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御子柴細胞制御プロジェクト中間評価報告書
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1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 本プロジェクトは、御子柴総括責任者が、遺伝性運動失調マウスの小脳に欠損する高分子蛋白質を発見し、それをイノシトール1,4,5- P3結合性イオンチャネル(イノシトール3リン酸受容体、IP3R)と同定してクローニングした成果を出発点としている。おりしも、7回膜貫通型受容体刺激によって活性化されるホスホリパーゼCの産生物IP3が小胞体のカルシウム貯蔵部位からカルシウムを動員するという“PIレスポンス”の具体像が確定した時期であった。本プロジェクトの出発点は、PIレスポンスの中心を占めるIP3の作用点の解明という、優れて先駆的かつ独創的なものであり、その後の展開が、このIP3Rに焦点を絞っていることは、極めて正しい選択であり、展開自体も創造的、個性的と評価された。
 本プロジェクトでは、従来多くの研究がなされてきたカルシウムの細胞外からの流入でなく、細胞内小胞体からの放出に着眼して研究を行っている。特に、その放出に関与するイノシトール3リン酸受容体(IP3R)に焦点を当てて、IP3Rを介する遊離機構、カルシウムを介する細胞内情報伝達、及び細胞機能発現を組織的に研究している。ただし、研究対象が多岐にわたっているので、プロジェクト全体の有機的な統合に、若干の課題が認められる。本プロジェクトでの研究は、研究室を大学外に借用すること、実験系の立ち上げと軌道に乗せるまでに通常1年を要することから、研究はおおむね軌道に乗っていると認められた。

(1)機能分子・膜動態グループ
 本グループの研究で、特に独創的と思われるものは、生きた培養神経細胞の特定の部位での特定の蛋白質の機能をブロックする chromophore-assisted laser inactivation (CALI) 法の適用によって、IP3Rが神経突起の伸長の機構の解明をねらい、その結果、1型と3型の機能の違いなどを明かにした点にある。この知見は、さらに薬理学的実験によっても支持され、それらの成果の一部は Scienceに掲載された。今後は、本手法の信頼性、有効性などを確立することが望まれる。
  IP3Rの細胞内での動態に関する研究では、green fluorescent protein (GFP) を遺伝子工学的に発現させる手法を用いて、微小管に沿った経路で、細胞体から神経突起に向かう順行性とその逆の逆行性の動きを同定した。同じ手法を用いた小胞体膜状の動態に関する研究は、未熟な段階にある。本研究は、本プロジェクトの中心課題であるIP3Rの機能の全貌の解明に不可欠であるので、今後に期待したい。
  分子レベルでのIP3-IP3R相互作用の解明を、表面プラズモンを用いて実時間観測するシステムが設置されており、今後の成果に期待される。また、BIAcoreと ESI-TOFの組み合わせによる超微量の蛋白質分子量の決定も、IP3Rの今後の研究だけでなく、他の蛋白質の研究にも応用できるので、本プロジェクトの優れた副産物とみなすことができる。
(2)カルシウム動態・生理機能グループ
 本グループは、主に、シナプス可塑性及初期胚の形態形成におけるカルシウムとIP3Rの役割を研究している。
  小脳の平行線維とプルキンエ細胞間シナプスに見られる長期抑圧は、運動学習の基礎過程とみなされ、現在その機構に関する研究が世界中の多くの研究室でなされている。このグループでは、IP3Rの役割の解明を目的として、研究を行ってきた。その結果、IP3R欠損マウスでは、長期抑圧が生じないことを明かにした。また、野生型マウスにおいてIP3Rが小脳の長期抑圧の形成に必須であることを確証した(J. Neuroscience)。空間記憶などの陳述的記憶との関係が示唆されている海馬の長期増強におけるIP3Rの役割の解明も検討された。その結果、NMDA受容体等を介して細胞外から流入するカルシウムは、長期増強を誘発するように働くが、IP3Rからのカルシウム放出は、それを抑制するように働くことを示唆する。また、リアノジン3型受容体欠損マウスを使って、リアノジン受容体よりのカルシウム放出も長期増強を抑制する作用を持つことを見出した。これらの結果などから、この一連の研究は、順調に進展しているとみとめられる。
  アフリカツメガエルの初期胚の背腹軸形成において、IP3-Ca2+ シグナル伝達系が腹側のシグナルを担う可能性を調べる研究においては、G 蛋白質のなかで、Gsが関与することを見出した。この研究でも一定の前進が認められるが、本現象は、各種因子が関与するものと思われ、その機構の解明は、長期的な研究になるであろう。
  受精卵及び卵割における細胞内遊離カルシウムの役割に関する研究では、IP3Rからの放出が、卵表層の収縮運動や卵割に重要な役割を果たすことが示され、かなりの進展が見られた。それに対して、神経細胞におけるカルシウム動態の解析は未だ充分な成果が得られていない。
(3)細胞機能分子制御グループ
 一部の課題は未だ十分に遂行されていない。グループリーダーの交代がその原因の一部と認められる。そのなかでは、3型リアノジン受容体欠損マウスの作製に成功しているので、他の2グループとの共同研究が、かなりの成果をあげている。
  本プロジェクトでは、得られた成果に関して詳細な討議が行われるだけでなく、適宜共同研究がなされており、3つのグループの相乗効果が認められた。今後とも、グループ間の共同研究を通して、さらに飛躍的な成果を期待したい。
2. 研究成果の現状と今後の見込み
 現在まで興味深い結果が幾つか出ており、現在の装置や手法を用いて、新しい局面を拓く期待がもてる幾つかの課題がある。ただ、カルシウムの細胞機能という観点からは、細胞内カルシウムだけでなく、細胞外からのカルシウムも重要なので、それらも勘案した研究の遂行と議論が望まれる。また、電気生理学的手法の精度やレベルに関して若干の甘い点が認められ、今後の課題であろう。2光子励起レーザー顕微鏡が脳スライス標本観察用に設置されており、今後の活用が期待される。
(1)機能分子・膜動態グループ
 このグループが実用化したCALI法は、当面の目標である成長円錐の伸張機構の解明のみならず、標的細胞の認識機構の研究にも有効な手段となろう。さらに、種々の蛋白質の生理機能を生きた細胞で調べることができるために、神経科学のみならず細胞生物学や発生生物学研究における革新的な手法となることも期待できる。この技術の条件設定や効果などをしっかり詰めて解析することが期待される。一方、green fluorescent protein (GFP) を遺伝子工学的に特定の蛋白質に発現させる手法(既存の手法)を駆使して、IP3受容体の小胞体膜上での動きと細胞骨格蛋白質との相互作用の解析から、IP3受容体の機能の解明に関して新しい局面を拓く可能性がある。
  本グループが見出した神経成長円錐におけるCa2+動態は、非常に重要な研究課題である。今後は、カルシウム動態・生理機能グループとの共同研究として、神経成長円錐におけるCa2+画像解析法(本部位は小さく薄いために未だ確立されていない)を開発し、さらに研究を進めることが期待される。
(2)カルシウム動態・生理機能グループ
 海馬のシナプス長期増強へのIP3受容体とリアノジン受容体の関与を見出した知見は、長期増強(LTP)の誘発機構に関して、従来の仮説の変更をせまる可能性があるインパクトの強い発見であるが、パッチクランプ法など精度の高い手法を用いて、さらに補強する結果が期待される。ただし、長期抑制(LTD)やLTPの形成におけるIP3誘発性のCa2+遊離の役割に関しては、これらの系に細胞外からのCa2+流入経路の存在が確認されているので、本発見である細胞内Ca2+は、補助的な役割に終わる可能性もある。
  受精卵および卵割におけるIP3受容体の役割に関する研究は、本グループが世界の先導的展開を担っているが、現在のところその対象はマクロ的である。その機構には種々の因子の関与が予想され、機構解明は長期的な研究となろう。また、細胞周期と対応する遊離オシレーションや卵割時の分裂溝に沿うCa2+波の研究を、今後は生物学的意義の解明にまで高めることが期待される。
(3) 細胞機能分子制御グループ
 細胞機能におけるCa2+動態は、細胞内だけでなく細胞外からの流入も重要である。本プロジェクトの主眼である細胞内Ca2+の意義を明らかにするためには、P/Q型などの特定の電位依存性Ca2+チャネル欠損マウスの早急な作製とそれを用いた研究が望まれる。
プロジェクト全体を見たとき、IP3誘発性Ca2+ 遊離をアッセイできる細胞系(マイクロインジェクションと画像解析が可能な)は有力な手段を提供するだろう。
  本プロジェクトが得た諸成果の意義づけにおいて、プロジェクトは今岐路にたたされている。本プロジェクトの出発点は、小脳プルキンエ細胞内に同定されたIP3Rである。しかし、IP3による細胞内Ca2+の動員現象は、神経系に特別なものでなく、むしろすべての細胞の機能に必須なものとするのが現在のところ自然な考えである。本プロジェクトが開発したIP3受容体欠損胚細胞は、増殖・分化し、個体として25日間生存した。また、この遺伝子ノックアウト動物のどの細胞でも、Ca2+動員はまったく観測されない。このことは(もし正しいとすれば)、IP3受容体なしに細胞は正常に機能し、増殖・分化することを示し、一般常識だけでなく、本プロジェクトの成果の一部とも見かけ上矛盾をはらんでいる。本プロジェクトが行ってきた3つのグループ間の共同研究を通して、緊急にこの点の検討を行うよう期待したい。本プロジェクトで可能な方法論は多彩で複合的ではあるが、場合によっては、他の専門家からの意見や協力、時には共同研究も有効であり、本プロジェクトにおいては電気生理学がそれに相当すると思われた。
3. その他
(1) 評価の指標
 評価の指標として、「芽」という表現は適切である。革新的であればある程、その実証、有用性の証明には多数の実験事実の積み上げが必要で、5年間では「芽」が創出できるのみで、その芽が正しいという実証のためには5年間はあまりにも短すぎる。
(2)研究員
 本事業は「人」中心でありながら、同時に異分野集団であることを要求している。したがって、グループリーダーは、若手ながら10年前後の経験をつんだ優秀な研究者でなければならない。総括責任者は、5年間という将来の保証もない身分の優秀な研究者を異分野から発掘してくる必要があり、その作業がそれほど容易でない。かつまた、5年の時限雇用が、そうした経歴の研究者を正当に処遇することになるかは、おおいに疑問を感じるところである(5年の時限が奏功するのは学位取得直後の研究者に限られよう)。
(3)施設・設備
 本プロジェクトでは、カエルやゼブラフィッシュの飼育施設も含めて分子レベル、細胞レベルの研究のための機器、設備に関しては申し分ない。一方、遺伝子改変マウスの評価手法の鍵というべきノックアウトマウスの施設は、実験室借用という事業の仕組みから、不可能である。今後の支援体制の改善を期待したい。

This page updated on December 8, 1999
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