロン挿入光源のヘリカルアンジュレーターからの真空紫外領域の波長可変、偏光可変の円偏光を用いて絶対不斉合成に成功した。この成果は、さらに地球上における生命の発生の経路についての実験的検証を与えるもので、国際的な評価も極めて高い。さらに、紫外線領域の2光子の励起による絶対不斉合成については、ごく最近に近共鳴2光子励起の現象を発見し、これによる2光子絶対不斉合成の成功は、現在はその光学収率が必ずしも高くはないものの、極めて新しい手法として特筆される。
 またキラルな増感剤を用いる不斉合成については、新しい増感剤の開発により、生成物の光学収率が多くの場合に50%以上、場合により100%にも及ぶ従来の10倍あるいはそれ以上に達するきわめて高い値を達成している。しかもこれらの系では、生成物のキラリティーが温度により逆転するという一見異常な現象を発見している。これに加えて、これは、この反応が、多くの反応がもっぱらエネルギーあるいはエンタルピーによって支配されるのとは異なり、もっぱらエントロピーにより支配されることに基づくことを明らかにし、さらに、その上、これが分子認識等分子間の弱い相互作用がかかわる多くの現象の理解に展開することを示し、新しい「エントロピー化学」の幕を開いている。またシクロオクテンが各種の置換基の導入によりそれぞれ特徴ある挙動を示すことを明らかにしている。
 超分子系を反応場とする不斉の創出に関しては、シクロデキストリン、さらにDNA を用いて分子キラリティーの伝播を明らかにしている。
1.4. 研究者の参集状況
 国内の大学や企業からの多くの研究者のみでなく、欧米等海外からの研究者も参集し、しかも研究の経歴や背景を異にする研究者らが相互に特徴を活かしながら、活発に研究に参加している。本プロジェクトに限らず、一般に国際的に有力といわれる雑誌上での求人広告は研究の宣伝にはなるものの、極めて適切な人材の採用には必ずしも適さないという話をしばしば耳にするが、本プロジェクトにおいても、とくに総括責任者と光化学等の分野で日頃交流のある海外の有力な研究室からの研究者が参加しているのは、総括責任者の上質の国際的ネットワークによるもので、高く評価できる。
1.5. 施設・設備の整備状況
 施設・設備は、他の終了したプロジェクトのものの再活用を含め、かなり整備されており、なかでも、たとえば超低ドリフト・低ノイズ・高感度の改良型円二色分光計は世界の最高水準の精度に達し、これと高分離キラルクロマトグラフの整備によって、微小な分子キラリティーの検出が可能になっている。しかし、研究棟が道路や隣地と接近して立地しているので、道路の劣化にともなう震動の問題、また不測の電気の故障等による排気や排水の問題により研究に支障を来さないよう事業団にも充分の配慮を期待したい。
1.6. 今後の見込み
上に述べたように、光によるキラリティーの創出に関し、きわめて高い異方性(g) 因子を持つ化合物を見出し、適切な偏光源を活用し、際だって高い先駆的成果を挙げつつあるので、今後このような線に沿って研究が展開し、効率の高い不斉合成の達成など光の作用によるキラリティー (不斉) の創出、増殖と伝播の成果にとどまらず、近共鳴2光子励起の本質の究明、さらにエントロピー化学等の科学の基本的課題への展開が充分に期待される。現在本研究プロジェクトは国際的にもこの分野においてはかなりよく知られているので、今後論文はもとより、国際会議等の場において、その成果を質・量ともに充分に発表されることが期待される。
 本研究成果の技術的利用に関しては、絶対不斉合成系を用いた分子キラリティーに基づく新規円偏光記録材料の提案の具体化、またポルフイリンの二量体がアミンやアルコールの絶対配置を決定できる機能を活用した絶対配置決定用超分子キラリティー・センサーへの展開が期待される。
2. 研究成果の現状と今後の見込み
  2.1. 得られたあるいは得られる見込みの研究成果の意義と将来性
 上に述べたように、光の作用によるキラリティー (不斉) の創出、増殖と伝播の成果は化学の世界のみでなく、生物の世界、また材料の世界への波及効果が極めて大きい。
 さらに、本研究は、その進展とともに在来のエネルギーあるいはエンタルピーの効果が支配的である化学から分子間の弱い相互作用に基づくエントロピーの効果が支配的となるエントロピー化学等新しい科学技術の流れを創造する可能性を追求することが期待される。また研究の過程で見い出された近共鳴2光子共鳴の現象は、その本質の解明と利用への展開が期待されるものである。
3. その他の特記事項
 今後の発展は、総括責任者の卓越した個性と広い視野ならびに共同研究者ら、経験に富む参事らの高い熱意と実績とその間の相乗的効果により充分に期待される。また、本研究成果の技術的活用に関しては、光の照射による反応生成物の光学収率の飛躍的上昇に基づく生理活性物質の製造、さらに上に述べた新しい材料やセンサーとしての利用が期待できる。そのために、事業団は充分な経費の交付とともに、本プロジェクトと連携して適切な研究成果をできるだけ早く、充分な請求範囲を設定した新規性の高い国際的競争力のある特許として出願することが何よりも肝要であろう。

This page updated on May 12, 2000
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