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川人学習動態脳プロジェクト中間評価報告書
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評価委員
浅田 稔 大阪大学大学院 教授
甘利俊一 理化学研究所脳科学総合研究センター ディレクター
丹治 順 東北大学医学部 教授
森 健一 東芝テック(株) 取締役社長

 

1. 研究の進捗状況と今後の見込み
1.1. 研究を取り巻く状況
 21世紀は脳の世紀ともいわれる。脳は次の世紀の主要な技術と予想される情報とバイオの結節点に位置し、バイオを素材として情報機能を実現しているからである。これだけでなく、人類の豊かな精神生活と福祉とが科学技術の直接の目標となる次の世紀では、環境問題と並んで、脳の理解とそれに適合した情報技術の発展が要求される。
 たとえば、ロボット技術の観点からこれを見てみよう。ソニーのAIBOやホンダのヒューマノイドロボットに見られる最近の活躍は、来るべき世紀にロボットが我々の日常生活に導入されることを強く示唆する。この観点から、来るべき世紀のロボットのあるべき姿を考える時、従来のロボティクスの枠組みは即物的な設計と制御、もしくは根拠の薄い表層的ななぞりの知能の実現に終始してきたことがわかる。脳科学をベースとして,総括的に研究するアプローチが今こそ必要なのである。
  1.2. 研究構想とその具体化状況
 本プロジェクトは、このような状況のもとで生理学と工学の双方に立脚して脳の情報原理を解明し、これにより科学技術の新しい突破口を開くべく構想された。すなわち、計算論的神経科学の手法を主体としつつ、生体の脳における実験的神経科学に関する深い理解に基づく新しいアプローチを提案し、ロボットをテストベッドとして使用することにより、人間の高次認知・運動機能の情報処理機構を明らかにすることを目標としている。
 その特色は、脳機能の諸要素を個別に説明しようとする従来の研究から脱皮し、入力から出力までの諸過程を統合的に理解する体系的な研究にある。このために、(1)計算神経生理、(2) 計算心理、(3) 計算学習の三つのグループを設け、それぞれが相補的に、かつ全体としては統合的に研究を進めるべく企画され研究を開始した。
1.3. 未踏の課題への挑戦状況
 本プロジェクトは、脳の情報原理という未知の最大の課題に挑むためのきわめて個性的で創造的な研究プログラムを提案している。また、それぞれのグループで、高度で野心的な研究目標と、それを解くための現実的なプログラムとを用意している。たとえば、計算神経生理グループでは、大脳基底核学習モデルを軸に、これを運動強化学習モデルから認知、思考、言語などの高次機能の解明にまでつなげることを目指している。計算心理グループは、心理行動実験と脳機能の非侵襲的計測とを結びつけることで、モジュールの統合問題、さらには結合問題の解決に迫っている。計算学習グループは、人間型ロボットをテストベッドに学習計算理論を構築実証するのみならず、視覚と運動を結合したトータルなシステムにおける並列重層モジュールの学習統合原理を明らかにしようとしている。
 この目標とプログラムはたいへん革新的なもので、脳科学において、計算論的な方法が脳解明の本命であるという新しい流れを作り出すための突破口を開く可能性を強く秘めている。またここに、脳に学ぶ新しい情報技術創出の芽を見ることができる。本研究はまさに未踏の課題へ挑戦しているといえよう。
1.4. 研究者の参集状況
 3グループにおいて、それぞれの目標に合致し、また豊富な研究体験とバラエティーに富む研究分野からの人材を国内・国外から確保し、優れた研究グループを構築した。プロジェクトが開始された直後から、研究活動は極めて活発に行われ、計画された構想に沿って順調に進行している。
 本プロジェクトの大きな特徴として、3つのグループの独立性と協力体制があり、いずれのグループも若手の元気な研究者が集まっており、さらに総括責任者の強力なリーダーシップの下で、更なるパワーアップを続けているという印象を受ける。また、外国人研究者と日本人研究者がうまくかみ合っていること、グループメンバー外の一流研究者とうまく交流していることなど、研究は軌道に乗っている。特筆すべきこととして、カルフォルニア分室がある。これは総括責任者の強い指導のもとで良く機能していて、日本のプロジェクトが国際的になるための将来のあるべき方向を示唆するものといえる。
2. 研究成果の現状と今後の見込み
 プロジェクト開始以来まだ日が浅いにもかかわらず、すでに得られた研究成果が数多く、しかも国際的に極めて高いレベルにある。研究構想と計画の適切さからして、また、すでに得られた研究実績から判断して、今後も高水準の研究成果が期待される。各グループの評価について、以下に述べる。
  2.1. 計算神経生理グループ
 本グループでは、大脳皮質の教師無し学習、大脳基底核の強化学習、および小脳皮質の教師有り学習に対応する3つの脳部位の相互作用を研究している。また、「計算心理グループ」による生理実験と心理・行動実験や非侵襲脳活動計測による検証を進めている。
 大脳皮質、大脳基底核、小脳のそれぞれに異なる学習機構を割り当てた脳全体の学習モデルを提言し、順逆モデルをユニットとした階層学習モデル、系列運動の学習のための神経回路モデルの提案、行動実験、fMRIによる検証など一連の系統的なテーマ設定の下に着実な成果をあげている。その結果、非言語コミュニケーションから言語コミュニケーションへの進展を促すモデルが提案されている。非言語コミュニケーションから言語コミュニケーションへの進展の解明は、ヒトの知性の神経科学にとって非常に重要な部分と考えられるが、どの部分が哺乳類共通、霊長類共通、ヒト特有の機構であるかが、現状では明確ではない。また、現在までの成果は、目標とする「運動から思考までを統合する新しい構想」の萌芽が見られる状態である。
 以上のように、研究構想の具体化は着実に成し遂げられつつあり、今後の発展に繋がる知見を十分に生み出しつつあるので、当面、このような多面的なアプローチを取りつつ、併せて、各研究主題の間の交流と連携にさらに努めることが必要となろう。
2.2. 計算心理グループ
 本グループでは、視覚・運動変換に関する計算理論やモデルを検証するために、PET や fMRI などの脳機能の非侵襲計測手法を駆使して、どのようにして多数の視覚モジュールが同一物体に関して結びつけられるかの問題に取り組み、知覚的意識を解明することを目指している。
 小脳に複数の内部モデルが存在することを実証し、さらに、それらの空間的配置を明らかにした。これらの成果を基にして、小脳多重順逆モデル対を提案し、小脳の異なる部位で、それぞれ使い方が異なる道具の使い方の学習モデルが獲得され、さらに、使いなれるとその学習部位が移動することも実験的に示した。また、小脳と大脳皮質が特定の部位で言語などの認知機能で相互に拘り合いがあることを明らかにした。さらに、人間の運動学習において、学習の初期には筋肉や末梢神経のフィードバックのもつ粘弾性特性による制御と小脳の内部モデルによる制御との関係を初めて明らかにして、長年の学会での論争に終止符を打った。以上の成果は海外の有力論文誌にも発表され、大きな関心を持たれている。しかし、fMRI法は、時間的・空間的解像度の不足はいうにおよばず、神経活動のいかなる要素を反映するのかが不明という基本的な欠陥を内包している。そのため、fMRI所見にのみ依拠した理論の展開には危険性が大きいので、今後は、生理学者との共同研究ないしは緊密な研究連絡が強く望まれる。
 このように、結合問題など、高次の機能の基礎にある基本問題の解決にはまだ遠いものの、優れた成果を着実にあげており、将来に期待が持てる。また、このグループはやや孤立した感があるので、他のグループとの成果の交流がより積極的に行われるよう注意して欲しい。
  2.3. 計算学習グループ
 本グループでは、人間のような柔軟な動きができ、重さや大きさが同じぐらいのヒューマノイドロボットを開発して、視覚入力からその認知、さらに認知情報の変換、運動出力の企画と運動出力までをトータルなシステムとして取り扱い、理論と実験をつなぐ試みをしている。
 このロボットは視覚、聴覚、体性感覚を持ち、腕、体、眼球運動能力を持っており、ロボットの感覚入力機能から運動出力機能の間に、並列重層的な学習モジュールによる脳モデルを配置することにより、学習計算理論の研究と模倣による学習実験の研究を統合している。実際のロボットを脳科学の検証手段として利用する点は、総括責任者の脳科学アプローチの最も突出した特徴であり、世界的にも例を見ないものと推察される。ヒューマノイドを利用した、多次元入出力学習、見まね学習、階層化強化学習など、実際のロボットの設計論に十分耐えうる成果が出ている。
 今後は、外部カメラでの観測によらずにヒューマノイド自身のカメラからの観測による模倣行動を実現し、さらに、知覚からの環境表現問題も取り扱って、総括責任者が目標の一つとしている「心の理論」の問題に関連した「他者の視点にたてる」能力を実現して欲しい。また、たとえば、手話を理解する、あいまいさに対応する、予測しない事態に対応する、社会性を獲得するなどのさらに高次元機能の学習を取り上げることも期待される。さらに全体については、ヒトとヒト以外の動物の知性が脳のどういう構造や現象として捉えられるか?また、知覚関連の問題をより広範に扱えるか?などへの期待も募る。
3. 結語
 以上に見るように、本プロジェクトは予想を越える早い展開で、世界的な成果をあげている。これは初期構想の優れていたことと、計画が周到に準備されたためであろう。当プロジェクトが掲げた目標はきわめて高く、それに向けてかくも優れた成果をあげつつあることは驚くべきことといわなければならない。とはいえ、人間の高次機能である学習、思考、言語意識、注意、コミュニケーションなどの機能を、計算論的に解明するという未踏の課題はあまりにも大きなものであり、現在までの研究成果をもってしても最初の一歩を踏み出したのに過ぎない。本プロジェクトを5年で終了して、その成果を中断せしめるのはあまりにも損失が大きいと考える。もし、延長が可能ならば、本プロジェクトを延長することを強く勧告したい。またその決定を早期に行い、決定の遅れによりせっかくの研究者のネットワークが壊滅状態になることなく、発展的にメンバーの代謝が行えるようにすることが肝要である。

This page updated on May 12, 2000
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